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第三話 食糧事情

 領主邸に帰って参りました。


 実はあの後ミクルから聞いた話をスコット兄上さまにお伝えし、城兵のうち"女狩り"に関わった者が追放されたのです。判別にはノエルが協力してくれました。


 兄上さまの剣幕は、それは凄まじいものでした。本当は男性の使用人も追放してしまいたかったようですが、彼らの境遇を考えると同情の余地もあると考えられたのでしょう。


 逆らえば殺されるのですからどうしようもなかったと言えます。ただ、女性使用人の彼らに対する信頼は欠片もないようでした。


 致し方ありませんわね。これから少しずつ勝ち取っていく他はないでしょう。



「ローランド、ご苦労さまでした。留守中変わったことはありましたか?」

「実はノウル殿下が訪ねてこられまして」


「ノウル兄上さまが? 私がここにいなかったのはご存じのはずですのに。それでご用は何でしたの?」


「はい。お嬢様が戻られましたら、なるべく早く登城してほしいとのことにございました」

「それだけ?」


「お嬢様はあちらに滞在される日程をお決めになられておりませんでしたので、もしかしたら帰られているかも知れないと思われたのでしょう」


「分かりました。ダロワ殿、お願い出来るかしら?」

『構わん』


 横抱きで彼に運ばれるのにも慣れました。そう言えばお城とは往来専用の道がありますのに、私は一度も通ったことがありません。


 それから間もなくダロワ殿と共に城門を通るとすぐに会議室に案内され、ほとんど待たされることなく父上さまとノウル兄上さまが来られました。


「シャネリアよ、よく来てくれた」

「父上さま、ご無沙汰しており申し訳ございません」


「なぁに、構うものか。北の件、大儀であった」

「私を呼ばれたのはそのことについてですか?」


「ああ、いや、それも聞きたいが用件は別だ」

「と、仰いますと?」


 話とは、帝国全土における食糧事情についてでした。どうやら深刻な食糧難に陥っている地域もあるそうです。


 食糧問題は民の忠誠度に直結しますし、小さな村や集落に至っては殊更に苦しいかも知れません。それを打破する策がないかと意見を求められたのです。


「そう言えば以前ダロワ殿が仰られていたのですけど」


 出会うどころか私が産まれてもいない頃、グノワが海の魚が食べたいとダロワ殿にせがんだそうです。


「ほう、ヴィンスキーグノワ殿がか」


「はい。そこでダロワ殿は南の海に赴き、電撃の魔法で魚を海面に浮かせたそうなのですが……」

「さすがはヴァスキーダロワ殿だな」


「大量の魚を持ち帰ることが出来なかったとのことでした。そうですわよね、ダロワ殿」

「ウ、ウム……」


「なんと! 理由は何だったのですか?」

「忘レタ」

「運搬方法に問題があったようですわ」


 人間が網を使って漁をしていることはご存じでしたが、まさかそれを借りるわけにもいかず、奪うのはプライドが許さずで諦めるより他なかったそうです。


 結界を使えばよかったのではと申し上げましたところ、海面に浮いた何百匹もの魚を覆うと大量の海水が混ざってしまうため、それほどの重量を運ぶのは面倒に思われたとのことでした。


 面倒なだけでしたのよね。


「ですが網などがあれば簡単に運べるでしょうから、そのような手段を用意すればよいのではないかと」

「なるほど!」


 ダロワ殿が言うには、上空一万メートルの気温はマイナス五十度だそうです。つまりその高さまで昇れば魚はほぼ一瞬で冷凍され、味や鮮度を落とさずに運べるというわけです。


 グノワを喜ばせる算段まで出来ていたのに、運搬方法に考えが及ばなかったのは不覚だったと悔しがっておいででした。あの時の彼の表情を思い出すと、今でも笑いがこみ上げてきます。


 ちなみにその時仕留めた魚は、海鳥たちに美味しくいただかれてしまったのだとか。


「これまで父上さまは南の国々に配慮されて、海の魚をご所望にはなりませんでした」

「しかし最南端のエドガンまで手にした今は、配慮も不要になったというわけだな」


「兄上さまの仰る通りです。運搬についてはダロワ殿に可否を伺わなくてはなりませんが……」

「造作モナキコト」

「まあ、ありがとうございます」


「ヴァスキーダロワ殿、感謝する。シャネリア、これはエドガン領にとっても朗報かも知れんぞ」

「と言われますと?」


「漁そのものは漁師がやればよいではないか」

「なるほど! そうなりますと領民たちの仕事も増えますわね!」


「よし。ならばすぐにエドガン領に勅使(ちょくし)を送ろうではないか」


 ワイバーンの飛行速度は黒竜の約四分の一、時速約三百キロですから、朝発てば遅くともお昼頃には到着することでしょう。


「とすると父上、領内の何カ所かに市場を造ってはどうでしょうか」

「ほう」


「市場ですか! でしたら多くの領民に魚を届けることが出来ますわね!」

「うむ。建設地としては取り潰した旧ジルギスタン王国貴族の屋敷跡地などがよかろう。あとは十分な広さが確保出来るかどうかだな」


「各地への輸送はどうなさいますの?」

「その役目はワイバーン騎兵に担わせよう」


 ヴァスキーダロワ殿によりますと、凍ったお魚は運び終えたところで結界を張って溶けないように出来るとのこと。


 それなら保管用の倉庫を用意して、毎日必要分を各市場に配送すればよいのです。そうすればいつでも新鮮で美味しいお魚が市場に並ぶことになります。


 さらに新たな雇用も生まれますし、魚を扱う料理屋などの誕生も期待出来ます。これで食糧問題も解決に向かうのではないでしょうか。


 また、海のお魚は元手がほとんどかかりません。つまり領民にお安く売ったとして漁師や漁港、市場の人件費などを差し引いてもかなりの利益率が見込めます。なにせ輸送コストがほぼゼロに等しいのですから。


 もちろん、倉庫や市場の建設費などもすぐに取り戻すことが出来るはずです。

 いいことずくめではありませんか!


 ちなみに黒竜やワイバーンは空気中にある、魔素と呼ばれる魔力の素を取り込んで生きているため、彼らに食費はかからないのです。グノワが海のお魚を食べたいと言ったのは、単なる興味でしかありません。


 これはもう、何度も瞳に口づけして差し上げなくてはなりませんね。そんなことを考えた途端、ダロワ殿の声にならない咆哮が地を揺らすのでした。

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