罪の人
それはいつの頃からか
国と国の境目に一人の男がふらりと現れ消えていく、と
そんな噂が流れはじめた
どこでもない場所
いつでもないとき
一人の男がおりました
麻布を肩からかけるようにして
ぐるりと巻いただけのような
そんな格好をしておりましたが
不思議とみすぼらしくは見えませんでした
はっきりとした意思を持ち
ただまっすぐに前を見据え
どこか威厳すらも漂わせている
そんな男でありましたが
彼は罪の人でした
楽園と言う場所に置いて
彼は一つの罪を犯し
犯した罪を購うまでは
決して戻ることは能わず
そう告げられて
荒野に放逐されたのです
贖罪のための仕事は2つ
贖罪のための枷も2つ
それはとても単純で
それはとても困難でした
2つの仕事は次の事
楽園を守る外つ国の境を
ぐるりと三度巡ること
道の半ばで出会った者の
困り事を解決すること
2つの枷は次の事
困り事を受けたならば
必ず解決しなければならない
境を巡るその道を
外れる必要があるならば
続きは必ず同じ場所から
歩みを始めなければならない
仕事を与えた何者かは
これらの仕事を伝えた上で
男に罪を刻むかのように
最後に言葉を告げました
どれだけ時がかかっても
休むとしても
戻るとしても
それを咎めることはないが
決して罪から逃げてはならない
この購いから逃げてはならない
男は無言で頷きました
彼にとっては当然で
断る理由は何もなく
その必要もなかったのです
こうして彼は楽園を出て
荒野を歩む人となり
国を巡る罪の旅を
ただ淡々と始めたのです
救えるものを救えなかった
彼にとってこの旅は
贖罪であり
謝罪の旅でもありました
罪から逃げること能わず
そのようなことは言うまでもなく
男にとっては当然でした
風が吹き抜け砂塵が舞うと
男の姿は書き消えるように
荒野の果てへと
飲み込まれていきました
犯した罪は消えはしない
出来ることは償いだけで
刻まれた傷は消えはしない
それでもこの身で償えるならば