短編 90 VRゲームで行くドラゴンさんと北海道旅行
可愛いドラゴンさんを出したかった。ただそれだけの理由でこの短編は生まれたのだ!
そう! 私の趣味だ!
では本編どうぞ。
ペットと行く疑似世界冒険RPG。
そんなVRゲームに自分は嵌まっている。
現実世界とリンクした別世界をペットと共に冒険するというちょっと変わったゲームだ。現実ではペットなんて飼えないので、せめてゲームの中だけでも。それが切っ掛けだった。
「あるじー。魔物が出たどらー」
パートナーのペットはナビとしての役割も持たされる。喋るペットというのも中々に良いものだと思う。
「……あれは普通の老婆に見えるんだが?」
示された方。路上を普通に歩いている老婆が居た。一見すると普通の老婆だ。老婆っぽい地味な服を着た腰の曲がった老婆。つまり老婆だ。カート等は引いていない。杖もない。
今居るここはウエスタンな街の丁度出口となる。
……通行人じゃないのか?
「あれは『当たり屋ババア』どらー。体当たりしてきて慰謝料を請求する魔物どらー」
「……このゲームのデザイナーはどんな人生を送って来たんだ?」
街の出口にたむろする魔物って。しかも当たり屋のババアとか。
「そういうのは無視するどらー。あ、こっちに来たどらー……怖っ!?」
老婆がケタケタと笑いながらアスリート走りでこちらに近付いて来る。曲がってた腰は真っ直ぐだ。フォームが超綺麗。
……ここ街中なんだけど?
「戦闘準備……というか発射」
ドパン! そんな音が手元で発生した。このゲームの主武器は何故か銃だ。ここはウエスタンな街だが他の街はファンタジーが主流。
「うぎゃぁぁぁぁ! よくもぉぉぉ! よくもやってくれたなぁぁぁぁぁ! 金払えぇぇぇぇ!」
足を撃たれた老婆は倒れ込み地面に長い轍を作った。ここはゲーム内世界。地面はむき出しの土である。
派手に転んだ老婆……魔物は土まみれとなった白髪を振り乱して怨嗟の声をあげていた。これは怖い。大丈夫か? このゲームは全年齢仕様だぞ?
「怖っ!? あるじ! 超怖い! なにこれ!?」
「……うーん。鬼ババアだな」
何発も追加で撃っておく。振り乱した髪で顔が見えないのが唯一の救いだろう。顔面とおぼしき所に連射でぶちこむ。
これ、本当に全年齢なのか不安でしょうがない。
「ぎゃぁぁぁぁぁ! ひろしバンザーイ!」
ひろし……だれ?
鬼ババアは叫びながら爆散した。派手な死に様だ。確かにこれは全年齢。日曜の朝によく見た光景だ。
そんなことを思ってると相棒が報告してくれた。戦闘終了のリザルトだ。
「倒せたどらー。経験値ゲット。お金ゲット。アイテム……ババシャツゲットどらー! 女性専用装備どら?」
相棒が見上げてくる。その円らな瞳に浮かぶのは期待の色だ。
「……いや、着ないぞ? 売るしかないだろ」
なんだかこっちが追い剥ぎした気分になるのは気のせいか。
「ちぇー。着たら面白いと思ったどらー」
いい性格してやがる。
でもこいつが自分の相棒だ。
種族は『ドラゴン』(自称)となる。
語尾が特徴的なのだが、パッと見、大きめの蜥蜴にしか見えない。イグアナサイズと言おうか。
それが二足歩行で立っている。イグアナが立ってる感じだ。小さなリザードマンにも見える。羽根はない。そして火も吐けない。
初期設定でペットをランダム指定にしたらこいつが当たった。運が良いと象も当たると聞いたのでチャレンジしたのだが……ドラゴン(自称)なので大当たりなのかも知れない。火も吐けない羽根の無いドラゴンだけど当たりだろう。魚よりは遥かに当たりだ。
多分ドラゴンじゃない気もするが本人はドラゴンだと言っているからドラゴンなのだろう。きっと。
「あるじー。今日はどこまで冒険するどらー?」
「飛行船に乗りたいから乗り場まで行っとくか。羽田までは……かなり遠いな」
ここはゲーム内。当たり屋ババアが出没するようなVRゲーム内だ。でも地理的なものは現実世界にリンクしている。
ここ、ウエスタンな街の正式名称は『横須賀ウエスタン』だ。何故か横須賀はウエスタン仕様になっている。他の街は大体が剣と魔法のファンタジーなのに。
