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第三話 シャネリア領

 帝国となったコートワールはメリカノア大陸南側の三国の中で、ベッケンハイム帝国を抜いて最大の国土面積を誇る大国となりました。もちろん、国力は面積だけで推し量れるものではありません。


 ですが豊かな恵みを運ぶ二つの大河に挟まれ、それらを結ぶマルール河が流れているのは、我がコートワール帝国だけなのです。


 なお、旧連合王国においてはそれぞれに大臣が送られ、帝国の法の下に治世が行われることとなりました。

 元王家の皆さんはその補佐役、いわゆる雑用係ですわね。


 いくつか掲げられた新たな政策の中で、領民に最も歓迎されたのが相対的な税の引き下げでした。


 これまでは六カ国共通で租税が総収入の四割。加えて人頭税や商家などに課せられる商業税、各国を出入りする商人には持ち込み持ち出し税など、様々な税がありました。


 一方新税法では収入に応じた所得税、領内で暮らすための住民税など、租税と言える税が二割と大変低く抑えられています。もちろん人頭税はありません。


 加えて商人に対する税は一律一割の売上税のみです。


 これらが適用されたお陰で、旧連合王国民の生活レベルは飛躍的な向上を見せ始めておりました。


 さらに、例えばマルス王国はマルス領、デトリア王国はデトリア領と改められたため、国境がなくなりました。国境検問所はそのまま領地間の検問所として使われますが、高かった通行税も銀貨二枚のみと定められたのです。


 ちなみに銀貨二枚とは家族四人が街外れの定食屋で、お昼に出されるお得な定食を食べられる程度の額です。出入国税は、連合王国間でさえ双方の国で最低その十倍は徴収されていたそうなので、これは画期的と言えるでしょう。


 ところで父上さまは元の王族の家名をそのまま領地に継承させましたが、ジルギスタン王国だけは王家を断絶させたためジルギスタン領とはされませんでした。


 なお、ジルギスタン王城は宝物館として、王家が所有していた多くの貴重な宝物を飾り、広く一般に開放するそうです。その際の入館料などで、回収不能となってしまった王国への金貨借款を取り戻すとのこと。


 利息だけで元本の倍も搾り取りましたのに、さすが父上さまは抜け目がありませんわね。


「シャネリアよ」

「はい?」


 父上さまの戴冠式から一カ月ほど経ったある日、私は朝食後すぐに執務室に呼ばれました。


 それ自体は珍しいことではありません。ですがいつもの砕けた雰囲気とは違い、三人の兄上さまたちが私を迎え入れるように並んでいたのは少し意外でした。


「お前に領地を任せようと思うのだが、経営してみる気はないか?」

「領地……ですか?」


「うむ。ラカルトオヌフの南側にある旧ストラド子爵領だが、婚約破棄の原因を作った娘の家だから取り潰してやった」

「まあ」


「調査したところ、領民もあの娘にはあまりよい感情を持っていなかったようでな」

「そうでしたの」


「逆にお前には好意的だった。子爵家に仕えていた使用人たちも全員、お前が領主になるなら是非仕えたいと言っているそうだ」

「全員、ですか?」


「だが子爵家の使用人だからな。選定は任せる」


 旧子爵邸には、私に濡れ衣を着せて婚約破棄に追い込んだアンリ殿の部屋もあるため、取り壊して新たに別の場所に領主邸を建てて下さるそうです。


 ただ、敷地に関してはコートワール城のそれと同程度しか確保出来ず、庭で休める黒竜は二騎が限界だろうとのことでした。


 もっともダロワ殿はずっと人の姿で過ごしておいでですので、屋敷にお部屋を用意して差し上げればそちらに住まわれるはずです。他の黒竜たちも、森での生活に満足されているようなので問題はないでしょう。


 それよりも、私に対してとても過保護な父上さまや兄上さまたちの方が心配です。


「どうだ? やってみる気はないか?」

「私がお城を出てもよろしいんですの?」


「案ずるな。領主邸からすぐのところに新帝国城を建設する。その方がお前も登城しやすかろう」


 父上さまが仰られると、三人の兄上さまたちも満足げに頷いておいででした。


「馬車で五分もかからぬところに、だ」

「ま、まあ……それなら安心ですわね」


 そういうことでしたか。親バカが過ぎるとは思いますが、私の身を案じてのことでしょうから、この際余計なことは言わずにおきましょう。



◆◇◆◇



 午後になり、特にすることのなかった私は、ダロワ殿を伴って旧ストラド子爵領を訪ねてみることにしました。


 コートワール城からですと、マルール河を渡ってラカルトオヌフを抜けなくてはなりませんので、馬車で半日ほどはかかります。それをダロワ殿が不可視の結界を張った状態で、わずか数分で駆け抜けて下さいました。


 ただ、私を横抱きにして運ぶのは恥ずかしいので、背中に乗せて頂く時のようには出来ないものでしょうか。


『出来るぞ』


「えっ!? ではなぜ……?」

『気分だ』


「気分、ですか……竜の姿にならずとも、そんなことが出来ますのね」

(やす)きこと』


「それにしても、ラカルトオヌフと隣接しておりますのに、ずい分と長閑(のどか)なところですわね」


 私たちの目の前には、広大な田園風景が広がっておりました。もちろん、それ自体は珍しいことではありません。特産品でもない限り、どこの領地でも領民の多くは農業に従事します。


 領主は彼らが収穫した作物を税として納めさせ、それを商人に売るなどして現金化し、国税に充てるのです。


 ただ、ラカルトオヌフに隣接しているこの領地なら、商業が発達していてもおかしくはありません。それが一面の田園風景なのですから、違和感を感じたのも無理はないでしょう。


「旧子爵邸に行ってみましょうか」

『旅人のフリをするのはどうだ?』


「いいですわね。でもこの格好では旅人に見えないでしょうから、一度お城に戻って着替え……」


『これなら問題なかろう?』

「え?」


 既製品の騎士服姿だったダロワ殿は、少しよれた感じの軽装にリュック。私も同様で、しかもスカートではなくズボンを履いておりました。ダロワ殿が魔法で姿見を見せて下さったのです。


 リュックもありますが、背負っている感覚はありません。見た目だけを変えたということなのでしょう。これでしたら、どこからどう見ても旅人にしか見えませんわね。


「ダロワ殿、一つお願いがあります」

『構わん』


 彼はそう言うと、一瞬で顔も変えてしまいました。


 私が願ったのは、凛々し過ぎる彼の顔をどこにでもいるような顔に変えて頂きたいということでした。


 これなら誰も、ダロワ殿の見た目に心惹かれることはないでしょう。

 そうして私たちは、旧ストラド子爵邸に向かうのでした。


銀貨一枚は日本円で千円とお考え下さい。

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― 新着の感想 ―
[一言] それぞれ別の国だから仕方ないとはいえ旧連合王国は税とりすぎだな
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