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神木の精と結界を守る鬼  作者: 貝石箱
第二章 山守一族と神の護り手
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最終話


 夢を見ていた。一面に広がる花畑の中、幼い猪の子と二人の子供達が遊んでいる夢。

 子供達の方は、昨日、家を訪ねてきた子達にどことなく似ている気がする。顔は見えているはずなのだが、なぜかはっきりと認識できない不思議な感覚だ。

 ちなみに死んだ爺ちゃんが花畑にいないか探してみたが、どこにもいないようで少し安心した。どうやら臨死体験とかに出てくる花畑とかではないようだ。

 だとすれば、巨大な穴に落ちた私は、樹里は、あの後どうなったのだろうか。

 ふと、どこからか花の良い香りがしてきた。それは今見えてる花畑とは違うどこか。そこへ行きたいと思ったら自然と目を開いた。



◆◆◆



 目が覚めると、私は樹里に背負われていた。

 隣にはなぜか夢で見た幼い猪……ウリ坊までいる。

 これは一体どういうことなのだ。

 どうも上手く頭が働いてくれない。

 再び花の香りが鼻をかすめる。

 それは夢の中で嗅いだ香と全く同じ花の香りだった。

 背負われた状態では前が良く見えず、気付くのが遅れてしまったが、樹里の背中越しに見る風景には夢と同じ花畑が広がっていた。

 唯一違うところは、花畑の中央に巨大な石が突き刺さっている事くらいか。

 てか、何だあのでかい石は?


「目が覚めたか?」


 私が起きたことに気付き、樹里が声を掛けてきた。


「ああ、花の香りが良いな…………ン、……アレッ?臭くない!!」


 森で獣の血や肉片その他もろもろを浴びた私は、かなりの体臭を放ってたはずなのだが……。


「浄化しておいた」

「えっ?なんで……」

「背負うとなると流石に臭いがきつかったからじゃが?」

「そうじゃなくって、出来たならなんでもっとはやくしてくれなかったんだっ!?」

「頼まれなかったから?」


 そりゃ樹里さん、便利技持っていたって知らなきゃ頼めないし。

 私はずっとあの臭いを我慢していたというのに。


「儂も、聡太が臭いのガマンしておった」

「いや、まてまて。オマエは私から離れて歩いていただろーが!!」

「はて、そうじゃったか?じゃが、そうじゃのう。知らねば頼めんか」


 やっとわかってもらえたようだが、樹里の相手はなんだか疲れる。

……あれ!?私が言葉にださなかったとこも会話になってた気がするのだが……まさか、そんなわけないな。


 だんだん頭がはっきりしてくると樹里に背負われているのが気恥ずかしくなり、もう大丈夫だと言って降ろしてもらう。

 そして、すっかり存在を忘れていたウリ坊の方を見ると向こうもじっとこっちを見ていたもよう。

 樹里に背負われている私を見て、恥ずかしい奴とでも思っていたのだろうか。

 まぁ、どう思われようと別に構わないのだが、それよりも……

 ……つぶらな瞳がなんだかかわいいなコイツ。


 とりあえず頭を撫でてやろうと手を伸ばすも、後ずさって逃げられてしまった。

「こわくないよ~」と言って、もう一度手を伸ばすも、また逃げられてしまう。

 そして、ウリ坊は何かに気付く素振りを見せると、石碑っぽい物に向かって駆けって行ってしまった。


 べ、べつにウリ坊に好かれなくていいし!


「なぁ樹里、アレが怪物の本体って事で良いんだよな?」

「ああ、そうじゃ。そしてあの下に眠っおる奴の仔でもある。ほれっ、儂達も行くぞ!」


 歩きながら樹里は私が意識をなくした後の経緯を大まかに話してくれた。

 穴に落ちた私を助けてくれた事。

 怪物を倒して中からウリ坊が出て来た事。

 穴は洞窟りなっており、この近くの出口まで私を背負って歩いた事。

 そして、花畑に刺さっている石の下に樹里の旧友が眠っていて、その仔であるウリ坊がこの場所を目指してたであろという事。


 樹里にはすっかり世話を掛けてしまったな。今夜は私用に買っておいた少し高いお酒でも振舞ってやるか。



 石は近くから見上げるとかなりの大きさだった。地面にはウリ坊が石に寄り添って泣いていた。

 ここには確かコイツの親が眠っているんだったか。

 この石は、石碑か墓石といった物だろう。銘文のような文字が刻まれているが、損傷が激しくて読めない。

 それも長い年月で風化した物とは違う、意図的に開けられたような傷や穴ぼこが無数にある。


「なぁ、ここの穴とか傷とか、やけに真新しいんだが……」


「ふむ、何者かが無理矢理この石の封印を解こうとしたようじゃの」


 封印を解く為には正規の手順というものが存在するらしい。それを知らないという事は、怪物を目覚めさせて悪さをしようという輩の仕業だろうか……?