舶来の街。そういうことなのかもしれない。港街横浜はダンジョンの街になってるが。
現実では電車に乗って羽田に行く所だが……ゲーム内に電車は無い。歩くか馬車か。もしくは泳ぐか。
横須賀から羽田はかなり遠い。一番近いルートが海経由。でも海には魔物が沢山出る。
「あるじー。走るどらー?」
「そうだな。いや、あせることもない。歩こうか」
ゲームであくせくしても仕方無い。のんびりまったり行くとしよう。横須賀から羽田まで。半島をゆっくり北上だ。ひとまずは文庫、八景、屏風浦。そして微妙な位置の上大岡。そこから横浜へと向かってのんびり徒歩の旅だ。
横浜には巨大なタワーがそびえ立つ。それを目印にすれば横浜までは迷うこともない。
ランドマークにもなっている『横浜迷宮塔』は横浜名物だ。横浜というか桜木町なのだが。
横浜は『横浜地下ダンジョン』が有名か。赤いくつを履いた幼女に遭うと必ず死ぬ。それが『横浜地下ダンジョン』だ。死神みたいなレアモンスターらしいのだが、ロリコンには堪らないらしい。
今日も横浜はロリコン達で大賑わいだろう。あの街も変わったものだ。
「……あのね、あるじ。この辺『当たり屋ババア』の巣が沢山あるどら?」
「……なに?」
この時俺達は丁度街からフィールドへと足を踏み出している時だった。そしてどこからともなく聞こえる奇声。
「きぃやははははははは!」
「かねかねかねかねぇぇぇぇぇ!」
「若いおとこぉぉぉぉぉぉぉ!」
ウエスタンな街を背後に嫌な気配が街道から立ち上る。街は作り込んでいるが、フィールドは結構手抜きだ。横須賀なのに赤土の荒野が続いている。まさにウエスタン。
このゲームのエンカウント方式は二種類ある。シンボルエンカウントと突発エンカウントだ。さっきの徘徊してたババアがシンボルで、今まさにぶち当たっているのが突発エンカウントだ。
突発と言っても本当に突発ではない。何かしらの前兆はあるのだ。今も周囲から聞こえている奇声のような。
「……囲まれてるどらー」
相棒の円らな瞳からハイライトが消えていた。こうなると、もう街には入れなくなる。戦闘確定。
「諦めるのが早い! 走るぞ! 捕まったら……多分食われる」
特に相棒はトカゲそのものだ。鬼ババアには食料、いや、おやつに見えるだろう。実体化して囲まれる前に突破して……他の街まで逃げ続けるしかない。
「あるじー。来世は女の子のあるじがいいどらー」
相棒は現実逃避に必死だ。無駄に可愛い。
「バカな事を言ってないで走れー!」
「お逃げでないよぉぉぉぉぉ!」
「来たどらー!」
こうして横須賀鬼婆マラソンは始まった。ダース単位の鬼ババアに追われながら三浦半島を北上する愉快なデスマーチ。景色を楽しむ暇もねぇ。
横須賀ウエスタンの街は人気がない。何故人気がないのか、ようやく分かった。ババアの巣だからだ。金沢文庫、八景。ここの街に着いても鬼ババアの群れは追いかけてきた。ババアしつこい。
八景島を遠くに眺める事が出来る宿で一度休憩。海は青くて、でっかいな。ようやく景色を楽しむ余裕が出来た。徒歩にしては、かなりの距離を一日で稼いだ気がする。
海の向こうに見える八景島……八景島ワンダーランドというカジノがここにあるのだが、寄ってる余裕は多分ない。
ペットと一緒に旅するRPGなのに鬼ババアに追われるパニックホラーゲームになってしまった。鬼ババア達は街の外で今も自分達を狙っている。なんだこのしつこさは。
「あるじー。疲れたどらー」
「今日はここでログオフだな」
宿のベッドの上でドラゴン(自称)と横になる。お腹の上にドラゴンが乗ってきた。なんか……しっとり。見下ろしてくる円らな瞳に胸キュンが止まらない。
「一応リザルトどらー。当たり屋ババアを五体撃破。十七体にダメージ。経験値ゲット。お金ゲット。戦利品でババアの入れ歯を三つゲットどらー…………使う?」
首を傾げて可愛さアピールもされた。
「使わぬ!」
「ちぇー。ババアと濃厚間接キッスで楽しいと思ったどらー。一応口から飛ばせる暗器カテゴリーどら?」
