02.信じられないイケメンどこいった!?
裏返ったアルマンディンの声で、大広間に静寂が訪れた。
「皆の者、この者がわたくしが魔法師団の新しい団長に任命したアルマンディンよ」
カルセドニーに紹介されたアルマンディンは、カルセドニーに恭しく頭を下げてから前に出た。
「魔法師団の皆よ、この度私が団長を仰せつかった!そして、早くも大任を任されたのだ!それは・・・勇者召喚だ!召喚は2日後に行うから、魔法師団1班は魔法陣を用意するように」
アルマンディンが偉そうに指示を出したが、大広間のどこからも返事が無い。
「おい、1班!返事は!」
シーン。
顔を赤くして尚も叫びそうなアルマンディンに、前任のショールの補佐をしていた副団長のオニキスが1枚の紙と31枚の封筒を差し出した。
「そちらは現在の魔法師団団員のリストです。1班の30人は今日全員辞職しましたので、ここにはおりません。その封筒が1班の30人と私の辞表です。それでは」
ぺこっと頭を下げて大広間を出ていくオニキスを、アルマンディンがボケーッと見つめていたが、ハッと我に返って渡されたリストの名前を凝視した。
そこにはもうベテランと呼べる階級の魔法師はおらず、ほぼ下の階級のみ。
「こっこっこれでは誰が魔法陣を用意するのだ!」
「おや、アルマンディン、どうしたの?」
カルセドニーに上座から尋ねられたアルマンディンは、召喚出来ない可能性がバレないように取り繕った。
「いえっ!なんでもございません!が!魔法陣の用意に少し日数がかかるやもしれましぇん!」
噛み噛みで答えたアルマンディンに、カルセドニーが無意識に助け舟を出した。
「あら、勇者召喚の魔法陣なら、聖女召喚の聖殿の逆隣にある古い聖殿にあるでしょう」
勇者召喚の魔法陣は大昔のものだが、撤去が面倒だった為、まだ王宮に存在していた。
「そうなのですか!それならばすぐに取り掛かれます!王妃様、感謝致します!」
「ホホホホ。よろしくてよ。では皆の者、2日後を楽しみにしているわ」
カルセドニーとアルマンディンが大広間から去ると、残された魔法師達は大きな溜息を吐いた。
「ショール様の補佐のオニキス様まで辞めたら、もうダメじゃね?」
「うん、終わりだ」
「私たちはまだ下っ端だから召喚には関わらないと思ってたけど・・・」
「下っ端しか残ってないから、多分召喚の魔力が足りないだろうから・・・」
「駆り出されるな・・・」
「ていうか、何のために勇者様を召喚すんの?」
「聖女様の代わりじゃないか?」
「え、てことは、チャルアイト王女が婿に迎えるの?」
「そういう事になるのか・・・?」
「勇者様が不憫過ぎる・・・俺、やっぱり辞職するよ」
「私も辞めるわ」
こうして、この日のうちに魔法師団は1/3に減った。
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「魔法師団全員でやらないと魔力が足りないだとぉ!?」
アルマンディンの甥にあたる魔法師のパパラチアが、しょんぼりと報告書を差し出した。
「はい、アルマンディン様。何故か辞職する者が後を絶たず・・・」
「なぜ引き止めなかったのだ!」
「それが、皆辞職願を置いて消えてしまうもので、引き止められませんでした」
「仕方ない・・・召喚は明日だ。何としても全員を聖殿に集めろ」
「かしこまりました!」
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そして翌日、まだカルサイトの魔法師団に在籍している魔法師たちが、全員聖殿に集まっていた。
永久凍土に覆われた聖女召喚の聖殿の入口にあったためか、辛うじて災厄を免れていた巨大な魔力増幅の魔法具を勇者の聖殿に設置しなおし、そこに向けて魔力を練り上げていく。
しかし魔法師団に残っていたのは下っ端の中の下っ端で、しかもたいして能力の無い者ばかりだった為、かなり時間が掛かった。
午前中から魔力を込め始め、魔力の少ない魔法師達は休み休みでなけなしの魔力を供給した。
しかしその日のうちに必要な魔力が貯まらず、開始してから2日目の日が沈むかという頃、ようやく魔力増幅の魔法具に必要な魔力が溜まった。
「よし!ようやく召喚の準備が整ったな!では団長である私が直々に召喚を行う!」
魔力供給を1度も行わなかった団長のアルマンディンが機嫌良さげに丸々とした腹を揺らしながら、偉そうな声を上げる。
魔力切れでそこら中に這いつくばっている魔法師たちは、うんざりした視線でそれを見ていたが、今や物語でしか聞いたこの無い勇者という存在に対する好奇心には勝てず、ヨロヨロと立ち上がってアルマンディンを見守った。
魔力増幅の魔法具に片手を触れたアルマンディンが、呪文の書かれたカンペ・・・巻物を途切れ途切れで読み上げること5分。
魔法陣がカッと光ったかと思うと、そこに現れたのは黒色のシルクのバスローブから逞しいシックスパックを晒した、この世の者とは思えない程の美貌の美丈夫。
その美丈夫は色気をダラダラと溢れさせながら、足元の魔法陣を凝視していた。
ようやく顔を上げた美男子は、青とも銀とも言える艶やかな腰までの髪をかき揚げ、白銀に夜を溶かした様な瞳を、訝しげにアルマンディンに向けた。
「そなたが勇者か!よしよし、見た目もそこそこだな!私は王妃様に報告をしてくるから、勇者はその辺に座っておれ!」
一部始終を見守っていた魔法師たちは、ポカーンと、走り去るクズマンディンを目で追う。
そして我に返って麗しのシックスパックに振り向くと、すでにそこにシックスパックは居なかった。
「えっ!ちょ、どこいった!?信じられないイケメンどこいった!?」
「どこ!?イケメンどこ!?」
「てか!クズマンディンの奴、見た目もそこそことか抜かしてた!?」
「わかる!あれでそこそこだったら私らなんなのよ!」
「アルマンディンなんてブタじゃねーかよ!」
「目ぇ腐ってんじゃないの!?」
「で、あのイケメン様はどこいった!」
聖殿はしばらくの間、クズマンディンへの暴言とイケメンどこ!が響いていた。