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物語調の詩/短編

罪の人

作者: 日浦海里

それはいつの頃からか


国と国の境目に一人の男がふらりと現れ消えていく、と

そんな噂が流れはじめた

どこでもない場所

いつでもないとき


一人の男がおりました


麻布を肩からかけるようにして

ぐるりと巻いただけのような

そんな格好をしておりましたが

不思議とみすぼらしくは見えませんでした


はっきりとした意思を持ち

ただまっすぐに前を見据え

どこか威厳すらも漂わせている

そんな男でありましたが

彼は罪の人でした


楽園と言う場所に置いて

彼は一つの罪を犯し

犯した罪を(あがなう)うまでは

決して戻ることは(あた)わず


そう告げられて

荒野に放逐されたのです


贖罪(しょくざい)のための仕事は2つ

贖罪のための(かせ)も2つ


それはとても単純で

それはとても困難でした


2つの仕事は次の事


楽園を守る外つ国(とつくに)の境を

ぐるりと三度巡ること


道の半ばで出会った者の

困り事を解決すること


2つの枷は次の事


困り事を受けたならば

必ず解決しなければならない


境を巡るその道を

外れる必要があるならば

続きは必ず同じ場所から

歩みを始めなければならない


仕事を与えた何者かは

これらの仕事を伝えた上で

男に罪を刻むかのように

最後に言葉を告げました


どれだけ時がかかっても

休むとしても

戻るとしても

それを(とが)めることはないが

決して罪から逃げてはならない

この購いから逃げてはならない


男は無言で頷きました

彼にとっては当然で

断る理由は何もなく

その必要もなかったのです


こうして彼は楽園を出て

荒野を歩む人となり

国を巡る罪の旅を

ただ淡々と始めたのです


救えるものを救えなかった


彼にとってこの旅は

贖罪であり

謝罪の旅でもありました


罪から逃げること能わず

そのようなことは言うまでもなく

男にとっては当然でした


風が吹き抜け砂塵が舞うと

男の姿は書き消えるように

荒野の果てへと

飲み込まれていきました

犯した罪は消えはしない

出来ることは償いだけで

刻まれた傷は消えはしない


それでもこの身で償えるならば


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― 新着の感想 ―
[一言] 「罪の人」であるはずなのに、男からは聖者にも似た威厳と慈悲が感じられるように思います。 課された仕事も枷も、この後多く起こるであろうドラマを彷彿とさせますね。 いつの日か男が仕事を全うし、彼…
[一言]  プロローグのようですね。思わず『本編は?』と尋ねたくなりました。  救えるものを救えなかったことは、本人にとっては罪になるとは思うのですが、他者から見るとそうなのだろうかと。  救わなか…
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