……入れ歯を飛ばすのか? このゲームのデザイナー……本当に大丈夫なのだろうか。
逃げながら適当に撃ちまくっていたのだが、予想外なほどに結構な数を殺れていた。多分転んだババアを後続のババアが轢殺したのだろう。入れ歯しか手に入れてない事からババシャツは意外とレアなアイテムだったのかも知れない。
「あ、レベルアップどら~! スキルを覚えたどらー!」
腹の上でドラゴンがバタバタと踊っている。可愛い。
「ほぅ。どんなスキルなんだ?」
このゲームはプレイヤーのリアルセンスに依存する傾向が強い。それはゲームで使える『スキル』が滅多に手に入らないという理由による。
だが一度『スキル』を手にすればまさに別ゲーのようなプレイが出来るのだ。魔法とか目からビームとか。
やはりデザイナー……お前が犯人か。
自分はそこまでのガチ勢ではないので拘りはないが、それでも少し興奮してしまう。
一体なんのスキルなのだろうか。
「どぅるるるるるるるる……じゃじゃん!」
……口でドラムロール? 器用なドラゴンめ。
「今回ゲット出来たスキルは……『ババアハンター』どらー! ……ババアハンターどら?」
高らかに宣言した本人が何故か一番困惑していた。
「……どんなスキルなんだ?」
「ババア属性に与えるダメージが増加するどら。あとアイテムゲット率も上がるどら」
……すごく微妙な気分だが、当たりスキルな気もする。対象がババア限定だが持ってて困る事もなさそうだ。すごく限定的なスキルとしか思えんが。
「あ、でもババアに好かれて追いかけ回されるようになるどら。ババアフェチには堪らないってレビューが入ってるどらー!」
「それでババアに追いかけられてるのか!?」
ババアのハンターではなくババアにハンターされるのか!?
謎は全て解けた。レビューは無視だ。どんな変態だ。もしかして鬼ババアを最初に倒した時点でゲットしていたのかも知れない。
「あるじー……ナビチェンしよ?」
ちっこいドラゴンが潤んだ瞳で見下ろしてくる。相変わらず腹の上のドラゴンだ。めんこい。
「そこまで怖かったのか?」
ナビチェンとは文字通りナビをチェンジすることだ。種族はそのままにナビのキャラクター、つまり人格だけを変えることが出来るのだ。
自分好みのキャラクターを求めて今日もナビチェンリセマラが行われる。特に人気なのはヤンデレ系妹だそうだ。自分はそういうの嫌いなのでパスだ。
「ナビチェンはしない。北海道に行きたくないのか?」
「行きたいどらー! カムイコタンで邪竜に進化するどらー!」
腹の上のドラゴンがバタバタと踊っている。やはり可愛い。
そう。これが自分達の当座の目標なのだ。
遥か北の大地。
魔神が棲むと言われたカムイコタン。そこに辿り着けたトカゲは竜に成れるという。
……トカゲ。
まぁ邪竜でもドラゴンには変わりない。今の可愛い相棒も良いんだが、格好いいドラゴンも捨てがたい。
「ババアごときに怯んでいるようじゃドラゴンへの道は遠いぞ」
「ううっ……我慢するどらー」
こうしてこの日はログオフした。願わくば街の外のババアが消えていますようにと淡い希望を抱きながら。
そして次のログイン時。
リアルでは二日が経っていた。仕事の都合と家庭の事情でゲームに手を出す余裕が無かったのだ。
あわよくばババアが消えてるかなーと思ったのだが……。
「あるじー! お帰りどらー」
「……ああ、ただいま」
金沢八景の街にある宿。そこに自分はログインした。前回はここでログオフしたので目が覚めるのも同じ場所となる。これはこのゲームの絶対ルールだ。なにかしら問題が起きない限り、そのルールは決して変わらない。
「……」
宿の部屋。そしてベットの上。前回ログオフしたときと同じ光景だ。窓の外には綺麗な青い海と八景島が見えている。
「……で、こちらの方は?」
相棒に聞いてみた。床でラジオ体操している相棒に聞いてみた。
部屋に知らない人がいる。正直びっくりして悲鳴をあげるとこだった。だって天井に張り付いてるんだぞ?
