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十三

 長門副長の後ろに座っている男の言い出したことは、頭の軸がぶれているとしか表現のしようが無かった。

 艦隊の秋山司令の言った「目的が不明」の部分に噛みついたのだ。何を考えているのか全く分からない。それは、自分がこの艦隊と無関係な人間であることは関係ないようだった。

 なぜなら、この席上に並んでいる他の人間たちも理解できないというように、直立不動で立つ優男を見ていたからである。

「目的が不明とは一概に言えないと思います。歴史には人智を超えたものがあるとしか思えないからです」

城島は思わず、「は?」と漏らしてしまった。客として呼ばれた身分であまりにも失礼だったが、信濃の能村艦長がこちらを少し見ただけで、他の人間は視線を動かすそぶりさえ見せなかった。

「考えてみてください。ミッドウェー、レイテ、真珠湾、日本海。すべてが奇跡的な事情が結果を導き出しています。ミッドウェーでは不意をつかれ空母三隻があっという間にやられてしまい、レイテでは栗田艦隊が突入直前に謎の反転、真珠湾では戦艦を徹底的潰すものの偶然空母はおらず、日本海では東郷連合艦隊長官の誤断と上村第二艦隊司令の英断が合わさって最良の結果を引き寄せた。すべて、何かの意思が働いているかのような劇的な展開や結末を持っています」

真珠湾や日本海はその通りだったが、ミッドウェーは自分たちの知る歴史とは違い、レイテなどは今まさに行われている最中だった。事前に秋山司令とのすり合わせを行っていなければ、城島の頭は壊れてしまっていただろう。

 だが、確かに彼の言うとおりである。我々の知るミッドウェーでは、偶然飛び立った利根の索敵機が敵を発見し、同時に米軍の索敵機もこちらを捉えた。お互いに攻撃隊を発艦させ、こちらは米空母三隻を沈めたが赤城と蒼龍を失った。その際、加賀も爆撃を受けたが、受けた爆弾三発がすべて不発となり、損害を被ることはなった。あり得ないほどの奇跡的なことだったが、どこかで何かの意思が働いていたと考えれば納得がいく。実際、赤城は加賀に幸運をもたらした代わりと言うように、敵弾が命中した直後に燃料タンクに引火したらしく、大爆発を起こして粉々に吹き飛んでしまった。

 それは何かが公平性を保とうとした結果としか思えなかった。

「つまり、歴史には意思があるとでも?」

厳しい口調で自分の右隣に座っていた星龍の本山艦長が、彼に問う。

「そうです。歴史には我々が関与できない意思がある。ゆえに、それを考えればおのずから、我々がこの時代・・・いや、この世界に来た理由も見えてくるはずです」

場の空気が固まった。この場合の凝固は、自分たちには関係が無い。彼ら、アメリカを友好国として認識している者たちだからこそ、現れたものだった。

「結論は早急に出さねばならん。津田二尉の言ったことは一つの真理かもしれない。私は、その真理を受け入れるかどうかを皆に問いたい」

秋山はゆっくりと場を見渡した。その顔には一つの決意があったが、あえてその決意が正しいのかを皆に問うたのだった。

 城島は彼らが同じ日本人であることは理解できていた。だが、彼らの中には自分たちとは違う異質な何かがある。それが、秋山に決意を決断に変えることを躊躇わせているようだった。

 よくは説明をされなかったが、おそらく彼らは、アメリカに負けたのだ。だからこそアメリカと戦うことがどれほどの悲劇を生むのかを知っていて、そしてそれが前に踏み出すことに対して二の足を踏ませているのかもしれない。

「やるしかないでしょう。我々は人間です。このだだっ広い海の上を漂うのはごめんですね」

微笑んでそう言ったのは能村の隣に居た飛龍の進藤艦長だった。彼の言葉に、他の出席者たちは顔を下に向けた。

「そうですね。どうせ、私たちとは関係の無い世界だ。この時点で歴史が違うのならば、将来の歴史が変わることなんて心配しなくていい。やりましょう、長官。私たちの力でこの世界の同胞を救いましょう」

重くなった空気の中で、明るい声が部屋に響いた。その声のした方に目をやると、座っていてもひときわ大柄だと分かる男が笑っていた。確か、その男はこの星龍飛行隊の隊長だったか。

 それに応じて皆が顔を上げ、首を縦に振った。

「決まったな。それでは、我が艦隊はこれより連合艦隊に合流し、彼らに協力することとする」

秋山の強い言葉に異論は出なかった。彼らの力添えさえあれば、我が日本は勝てる。城島はそう思い身が震えた。


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