七
長門から放たれたスタンダードミサイルが、白い尾を引きながら空を昇っていく。その光景は、どこか優美さが感じられたが、それに見とれている時間的余裕はなかった。
「くそ、黒沢の奴め。また、独断か。今度こそ懲戒免職にしてやる。覚悟しやがれ」
自分の横で、軍人とは思えない口調で毒づいたのは、艦隊司令の秋山だった。不機嫌になった秋山は、チャーチルのように周りに当たり散らす。
そのとばっちりを受けないよう、本山はその場から少し体を離した。
確かに、艦隊司令に伺いを立てない戦闘行動は、明らかな独断専行だ。だが、レーダーの回復が長門のみで、情報を長門からの発光信号に頼っているだけの状況ならば、いたしかたがないのかもしれない。
そして、目の前に現れた旧日本海軍らしき大艦隊と、こちらへ向かってくる旧米軍のレプシロ機の集団を並べて見た時、どういう行動を取るべきかは本山にとっても明らかだった。
「司令、黒沢艦長の決断は正しいかもしれません。本艦も、早急に光風を発艦させるべきです」
なんともいえない顔で、空を睨みつけている秋山に進言すると、彼は息を一つ吐き出した後、こちらを向いた。
「どう思う、本山。アメリカは我々にとって、敵なのか」
返す言葉が無かった。日米安保が解消されたとは言え、我々二一世紀の日本軍にとって、アメリカ軍は肥大する中国と共に闘う戦友であった。
そのアメリカと剣を交えるのに気が引けるのも事実であり、このまま素直に攻撃を行っていいのかという考えが頭をよぎった。
それでも、こちらに向かってくる米軍機が明確な攻撃の意思を持っていることには変わらなかった。
「こちらに対する攻撃の意思があると判断する限り、迎撃の態勢を整えるべきです」
秋山の目を見て、きっぱりと言い切った。彼は納得したらしい顔で頷いた。
「光風を発艦させろ。全艦に発光信号、艦の機能が戻り次第、各個で防空戦闘を行え。艦長、操艦を頼む」
本山は、「了解」と短く返して、長門のミサイルが吸い込まれていった空を見つめた。