ベットの上でログインしてすぐに目が合ったんだぞ?
天井に張り付いてる幼女と。
「ロリババアどらー。なんかロリコンに追われ続けて疲れたって言ってたどら」
屈伸する相棒はそう言った。
そう。天井に張り付いていたのは赤いくつを履いた幼女……いや、靴は脱いでるから普通の幼女か。
真っ赤な瞳の白ゴスロリ幼女が天井に張り付いていたのだ。足は白タイツだ。赤いくつじゃない。
吸血鬼かと最初は思った。
「今日はお休みでカジノに遊びに来たって言ってるどらー」
「……」
天井に張り付いている幼女が無言で頷いている。無口という設定なのだろう。
赤いくつを履いた幼女のスクリーンショットは結構な数でネットにも上がっている。
なので自分もレアモンスター『赤いくつを履いた幼女』がどんなものか知ってはいたのだ。今は白タイツの幼女だけど。
長い黒髪に白のゴスロリドレス。赤い瞳をしていて赤いくつを履いている。そして目が合うと死ぬ。
それが横浜地下ダンジョンに現れるレア幼女『赤いくつを履いた幼女』なのだ。
ロリコンなら絶叫する可愛らしさ……らしい。確かに目の前にいる幼女は可愛いが……天井に張り付いてると別の意味で絶叫してしまうな。
「で、彼女は何故にこの部屋の天井に?」
「お財布を探してるどらー」
相棒の返答に合わせて幼女が何度も頷いている。
……財布?
何処かに落としたのだろうか。
「……カジノで財布になるパトロンを探してるどらー」
「悪女か!」
天井の幼女はニヤリと笑みを浮かべていた。
レアモンスター
赤いくつを履いた幼女。
レベル ?
特性 ゴスロリ
特記事項 悪女
そんなわけで八景島にやって来た。八景の街から船が出ているのでそれに乗ったのだ。ゲーム内に電車はない。なので船だ。豪華なフェリーで少しビビった。
「あるじー! 入れ歯売ってきたー! 軍資金がたんまりどらー!」
「……」
トカゲのようなドラゴンと幼女のようなゴスロリ幼女が手を取り合い踊っている。ここは八景島の船着き場。八景島ワンダーランドの入り口だ。木製の桟橋で歩くとコツコツ鳴るのが少しお洒落。
幼女の軽快なタップダンスが辺りに鳴り響いている。トカゲのステップはフニフニ言ってる。可愛い。
大きな橋にも見えるこの桟橋。かなり大きな桟橋で沢山の人がフェリーから降りて八景島ワンダーランドへとぞろぞろ歩いていく。みんなギャンブラーなのだろう。その背中に死神が見える。
不思議なもので、有名幼女であるはずのゴスロリ幼女が他のプレイヤーに注目もされていなかった。フェリーの上でも同様である。
幼女も今日は休日と言っていたので何かしらのシステムが働いているのだろうと一人納得する。
まぁみんな幽鬼のような顔つきをしていたので普通に気付いてない可能性も微レ存か。
ここの桟橋にはキャッシャーがあった。小さな売店のような小さなキャッシャーが建てられていた。
……カジノだ。普通にカジノで怖い。
初めてここに来る人はこの小さなキャッシャーを利用する事になる。二度目からは島の中であれば、どのショップでも交換出来るようになるらしい。搾り取る気満々だ。
