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第五話 金貨借款

本文中の金貨一枚は日本円で約十万円とお考え下さい。

つまり金貨一万枚は十億円。

十万枚なら百億円となります。

ワイバーン、F35より断然お得です♪


「それにしても解せんな」

「そうですね」


 父上さまとウラミス兄上さまはお城の執務室で、人払いをされた上でお話の最中です。私は父上さまの膝に抱かれて、出されたクッキーを食べながらそれを聞いておりました。


「わずか十騎とは言え、ワイバーンを騎兵ごと売りたいなどと言い出すとは……」

「もっとも兵はこちらの練度が十分に上がったら帰っていくことにはなっておりますが」


 不可侵条約締結後、ジルギスタン王国は所有するワイバーン十騎を、一騎当たり金貨一万枚で譲ると言ってきたのです。


 一般兵士の初任給が金貨二枚程度ですので、かなりの高額ではあるのですが、ワイバーンの育成には膨大な時間と労力とお金がかかると言われております。


 そして今回王国が譲ると言っているのは、育成を全て終えた即戦力となるワイバーンです。しかも騎兵を教育するための講師として、熟練の兵士まで貸すとのことでした。


 父上さまと兄上さまが(いぶか)しむのも無理はありません。


「やはり間諜(かんちょう)の情報通り、王国の財政はかなり逼迫(ひっぱく)しているようですね」

「東のベッケンハイム帝国とは相変わらず睨み合っているからな。金はいくらあっても足らんのだろう」


「黒竜がいるので必要ない。半値なら考えると返してみてはどうでしょう?」


「落としどころは八割辺りか。ウラミス、あくどいな」

「いえいえ、父上ほどではありません」


 二人は悪い顔で微笑んでいます。ですがとても楽しそうなので私はその顔、嫌いではありません。


 ところがそんなことがあってから数日後、王国から思わぬ返事が届いたのです。


「一騎当たり金貨五千枚にする代わりに、二十騎買い取れだと……?」

「半値が了承されてしまいましたね」


「王国が所有するワイバーンは全部で五十騎ほどではなかったか?」

「正確には五十五騎です」


「国防の要とも言える空軍をそこまで削らなければならないほど困っているということか」

「有事の際にはこちらに援軍要請すればいいとでも考えているのかも知れません」


「黒竜の援軍を期待してのことだろうな。そんなことをしたら我らも帝国と事を構えることになるではないか。軍事同盟など結んではおらんというのに」


「ちちうえさま、ゔぁしゅきーどのはせんそうにはてをかしてくださいませんよ」

「分かっているとも、シャネリアよ」


 そう言って父上さまは私の頭を優しく撫でて下さいました。


「王国を攻め滅ぼした帝国が数百のワイバーンで我が国に攻めてきたとしても、ヴァスキーダロワ殿には傷一つ付けられないだろう」


「それにワイバーンも馬鹿ではありません。竜族の長であるヴァスキーダロワ殿を見れば、戦わずして逃げ出す可能性もあります」

「こちらに戦火が及ぶ可能性は低いと考えてよさそうだな」


「ちちうえさま、ゔぁしゅきーどのが、わいばーんがほしいなら、せん()はくれてやれると……」

「なっ!? 真か!?」


 もちろん彼の言うワイバーンは黒竜の眷属(けんぞく)ですから従順で、育成にかかる手間も費用もわずかで済むそうです。


 この申し出の見返りが、彼の瞳に口づけということは黙っておくべきだと、私は幼いながらにそう考えました。


「となれば王国の戦力を削ぐ利点はあるが、わざわざ買ってやる必要もなかろう」

「何かよい案がおありで?」


「ああ。王国はどうしても金貨十万枚が必要なようだ」

「そうですね」


「ウラミス、至急王国に返答せよ。ワイバーンは不要。ただし金なら年二割の利息で貸す用意があると」

「その手でいきますか。しかし年二割では安くはありませんか?」


「あくまで返済出来ることが前提であろう? それに額が額だ。金貨十万枚を貸し付けて一年で二万枚の利息。悪くないとは思わんか?」

「なるほど」


「約款には返済は利息込みで全額一括。出来なければ利息のみを支払い翌年に繰り越しとしておけ」


「返済出来ればよし。返済出来なければ永遠に搾取ということですか」

「いずれの場合も我らが損することはない」


「関税が引き下げられたことによる経済効果はすぐには現れませんしね」

「それと至急空軍基地の準備だ。マルール河流域の国境付近一帯を切り開け。これ見よがしに戦力差を見せつけてやろうではないか」


「父上も悪ですなぁ」

「善意のみでは国は栄えんということだ」

「肝に銘じておきましょう」


 その後、王国からは分割返済や利率引き下げの交渉がありましたが、父上さまは頑として首を縦に振りませんでした。これまで王国から受けてきた仕打ちの意趣返しといったところでしょうか。


 それでも王国はよほど困っていたのか、最終的に条件を呑むしかなかったようです。


 そして父上さまの目論見(もくろみ)通り、以降十年の長きに渡り王国は毎年利息のみを払い続けることとなります。


 その間もベッケンハイム帝国との(いさか)いは絶えず、十年で経済は破綻の一歩手前まで進み、高齢となったユグノレスト国王はとうとう心労で病の床に伏すことになるのでした。


次話より『第二章 新生コートワール帝国』全八話に入ります。

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