 まさか、世界の滅亡を企む悪の組織の仕業……なわけないわな。


 ともかく、ウリ坊は意味なく暴走していたのではなく、この場所の封印を守る為に此処へ向かっていたようだ。


 だが、まてよ……?


「封印が解けて親が目覚めるのは、このウリ坊にとって良い事なんじゃないのか?」


「いや、例え封印が解けたからと言って、すぐ目覚めるというわけではないからのぅ。こやつの眠りは深いようじゃ、後50年は目覚めんじゃろうな……という事はじゃ、おそらくは、こやつの力だけを奪うのが目的じゃろうな」


 力だけを奪う事もできるのか。なるほど、ウリ坊がどこまで理解して行動していたのかわからないが、それなら行動の説明もつくな。

 ここに眠る奴の事を樹里は友と言っていた。当然、意思疎通とか出来たんだろうな。ウリ坊も話せたら良かったのにな。


 気付くと私と樹里が話すのをウリ坊がジッと見つめていた。人間の話す言葉を理解しているのかな?……いや、まさかな。


「人間の言葉を理解していると言っておるぞ」


と、樹里。まさかの、樹里だけ意思疎通出来てたやつな。


……まぁ、別にいいけどな。




 さて、もう日も落ちかけてるし……

 暗くなる前に麓までは降りたいのだが、

 どうすっかな。


 こいつ、ずっと石の傍を離れようとしないのだが、まさかウリ坊を此処に置き去りにするわけにはいかないよな。

 封印を解こうとした奴が戻ってきたら、今のこいつには危険だろうし。

 きっと、だから草木まで取り込みながら進んでたんだもんな。


「なぁ樹里、こいつどうしようか」


 樹里に丸投げしようという気はないが、単純に山の生き物に関しては樹里の方が詳しいと思い聞いてみた。


此奴(こやつ)は、ここに残ると言っておるぞ」


 そうだ、樹里はこいつと話せるんだった。

 とは言っても、ここに置いていくとなると……


「……危険じゃないか?石に穴開けた奴が来るかもしれないし」


「それに関しては、大丈夫じゃな。こう見えて此奴(こやつ)、なかなかにすばしっこいからのぅ、そうそう後れを取ることもないじゃろ。石の封印にしてもすぐ解けるという事もないじゃろうし、どうせ帰ったらすぐ千影とやらに報告するのであろう?あの者達ならすぐ封印も完全修復するであろう」


 ……との事。


 さて、帰るか。


 ……え?…いや、だって、樹里が大丈夫って言うなら大丈夫な気がしてきたし、他にも考える事があるかもしれないけど、そんなの帰って、寝て、起きてから考えるし、ずっと言っていると思うけど今日の私はもう限界なんだって!下山にしたって本当は樹里におぶってもらいたいくらいだし、後の事は明日の私に任せてもいいかな。


 ウリ坊に手を振って別れを告げると花畑を後にする。


 ふと、こいつに名前が無いと不便かなという考えが頭をよぎるが、すぐさまその考えを頭から打ち消す。だって、私が名付けるとおかしなことが起きるかもしれないし。


 花畑から斜面を下ると、すぐに見覚えのある看板が視界に入ってくる。


『ぽ〇ぽこ里へようこそ』


 行きは里の中から山に入ったのでわからなかったが、ここから上った場所に花畑があったのな。


 再び歩き始め、何か違和感を感じて懐に手を伸ばす。


「……え!?何であるの??」


 手にしたのは怪物との戦闘で失くした『刃』、文太が残して逝った武器、樹里にとっては形見の品……


「どうやら、そいつに『(あるじ)』として認められたようじゃな」


「えっ、何、どういうこと?そこんとこ説明詳しくっ!」


 樹里曰く、何でもこの武器には付喪神のようなものが宿っていて、主と認めた者のところに勝手に戻ってるのだという。


 ナニソレコワイ。

 いくら捨てても戻って来る呪いの人形を想像してしまった。

 以後、物を無くさない為の便利機能として記憶しておこう




◆◆◆



 其処には、下山する聡太達を見下ろす二つの人影があった。


「あれが今度の『護り手』ね、どう思う?」

「そうだね、『護り手』の方は正直、期待外れかな。山神様の方は、やはり化物だったね。でも、やり方次第では何とかなるかな」

「そう、それなら早速、帰って準備しないとね」


 そう言うと、二人は(たぬき)へと姿を変え、何処かへ走り去った。




『山守一族と神の護り手』はこれで終わりです。

次からは新章になります。


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