3. "coffee break" ゆったりとした時間の中で
短いです。
「美味い珈琲だな」
「はい、とてもおいしいです」
「お茶菓子も美味いな」
「友人がヨーロッパ旅行に行った時のお土産ですが、お口に合って良かったです」
ゆったりとした時間が流れる。
先程の西園先生の衝撃的なジャンピング土下座の後、先生はかなりテンパっていらっしゃったので、一旦落ち着いて貰おうと私が"coffee break"を提案して今に至るというわけなのだが…。
それにしても我ながらの語彙力の無さ。まぁ、今に始まったことでもないので別に構わないが……流石、大漫画家先生ともなると豆も高級な物を使っているのだろうか。お茶菓子もヨーロッパのお土産というだけあってどこか上品な味わいがする……え!?気のせいだって?別にいいじゃないか私がそう感じたのだから。
……西園先生、そろそろ落ち着いただろうか。
西園先生を、こっそりとチラ見する。
先生は、ただ珈琲を飲んでるだけだというのに、その所作は美しく上品、まるで、どこぞのお貴族様のご令嬢かのような気品と落ち着いた佇まいで、言うなれば、まさにエレガント!!……先程の土下座シーンが無ければ完璧だっただろう。
だから、目の前の存在があの幼馴染の美優とは、どうしても重ならなかった。記憶喪失とは、ここまで人を変えてしまうものなのだろうか。
過ぎ去った時間は長く、虚しささえ感じさせる。
さて、……と、そろそろ聞かなきゃいけないだろうな、ジャンピング土下座の理由。
無かった事には出来ないだろうし、向こうもそのつもりはないだろう。相当な覚悟でもなきゃ普通、土下座なんては出来ないと思う。
そういうわけでこれから聞くのだが、その前に心の準備をしておこう。
まず、先程の状況をもう一度思い起こす。あの時、確か西園先生はジャンピング土下座した後「……ずっと聡太さんに嘘をついてました」と言っていた。
嘘とは何か。まずは想定の範囲を超えるものから考える。
なんだろ、ええと、例えば目の前にいる西園先生は実は地球外生命体で美優をさらった後にずっと入れ替わっていたとか、ゲル状の生物が美優を食べた後ずっと美優になりすましていたとか、実は異世界人だったとか、パラレルの美優とか、ドッペルに地底人に果てには、美優はもともと存在してなくて私がいると思い込んでいたエア幼馴染だったとか……最後のやつだと悲しいな。ちょっと自虐はいってたかも。まぁ、どれも突拍子無さ過ぎて無いということで……。
では、想定の範囲内のほう。
まず、美優が記憶が戻ったふりをして仕事を依頼してきた。しかし、実際は記憶は戻っておらず、私にずっと嘘をつき続けていた事を謝りたい。
これがもっともらしいのだが、これなら気付いていた上で仕事を受けたので問題ない。当然、心の準備も必要ない……よしっ、聞くか!
……気付くと、西園先生が怪訝そうにこちらを見ていた。「そろそろ話してもいいですか」と言いたげな視線をこちらに向けて。
まぁ、落ち着いたら向こうから話してくれそうな気はしてたけど……。
そして、この後聞いた話は、概ね予想の斜め上をいった内容だったのだが…………聞いてくれ。
「実は、わたし美優さんの偽物なんです!…………あのバスの事故の時、たまたま近くにいたと言いますか……その、不覚にも頭上から降ってきたバスの下敷きになっちゃいまして、そこからなんとか魂だけ抜け出したわたしは、バスの中の人間の死体の中でも比較的損傷の少ないものを選んで入ったのですが、それがたまたま美優さんだったという次第でして…」
なんか、美優の中にはいってた。
さっきの、想定の範囲外のほうが近かった件!
次話タイトルは、『偽物』と『本物』です。




