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十一

 星龍の士官室に足を踏み入れると、秋山がこちらを強い視線で睨みつけてきた。いくら黒沢の代わりに来た人間だとしても、本来彼に向けられるべきである視線を受ける筋合いは無かった。

「長門副長、相間です」

相間が自分の存在を述べるのに倣って、津田も同じように頭を下げた。なぜこいつまで共に来たのか理解できなかったが、黒沢の命令に逆らう気は毛頭なく、何か考えがあるのだろうと自分を納得させてから星龍のところまで来たのだ。

 飛龍艦長の進藤の横に座り、信濃艦長の赤石と向きあう。津田は自分の後ろに置かれたパイプ椅子に腰を下ろした。進藤と本山の秋山側に空きが二つある。誰がそこに腰をかけるのかが気にかかる。だが、何も言わずに秋山の方を向いて、相間は息を深くはいた。

 席次の最上位に位置し、テーブルをはさんで二列に分かれた各艦長や艦隊参謀を一度見渡した秋山は、軽い咳払いをして口を開いた。

「これで全員そろったな。入ってください」

その声に呼応し、今さっき自分が入って来たドアが開いた。そこから、二人の旧海軍の制服に身を包んだ将校が顔を出す。

「あちらは能村克己海軍大佐、帝国海軍空母信濃の艦長だ。そして、城島正興少佐。駆逐艦島風の艦長だ。我が艦隊への意見をいただくためにお呼びした」

秋山の紹介に二人は同時に頭を下げた。そして、先導の三曹に連れられて秋山のそばの席に落ち着いた。

 驚いたことに、我々の艦体のど真ん中に取り残されていた旧海軍の艦艇の指揮官が、この会議へ出席をしていた。普通ならあり得ない話である。

 どういう風の吹き回しかは分からないが、今後の事を考えるならば得策かもしれなかった。

「現在、我々は西暦一九四五年にいると思われる。彼らの話を聞く限り、この世界の日本は我々の知る大日本帝国とは大きく違っているが、アメリカとの戦争は日本が劣勢であり、いまはフィリピン攻略を目的とするアメリカ軍に対する陸海軍合同の撃退作戦を行っている最中だそうだ」

秋山はそこで言葉を切る。息を吸い込んだ後に続けた。

「我々は米艦載機を撃墜した。これは紛れもなく、この世界の米国に敵対することになる。だが、本当にこのままこの世界の日本に味方をしてよいのだろうか。そのことをこの会議で話し合いたい」

それに旧海軍を代表して出向いている二人は、何も言わなかった。助けておいてあまりにも身勝手な言い分であったが、彼らはこちらの状況に理解を示しているらしい。先手を打って秋山が手を回したのだろう。

 艦隊司令の投げかけに、議場はざわめき始めた。各々が隣と言葉を交わし、意見の投げ合いをしている。

「司令、我々は元の世界に戻れるのでしょうか?」

今まで誰も口に出さなかったことを表にしたのは、雪風艦長の三浦だった。彼の表情は蒼白で、明らかに精神が不安定な状態に陥っていた。

「この世界に我々が来た目的・方法共に不明だ。その状況のなかでは帰れないと見て行動するのが得策だろう」

秋山の答えに彼は何か反論をしようとした。だが、口を開きかけたところで諦めたようで、視線を下に落とした。

「一つ、意見があります」

津田が鎮まったところで、片手をあげた。秋山は津田に視線を向け、「何だ」と返す。それに津田が立ち上がった。

「先程、秋山司令は我々がこの世界に来た理由が不明だとおっしゃいましたね。果たしてそうなのでしょうか?」

何を言っているのだ、こいつは。津田に集まった視線のすべてが無言でそう言っていた。相間自身も津田の言わんとすることが半分も理解できない。彼の頭の中の次元が周りより二つぐらいずれていたが、ここまで不明なこと言い出すとは思わなかった。

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