四
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この島風と同じ速さで動く影は、山のようにたたずんでいる。その影が艦であるということに気がつくのに、さほど時間はかからなかった。影も我々と同じように、機関が停まっているらしい。その証拠に相手の方からも、機関の動く音はまったく聞こえてこなかった。
島風より一回りをゆうに超えている影は利根クラスの重巡のようだ。おぼろげに現れた輪郭に、副官の笹内と共に食らいついた。
すっきりとした艦橋構造物の先端にのびた細い棒は、どこか頼りない。すると、後ろから索敵員が上ずった声で叫んだ。
「左舷にさらに巨大な影あり。形状からして、おそらく空母」
それに反応して城島は左舷に移った。
反対側の窓に顔を寄せると、確かにそこには影があった。その大きさは島風など比ではない。
空母らしき影をみていると、うっすらと霧が晴れてきた。それに伴って、ぼやけていた輪郭がしっかりとしてくる。そこにあったのは明らかに空母だった。飛龍並みの大きさがある。
その時、右舷にのこって窓の外から目を離さなかった笹内が大声をあげた。
「艦長、発光信号です。我、日本国海軍特設艦隊所属巡洋艦長門、貴艦ハ現在地ヲ把握シテオルカ」
信号の内容を笹内が言い終えると、艦橋内の空気が固まった。皆、表情が凝固したまま全く動かない。
少し間が開いて、もう一度笹内の声が響いた。
「不明艦、繰り返します。・・いえ、文面が変わっています。我、貴艦ノ名ヲコウ。貴艦ノ国籍モコウ。我漂流中、繰リ返ス、我漂流中、現在地ヲコウ」
必死の文面だ。おそらく自分たちの返答が遅く、焦れたのであろう。
だが、漂流中とは理解に苦しむ。いざとなれば天測でもすればいい。それなのに漂流中とは意味が不明だ。
次の瞬間、霧が完全に晴れた。一同の顔が驚愕の色に変わる。そこにあったのは堂々たる陣容の機動艦隊だった。