船から降りたプレイヤーで桟橋のキャッシャーに並んだものは居なかった。みんな常連ギャンブラーだ。
怖い。普通に怖い。
八景島ワンダーランドでは現ナマが使えない。カジノで遊ぶにはカジノコインを使用することになる。キャッシャーで交換して島で遊ぶ。そういう感じらしい。
現ナマが無い人用に普通のショップもある。キャッシャーの隣にな。売買レートは普通の街と同じなので良心的と言える……のだろうか。これからカジノでがっぽり取られることを考えると恐ろしくてたまらない。
身ぐるみ全部剥がしてやろうという強い意思をこの店の並びに感じてしまう。
「入れ歯はレアアイテムどらー! 金歯に銀歯でうっはうはどらー!」
トカゲと幼女はまだ踊っている。ご機嫌だ。
……まぁ、あぶく銭と考えれば良いのかも知れない。
この桟橋から島に続く道には足元の板にも電光装飾が散りばめられていて、まるで遊園地のような華やかさだった。
……破産しないといいなぁ。
きらびやかな光を見ながら、そんなことを思う。
そんなわけでお金が全部カジノコインになった。すっからかんだ。完全に。
幼女とトカゲは仲良く手を繋いで八景島ワンダーランドへと繰り出して行った。外観は完全に遊園地なカジノへと。
自分は桟橋に居残りである。
別に自分だけカジノに出禁というわけではない。
「若いおとこぉぉぉぉぉ!」
「啜らせろぉぉぉぉぉ!」
「遊園地デートしようじゃないかぁぁぁぁぁ!」
そう。ババア達の襲来である。
自分のいるここ、八景島ワンダーランドの桟橋は一応海との境界になる。だから魔物も普通に桟橋には乗れるのだ。一応戦闘フィールドなので。
「うぎゃぁぁぁぁ!」
乗るそばからドパンドパンと海へと撃ち落としてますが。
海に落ちてそのまま溺死して欲しい所だがそうはいかない。彼女達は驚きのマーメイドなのだから。
マーメイド種の中でも浅い海に出る『マーメイドシルバー』と呼ばれる魔物になる。
そう。シルバーだ。
……老婆なのだ。
実はフェリーに乗ってる時からずっと追いかけられていた。桟橋なら平気かなーと思ったが甘かった。相棒は「頑張るどらー」と残して自分を置いて遊びに行った。
……とりあえず近くに売店もあるので、このモヤモヤした気持ちを全て魔物にぶつけてみようと思う。
売店では無料で弾薬の補充が出来る。無論一番弱い弾になるが。だが、それで十分だ。
「若いおとこのぉエキィスゥゥゥゥゥゥ!」
桟橋に上がる瞬間を狙い、頭を撃ち抜く。ヘッドショットにはノックバック効果も付いている。クリティカル扱いでダメージも跳ね上がる……のだが。
ノーマルモンスター
マーメイドシルバー
レベル 28
特性 恋愛脳 むっつり
特記事項 生涯独身
レベル差がありすぎて中々倒せない。ヘッドショットを30発ぶちこんでようやく倒せる程にタフなのだ。
ババアハンターのスキルが無ければ完全に詰んでいただろう。いや、このスキルがあるから今があるのか?
ドパン!
