01.せいっしゅくに!
シリーズ前作の『召喚された聖女は、魔族の国の王妃でした。』の続きになります。
3回程、内容丸ごと書き換えて、ようやく書き上がりました。
少しでも楽しんで頂けると嬉しいです。
カルサイト王国の王妃の私室が、床に倒れる王妃カルセドニーの流した血に塗れていた。
其れを少し離れた位置から睨みつけるのは、バスローブ姿の、神が作り上げた美術品かと思うような美貌の男だった。
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カルサイト王国の離宮で、国王サードニクス・カルサイトと王太子カーネリアン・カルサイトが、2つ並べられたベッドで寝込んでいた。
寝込む原因は体の2/3を覆う酷い霜焼け。
「あなたもカーネリアンも、孔雀の間で一体何がありましたの?」
霜焼けのせいで寒い寒いとうるさいサードニクスとカーネリアンの為に、やたらと暖められた部屋の温度に汗を流しながら、王妃カルセドニー・カルサイトが尋ねた。
「それが・・・なにやら記憶がハッキリしないのだ・・・」
「僕もハッキリしないんだよ、ママ!」
2人はカルセドニーが来る前から「記憶がハッキリしない」という言葉ばかり繰り返している。
カルセドニーは溜息をつくと、従者に「ショールはどこにいるの?」と、魔法師団団長の居場所を尋ねた。
「魔法師団団長様は昼間に辞職なさいました」
「なんですって!?ちょっとあなた、どういうこと!?今日は朝からショールが聖女召喚をしてたはずですわよね?召喚してすぐ辞職したと?ていうか聖女は?」
まくしたてるカルセドニーの言葉に、サードニクスとカーネリアンが怯えだした。
「せっ聖女は駄目だ!王妃よ!聖女を召喚してはだめなんだ!」
「ダメなんだよ!ママ!」
どうやら怯えの原因は『聖女』と言う言葉らしい。
「ダメとはどういう事ですの?失敗したのかしら?」
「聖女召喚に関しては、何も報告が上がってきておりません。しかし、魔術師団団員によりますと聖女召喚の魔法陣が書いてあった儀式の部屋が、永久凍土に覆われて使用不可能だそうです」
カルセドニーに答えたのは先程の侍従だった。
「・・・なんですって?永久凍土!?永久凍土ってなによ!あなた?何か知ってるのではないの!?」
「王妃よ!ダメなのじゃ!昼間の記憶はないが、聖女を召喚する事が国を危機に陥れるんじゃあ!それだけは覚えているんじゃあ!」
「そうなんだよ!ママ!」
2人の尋常じゃない怯え様に、カルセドニーは困惑するばかり。
そこに、甲高い声が響いた。
「パパ!お兄様!大丈夫ですの!?」
だいぶガリガリなわりに長身の体を、ゆらゆらと揺らしながら部屋に駆け込んできたのはカーネリアンの妹である王女チャルアイト。
「チャルアイト!パパ無理だよ!霜焼け痛い!聖女怖い!」
「怖いんだよ!チャル!」
チャルアイトもカルセドニー同様、2人の様子に首を傾げた。
「ママ、こんなに怯えているのだもの、聖女がダメなら勇者を呼べばいいんじゃないかしら。仕方ないから勇者の見た目がそれなりなら、チャルアイトが婿にもらってあげるわ!」
娘の思わぬ提案に、サードニクスはこくこくと半分霜焼けた顔を縦に振る。
その隣のベッドで、未だに髪が凍りついて冷凍のタコのような髪型をしたカーネリアンも、こくこくこくこくと頭を振った。
「そう・・・ねぇ。聖女がダメなら勇者でもいいかもしれないわねぇ・・・そうしましょう」
こうして、カルサイト王国は勇者を召喚する事になった。
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昨日、ショールが突然辞職した為、今日の午後に急遽新しく任命した団長を発表するから魔法師団に全員集まるようにとの命令がカルセドニーから出された。
ここはその集合場所として指定された城の大広間。
「ショール団長が辞めたって本当か?」
「ああ、本当らしい。ずっと辞めたがってたもんな」
「昨日儀式に立ち会った魔法師30人も、今日辞表を出したらしいぞ」
「え!それって実力の上から高い順に選ばれた凄腕の魔法師達でしょう!?」
「そうだよ!誰が団長になるんだ?もうマトモな奴いなくないか?」
「もし爵位なんかで選ばれたら・・・あのクズかもな」
「うげぇ・・・あいつか・・・それなら31番目の奴のがマシだな」
「そうね、あのクズはないわ」
そんな魔法師達のヒソヒソ声がそこら中から聞こえる中、バタン!と大広間の扉が開いた。
そこに立っていたのは王妃カルセドニーと、たった今クズと噂されていた魔法師アルマンディンだった。
「うっわ、マジかよ」
「クズマンディンはないわー」
「いやーまじないわー」
「俺も辞表だして農家継ごうかな」
「私、先週婚約したばっかりだけど、辞表だしてすぐにでも結婚しようかしら」
「私もそうする!1年もクズマンディンの下にいられないわ!」
「俺も辞めて家継ごう」
「私も」
「ほんと、あのクズマンディンだけはないわー」
「せいっしゅくに!」
喧騒の中、少し裏返ったアルマンディンの声が大広間に響いた。
5話でひとまず完結です。