7.これは走馬灯ですか?いいえ現実逃避です。…………いつか見た光景
――掴まれた。
私の足を掴んだのは、目の前に横たわる鬼の少女だった。
少女は、全身に黒い靄のようなものを纏い、驚くことに傷がみるみる修復している。
これは、おそらく先程の黒い影によるものだろう。
でなければ、初めからあんな痛々しい姿のまま、私を追ってはこなかっただろうから。
あの影は、ただ私を見逃したわけではなかったのだ。
鬼を倒した未知の存在として、足止めを目的としているのではないだろうか。
必死に振りほどこうと藻掻いてみるが、到底少女のものとは思えない程の強い力で足首をしっかりと掴まれていて、どうしても外せない。
やがて完全に傷が治ったのか、目を開いた少女と目が合う。
これ、かなりマズイ状況だと思う。
さすがに肌や着衣に付着した血はそのままだが、どこまで回復しているのか計りかねる状況で、何がそんなにマズイのかと言えば、鬼に捕まった状態で鬼が復活するという事に他ならない。
先程は何とか戦うことが出来たが、一度鬼に掴まってしまえばもう人間なんて無力な存在でしかない。
足を掴む鬼の手に更に力が加わり、激痛が走る。
このまま骨が砕けるんじゃないかってくらいに……ほんと、足止めってレベルじゃないよ?…命の危機だよ?
夢なのに普通に痛いんだよね……てか、めちやめちゃ痛いよ!
「……いい加減、手ぇ、離せよっ!」
掴まれていないほうの足で、鬼の手首を思いっきり何度も踏みつけるが、びくともしない。
それどころか掴む力は増していき、腕の力だけで私を持ち上げると、そのまま宙に放り投げた。
突然の浮遊感に……あ、手、離れた…けど、…どうすっかな?……
自然落下に身を任せながら考えるも、何かが出来るわけでもなく、そのまま背中から激突する。
落ちたのは近くの家の塀の上だ。塀をぶち壊しながら落ちた。
何のクッションにもならなかったどころか、まだ地面に落ちたほうがマシだったと思う。
ここは確か、山田さんの家だったかな? 山田さん、家の塀を壊してごめん。
ここで壊した物が、現実世界に影響するのかはわからないが……
で、お隣は佐々木さんの家だったかな。息子さんが今年も浪人確実だってご近所で噂になっていたな。
そして、そのお向かいの家の高木さんの母親、娘さんが出戻ったって心配していたな。
何故、私に直接言いに来るのだ。と、思ったけど……
小学生の頃はそれなりに仲良かったと思うけど……
私、未婚だけど……
そして、私の現在住んでいる場所、誰にも教えてないはずだけど……ま、いっか。
…………などと、私は決して呑気に考えているわけではない。
先程の落下の衝撃時にわかってしまったのだ。どれ程の高さから落ちたのかわからないが、……あっ、コレ、全身の骨、逝ったなって…………
物語の登場人物ならどうかわからないが、実際、人間なんて、ある程度の高さから落ちれば簡単に動けなくもなるし、簡単に死んでしまう事だったあるのだ。
そして、身動きの取れなくなった私はというと、今、正に『現実逃避中』というわけだ。
その血に汚れた髪を、顔を、服を、傷一つ無くなった肌を、血に濡らし、ゆっくりと、時折ふらつき、だが確実に、こちらに歩いてくる鬼の少女を、視界に収めながら……
ごめん、樹里……助けに行けないかもしれない。
その歩みは、例えゆっくりではあっても、精々十メートル前後の距離なのだ。終わりはすぐにやってくる。
果たして……
目の前に立つ少女が私を見下ろす。
何処から取り出したのか、少女は右手に握られている刃物を私に向け振り上げる。
「なんで、あんたが……」
なんだ? 今頃、樹里では無い事に気付いたのか?
だったら残念だったな。
しかし、鬼の少女から続けられた言葉は……
「……なんで味方のはずのあんたが、ウチの邪魔をするのかな?」
……予想外の言葉だった。
はっ!?一体、何を言っているんだ?
一瞬、この少女が何を言っているのかわからなかった。
まるで私を知っているような素振りなのだ……
…………味方!?
味方も何も………鬼に知り合いなんていない……。
だけど私は、過去、この少女に出会っている……
…………かもしれない。
間近で、まっすぐ見つめてくる少女の瞳に見覚えがあるような気がする。
きっと、この時の私の反応に苛立ったのだろう。
鬼の少女は、怒ったように、ぷくっと頬を膨らませ、振り上げていた刃物を、そのまま振り下ろした。
私はただそれを眺めていた。
自分めがけて何者かが刃物を振り下ろす光景。
ふと、思う。
あっ、これ見たことある……たしか、夢で見たやつだ……と。
うぅ……三行で宙に放り投げられ、五行目で刃物振りかざしちゃうかな~て、ちゃちゃっと終わらせようと思って書いたのですが、書き始めたら……一体何が起こったんですかね(泣)。
樹 里「ええ加減、暇じゃのう。儂の出番はまだかのぅ~」
鬼の娘「次の主役はウチだからババアは出る幕ないよ。もう一生黙ってればよいと思うよ?」