「うごぉぉぉぉ! おとこのぉしりぃぃぃ!」
老婆なマーメイドが海面へと落ちて派手な音を立てる。背後からもマーメイドシルバーは上がってくるので油断が出来ない。
売店のNPCもドン引きするような修羅場は長く長く続いた。
それこそ空が紅く染まるまで。
……海はわりと早く真っ赤になった。人魚の血は赤いらしい。
「あるじー! ただいまー!」
「……おぅ」
夕日に照らされる桟橋に座り込んでいると相棒の明るい声が耳に飛び込んできた。顔を上げると、にこにこ顔の幼女も見える。二人とも随分とご機嫌に見えた。
「カジノは楽しかったどらー!」
「……」
幼女もにこにこしながら頷いている。そうか。楽しかったのか。夕日を浴びてなお、彼女の顔は上気しているように見えた。にこにこである。こうしてみると普通に幼女なのだが……。
「あるじー? なんか疲れてるどらー? あ、戦闘リザルトが来てるどら……どら?」
「……さっきまでボスと戦ってたんだ。なんとか凌げたが……倒せてはいないんだろうな」
マーメイドシルバー落とし。まるでミニゲームのような感じだったが途中から変なのが混じってきた。
それは人魚ではなく半魚人だった。
ノーマルモンスター
半魚人
レベル 77
特性 お年寄り 温厚
特記事項 怒るとヤバイ
レベルが違いすぎて倒せない。ノックバックで海に落とすしかないという無理ゲーに移行した。
そしてこの半魚人おばあちゃんは厄介な性質をもってらした。
「むきぃぃぃぃ! なんで抱かせてくれないんだい! あんたぁぁぁ! 出番だよぉぉぉぉぉ!」
半魚人おばあちゃんが仲間を呼んだ。ぶちギレて呼んだっぽい。
そして海面が爆発した。
「……かーちゃん、呼んだ?」
ボスモンスター
マーマンキング
レベル 53
特性 ボス 末っ子
特記事項 魚より肉が好き
だからレベルがさ。
「……まぁかーちゃんを怒らせたあんたが悪いってことで」
「理不尽だ!」
こうして自分は一人で巨大なボスモンスターと戦う事になったのだ。
レベル差がありすぎて攻撃が通るわけもない。桟橋の上は無理ゲーから弾幕避けゲーへと更に移行したのだ。
マーマンキングが魔法主体で助かった。物理系なら多分一撃で終わってた。
攻撃には全て規則性があったのでなんとか避けることは出来ていた。攻撃の隙を突いて何度も攻撃したが無反応。あまりにも無反応なのでカチンと来た。
卑怯とは思うが目を狙わせてもらった。
「ぐわー! お前それでも人間かー!」
攻撃が効いたけど自分のハートにもクリティカルに効いた。
「そんなわけでさっきまでボスと戦ってた」
マーマンキングは泣きながら去っていった。片手に半魚人おばあちゃんを抱えながらな。
「……えっと……レベルが一気に34まで上がってるどら。あ、お金がすごいどら! 戦利品もすごいどら! これなら明日もカジノどらー!」
……トカゲと幼女が夕日を浴びながら踊り出した。軽快なタップダンスが聞こえます。うん。今日はもう疲れました。早く宿で寝たいです。
フェリーで八景の街に戻り、またしても島が見える宿に泊まる。八景島ワンダーランドに宿はない。フェリーは無料で使えるのでそれは良いのだ。
「どらどら~」
「ふんふ~ん」
……何故か幼女も同じ宿の部屋にいる。ご機嫌なトカゲと幼女がベットを占領してらっしゃる。鼻唄は歌えたんだな。幼女よ。足をパタパタするとパンツ見えそうだよ?
一言注意しようかとも思ったが……疲れてたので気にせずログオフすることにした。
北海道は遠いなぁ。そんなことを思いながら。
余談だがこのゲームの新作プロモーションビデオが少し後に作られて話題になった。
こんなことも出来るんだよー。
そんなことを紹介する宣伝CMだ。
そこにはカジノで遊ぶ幼女とトカゲの姿があった。勝ったり負けたり、二人はすごく楽しそうだった。ほのぼの動画である。
そして画面は一転して戦闘映像へと移り変わる。どこかの桟橋の上で巨大な半魚人と戦う一人のプレイヤーの姿へと。半魚人の魔法による猛攻を人間離れした動きで回避し続けるプレイヤー。側転回避しながら銃を放つがその全ては半魚人の肌で弾かれる。
プレイヤーも諦めたのか、動きが急に悪くなる。そこに半魚人が槍を振りかぶり猛烈な勢いで打ち下ろした。プレイヤーはそれを紙一重で掻い潜り半魚人の顔の前へと躍り出る。そして瞬くマズルフラッシュ。
半魚人が絶叫し大きく仰け反った。それを眺めるプレイヤーが獰猛な笑みを……いやいや、こんな風に笑ってねぇし。
そこからは一方的な展開となった。目玉を狙った正確すぎるショットに半魚人が泣き出す場面となり……
『これはやり過ぎだけど、みんなも出来るからね!』
そんな字幕が出てプロモーションビデオは終わった。
……余談だ。あくまでな。
今回の感想。
この百本ノックには度々老婆が悪役で出てきますが、キャラクターとして使いやすいだけで恨みなどは……まぁ色々ありますよ。生きていると色々とね。
ドラゴンさんは可愛いですねー。うふふー。