三
これから長い間お願いします
豊後水道を抜けたあたりで突入した台風は、案外すんなりと自分たちを通してくれた。暴風圏にはいった時、星龍と信濃がぶつかりそうになるハプニングがあったものの、それ以外に目立った支障はなく、順調に航海の予定を消化していた。
第二護衛艦隊が通過したルートを追うように、特設艦隊は進む。台湾海峡を抜け、南シナ海に達した頃、うるさいハエのように食いついていた中国の原潜が離れた。その原潜を追い回して遊んでいた雪風と島風は南沙諸島に差し掛かった今は、暇そうに時間を持て余している。
すでに第二護衛艦隊は演習の予定地であるベンガル湾に着こうとしていた。彼らはその地で事前の予行演習を行うつもりなのだ。万全の態勢で、自分たち特設艦隊を迎え撃つために張り巡らされるであろうインド海軍の潜水艦隊の排除が勝利へのネックとなる。それをわかった上で雪風たちは中国の原潜を追い回していたのだ。おそらく、中国からは厳重な抗議が来るだろう。
それよりもまず、と言って艦橋に登ってきた黒沢はいつも通りの穏やかな顔をしている。その後ろからは、CICにこもりっきりの沢口が顔を出した。そこに航海長の川村が食いつく。
はっきり言って、この二人とは高校からの腐れ縁だ。大学時代、沢口が普通の大学に行ったため離れたが、結局一般幹部候補で入隊した沢口と同じ船になった。この三人で同じ船に乗るのは初めてだが、同じ艦隊の所属になったことは何度もある。
その二人が外を見ていた自分の隣に来て立つ。沢口は雄大な景色に目を奪われているようで、外に向けた目を動かそうとしない。川村は黒沢と何かを話しているようだった。
その時、電話の呼び出しが鳴った。受話器の近くにいる隊員が電話を取り、黒沢に渡す。その表情がうなずくたびに青くなっていくのがわかった。表情にゆとりをなくした黒沢が艦三役に声をかける。
「いいか、落ち着いて聞いてくれ。CICからの報告だ。ベンガル湾の第二護衛艦隊と連絡が取れなくなった。それに日本本土ともだ。GPSも使用不能になった。つまり、我々は漂流した」
それに川村がかみついた。
「なぜです。南沙諸島の近くならそこに寄港すればいいではないですか」
それに対して黒沢が苦しそうに答えた。その答えに不安を覚える。
「違うんだ。機器がダウンしたわけではないんだ。機器はいたって正常なんだ。相手がいないんだ」
相間の直感は当たった。次の瞬間に索敵員の声が響いた。
「霧発生。視界ゼロ。本艦の位置確認できません」