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03. 魔族の王妃様召喚の次は魔王様召喚かよ!


「王妃様、ご報告致します、勇者の召喚に成功致しました!」


王妃の私室の扉の前で、アルマンディンが高らかに声を上げた。


直後、侍女が扉を開け、アルマンディンが中に招き入れられた。

そこにいた王妃カルセドニーは、扉をあけた侍女に人払いを命令すると、ようやく口を開いた。


「1日遅れると聞いた時には心配したけれど、成功したのね?見目はどんなものかし─────────らっはぁ!?」


ニコニコとアルマンディンに返答したカルセドニーが、突然ソファから立ち上がった。

アルマンディンがどうしたのかとカルセドニーの顔を伺うと、その顔色は桃色で、アルマンディンの後方に視線を向けてパチパチパチパチと高速で瞬きをしている。

何事かと、カルセドニーの視線の先を振り返ると、そこには先程召喚した勇者が腕と足を組んで、見たことの無い椅子に座っていた。


「きっ貴様、どうやってここに・・・いや、王妃様の御前でなんとふてぶてしい態度かぁ!誰が座っていいと言ったぁ!」


「アル、マンディン・・・?まさか、この、このイケメンが・・・勇者?」


カルセドニーが桃色から熟れすぎた林檎のように真っ赤になった顔で、アルマンディンに尋ねた。

その声は少し震えている。


「王妃様・・・?そこにふてぶてしく座っている男ならば勇者でございますが・・・そんなにイケメンですかね・・・?私の方が・・・」


よく見てみれば、やたらと豪華な椅子に座っていた勇者が、徐に立ち上がった。

その瞬間、今までは腕に隠れて見えていなかった胸板が、はだけたバスローブから顕になった。


「黙れブタマンディン!ああっ!なんて・・・なんて・・・なんて・・・なんて色気っっ・・・無理っっ!」


カルセドニーはそう叫ぶと、ブッフォォ!っと大量に鼻血を吹いて倒れた。


部屋の床も、倒れたカルセドニーも、目の前にいたアルマンディンも、鼻血塗れ。


もし今誰かがこの現場を見たら、アルマンディンがカルセドニーを刺殺し、返り血で汚れました!


みたいな殺人現場にしか見えないだろう。



そして今、物語の冒頭へと至る。


「え?ブ、ブタマン、ディン・・・?・・・はっ!王妃様!王妃様ぁ!お気を確かにぃぃ!」


突然ブタマンディンと呼ばれたアルマンディンは口をパクパクとさせていたが、落とした視界に映ったのは倒れた血濡れの王妃。

一気に我に返ったアルマンディンも血濡れのままで慌てふためく。

その後ろから、涼やかな声がした。


「おい、そこで喚いてるブタ」


「王妃様ぁぁぁ!!誰か!早く侍医を呼べぇ!」


ブタの自覚の無いアルマンディンは、相変わらず慌てふためいたまま反応しない。

それに少しイラついたバスローブの勇者は、ブタの髪の少ない頭に向けて小さな黒い炎の玉を投げた。


ボッ


「うぎゃぁぁぁぁああああ!アツイアツイアツイ!」


「小指ほどの煉獄の炎如きで喚くな、ブタ。見苦しいぞ」


「アツイアツイアツイ!!」


バスローブの勇者は、尚も泣き喚くアルマンディン、もといブタに、トドメを刺してやろうかと人差し指を上げようとしたその時、バタバタと、駆けてくる足音がした。


「貴方様が召喚されてしまった方でございますか?!申し訳ございません!この国の者が・・・うっぷ・・・クッサ」


鼻をつまみながらバスローブの勇者の足元に跪いたのはカルサイトの騎士で、聖殿での一部始終を聞いて駆けつけたのだ。

そして今、煉獄の炎でなけなしの髪が燃えたブタの、焦げ臭いような油の溶けたような臭いに、顔を顰めていた。


「うっぷ、勇者様、その、うっぷ、燃えてる男が、うぇっ」


「あぁ、臭いか。悪い事をしたな」


バスローブの勇者は、スっとブタに視線を向けて燃え続けるブタの頭をカキーンと凍らせた。


「つっ、冷たい冷たい冷たい冷たい冷たい冷たい!」


そして緩やかな竜巻の様な風を起こし、王妃の私室の天井に向けてブタの臭い共々放った。


ドッゴーン!と、王妃の私室の天井に穴が開き、その瓦礫も巻き込んで竜巻がどこかへと飛んでいく。


「これで少しはマシか?」


「あっ、えっ、は、はい!鼻が曲がらずに済みましたこと、感謝致します!」


「お前ぇええ!勇者如きに何を跪いているのだ!王妃様がお倒れになられへぶっ!ブヒッ」


「まったく煩いブタだ。ブタはブタらしくしておれ」


小さく指を振ったバスローブの勇者に、リアルブタにされたアルマンディンだったブタは「ブヒッブヒッ」と言いながら部屋の中を走り出した。

因みに全て燃えてツルっとした頭の部分はまだ凍っている。


「さて騎士よ。ここはもしかしてカルサイト王国という国か?」


尋ねられた騎士は驚きに目を見開いた。


「は、はい、ここは確かにカルサイト王国という国でございます。私は恥ずかしながらこの国の騎士で、名をアウインと申します。よ、宜しければ貴方様のお名前をお伺いしても宜しいでしょうか?」


