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明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

 霧が晴れた直後、相間たち艦橋にいるものは言葉を失った。太陽にきらめく波間に、大量の破片と重油が広がっていた。幾本ものどす黒い筋が、青い海に漂っている。その間に、ゴマ粒のように人の頭が浮いているのが見えた。

 艦内に衝撃が走る。おそらく、海に漂っている破片にぶつかったのであろう。その衝撃が何度もあることから、沈んだ船が多いことがわかった。

 突然、索敵員が声を上げた。

「艦長、不明艦より返信です」

それに黒沢ではなく川村が食いついた。正面の窓から離れて、左舷の方へ駆けて行く。相間はその後ろについた。

 長門と飛龍に挟まれた不明艦は、第二次大戦型の駆逐艦だった。細い艦体は、その向こうにある空母とは比較にならない。

「不明艦発、本艦ハ大日本帝国海軍所属駆逐艦シマカゼ。現在地ハ北緯十六度、東経一二三度付近ト思ワレル。貴艦ハ大丈夫ナリヤ」

発光信号を解読し終わった索敵員が叫ぶ。大日本海軍と言うワードに、相間は背筋に冷たいものが走るのを感じた。いつの間にか自分の後ろに立っていた黒沢が、艦橋中に響く声で言った。

「海図照会、早くしろ」

背中で動く要員達を感じながら、シマカゼに注視する。見れば見るほど美しく無駄のない艦体は、全身で日本の建造した艦であると主張していた。

「海図によると、不明艦の伝えてきたところはフィリピン沖です」

命令に返ってきた答えを聞いた黒沢が、引きつった顔をこちらに向けた。同時に顔を見合わせた川村と相間の脳裏には、ある仮定がよぎる。それを打ち消すように、艦内電話のブザーがなった。

 電話に出た三尉はすぐに黒沢を呼ぶ。電話をかわった黒沢は半分茫然とした顔で、電話の向こうで怒鳴っているであろう川村に答えていた。

 もう一度、シマカゼに目を戻した。あちらも機関が停止しているようで、こちらと同じように艦の動きを波に任せている。

 再び、その華奢な体から発光信号が発せられた。

「文面です。貴艦隊ニ警告スル、本海域ヨリ退避セヨ。繰リ返ス、本海域ヨリ退避セヨ。現在、我ガ艦隊ハ米海軍ト交戦中ノ為、貴艦隊ニモ被害ガ発生スルコトハ確実ト思ワレル」

発せられた発光信号を索敵員が訳す。その文面の中に、目の前に現れた艦隊の答えがあった。文面から推測する限り、目の前にある駆逐艦は『島風』だ。

「返信だ。心遣い感謝す。貴艦の艦長の名をこう、だ」

了解と言って索敵員が投光機に取りつく。返信が終わった直後、後ろから黒沢の硬い声が響いてきた。

「みんな、聞いてくれ。CICからの報告だ。大戦時のアメリカ軍機がこちらに向かっているようだ。機数は約百三十。総員、対空戦闘用意」

黒沢の命令は短かったが、その口調は本気だった。


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