騎士の答えに、バスローブの勇者が片眉をピクっと上げた。


「やはりか。私の名はユークレース・ターフェアライト。ターフェアライト王国の王だ」


「なっ!ターフェアライト王国・・・ということは」


「気付いたか?この国の者が先日聖女として召喚したベリルは我が最愛の妃だ。お主はあの時婚約者が居るとかでここに残った騎士だな?」


先日この国の聖女召喚の儀式で、あろう事か『魔族の国の王妃』を聖女として召喚してしまったのだ。

その王妃ベリルから祝福をもらった騎士がこのアウインだった。

その時アウインはベリルに、「聖女を召喚させない」と誓った。

にも関わらず・・・この国は聖女がダメならばと勇者召喚を行った上に、ベリルの夫を召喚してしまった。

そしてアウインはベリルの言葉を思い出していた。



『─ わたくしの伴侶である国王陛下はわたくしの世界で最強の魔王ですもの ─』



アウインは「王家のクソカス共めが!何してんじゃボケェ!!」と叫び出しそうになったのを、寸でで堪えた。


「左様でございます!あぁ、またもやターフェアライト王国にご迷惑を・・・なんという」


恐怖というよりは、己の国に対する不甲斐なさにガタガタと震え出すアウイン。


「其方のせいではなかろう。しかし・・・ベリルは魔族でも聖女と間違えても仕方ない程の素晴らしい妻だが、魔王である私が勇者とは、さすがに笑えるな!くっくっく」


さも愉快、とばかりに、白銀に黒のような青の様な不思議な色が滲む瞳を細くしてユークレースがくつくつと笑う。


そんなユークレースは、相変わらずバスローブ姿だが、滲み出る覇気とダダ漏れる色気、段々とバスローブが正装にも見えてくる、なるほどベリル王妃の夫であらせられるわけだ、と納得しかないアウインだった。

そこて、はて?とひとつ疑問を抱いたアウインは、おそるおそる尋ねた。


「あの、魔王陛下・・・なぜバスローブなのですか・・・?も、もしや湯浴み途中で召喚・・・!?」


言いながら顔を青くしていくアウインに、ユークレースが答える。


「いや、湯浴みは終えていた。先にベッドに入っていたベリルを引き寄せて口付ける瞬間だった・・・チッ」


思い返した事で腹が立ってきたのか、忌々しそうに走り回るブタを睨みつけるユークレースは、神様が遣わしたと言われても信じそうな美貌の美丈夫だ。

その整いまくった顔だけでも色気がダダ漏れなのに、さらにシルクのバスローブ姿で色気が2割増し中、いや4割増し中。

そのユークレースの口から色事を紡がれると、男のアウインすら頬を染めてしまう。


「そっそれは!大変申し訳ありませんでしたぁ!!・・・はっ、という事は魔王陛下はベリル王妃様の目の前で消えたという事に・・・ぁぁあぁあぁぁぁあぁぁぁあぁあぁぁぁあぁぁあぁぁぁあぁぁあぁ!ベリル王妃様にもご迷惑をぉぉぉぉぉお!あんなにも親切にして頂きましたのに!!!!」


ユークレースだけでなく、自分に祝福を授けてくれたベリルに対しても迷惑を掛けてしまったことに嘆きだしたアウインの後方で、相変わらず血塗れで倒れていたカルセドニーがモゾモゾと動き出した。


「うっ・・・あら・・・?わたくしは何を・・・あっ!!!」


キョロキョロと辺りを見回していたカルセドニーの視線が、嘆くアウインの向こうにいたユークレースに縫い止められた。


「ちょっとそこのイケメン!あなた勇者よね!?こちらへ来なさい!」


カルセドニーの喚きに、途端にユークレースの顔が歪む。

そしてそのユークレースを見たアウインの顔も青くなって歪む。


「煩いデカタコだな。あれも燃やすか?」


「ぶはっ、デカタっ!あ、いや、燃やすのはその」


「ああそうだな、燃やしたらまた鼻が曲がるか。くっくっ」


「あはは」


アウインは『臭くなるのでやめて欲しい』という本心に気づいてくれたユークレースに、小声の笑い声と照れ笑いを向ける。

そんなホンワカした男ふたりに、デカタコがまた喚こうとした瞬間、入口に甲高い声が響いた。



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