20.大食の主(玖) ――偽りの怪物
聡太が意識を失うという緊急事態なので急遽『樹里視点』に切り替えて進めていきます。
しくじった。聡太が予想外に頑張っておったから、出ていくタイミングを見誤ってしもうた。
聡太に文太の武器が扱えるかどうか確かめるだけで良かったのじゃ。
儂が戦うのを観戦するだけで良いと言って連れてきておきながら、危険な目に遭わせてしもうた。
儂のせいじゃ、すまぬ。
それにしてもこの穴がまだ残っておったとは……。
この穴は横穴になっており数十キロ先まで続いておる。
なぜこのような穴があるのかじゃが……その、あれじゃ、話すのも憚られる儂の黒歴史的な?若気の至りというか、その結果なのじゃ。
懐かしいのう。当時の馴染みの顔が脳裏に蘇るわい。
……っと、いかん。思い出に浸っておる場合ではなかったわ、穴の底が近い。
樹里は、意識のない聡太を手早く回収すると、わざわざお姫様抱っこに持ち替えてから軽やかに地面へと着地した。
ふぅ、儂が昔あけた穴のせいで落ちたなどとは、とても聡太には言えんのぅ。
さて、怪物とやらは…………ふむ、落ちた衝撃で半壊して更に大量の大木を撒き散らしておるのか。
『大食の主』とはよく言うたもんじゃのう。じゃが所詮は紛い物の体。
儂はこの怪物の姿をよく知っておった。それは昔、大食いと言われた儂の馴染みの姿であったからじゃ。じゃが、あやつは正真の巨体であった。それに比べ目の前の紛い物のなんとも無様なことか。
長い鼻先を掃除機の先の形にして必死に散らばった木々を吸い集めようとする姿も笑えてくる。
森を抜け、最初にこやつを見た時、温厚だったやつが暴れておるというのが信じられんで、正気を失っておるのなら正気に戻してやろうと蹴り上げたのじゃが、触れた瞬間その体のほとんどが偽物だと気付いた。
偽物の体を形成しているのが草木であるのなら、儂の力で一瞬でその体を維持できなくしてやることも出来たのじゃが、すぐに終わっても面白くないっちゅうわけで、偽の体の制御を奪ったうえで聡太をけしかけたのじゃ。制御を奪ってからは両手で抑える必要なはなかったが聡太をその気にさせる為、儂の演技もなかなかじゃったと思う。じゃが、そろそろ意識のない聡太も心配じゃし、もう終いじゃ。
樹里は近くに転がる大木を丸太杭に変えると、それを怪物に向けて飛ばす。
怪物の制御を失った木々であれば直接触れなくても自在に操ることが出来る。
まぁ、直接触れて力を注いでやれば数十倍強度が増すのだが、樹里はお姫様抱っこで抱える聡太に一瞬視線を落とすと微笑む。
怪物に向かって歩みを進めると周囲に転がっている大木を次々に丸太杭に変えて飛ばしていく。
一方、怪物は丸太杭の攻撃によってガリガリとその体を削られていった。
もう少し抵抗してきても良いものじゃが……まぁ、儂を前にして戦意を失わんやつもそうはおらんがのう。まして相手が小物なら尚更じゃ。『聞くと、それは山のような大きさの怪物で、山の獣だけでなく、山の草木も食べ尽しながら……』あやつも腹が減ると草や木も食うておったのう。そして、微かに感じたあやつと良く似た妖気。眠りにつく前にあやつが話しておった仔なのじゃろう。
あやつの仔ならいずれは大物になるのじゃろうが、それは何百年も先の話じゃろうな。
じゃが、その仔が何故に暴れておったのじゃ?進行方向には『ぽ〇ぽこの里』とやらもあるようじゃが、向かっておったのはおそらく、あやつの眠る場所じゃ。
ふむ、どうやら儂も一度あの場所に足を運ぶ必要がありそうじゃな。
樹里はゆっくりな歩みで怪物のもとに辿り着くとそっと体に手を触れる。
丸太杭による攻撃で半壊したそれは、もはや怪物の形を成してなかった。
「こやつ、ずいぶんと悲惨なことになっておるのう。じゃが、これで終いじゃ!」
樹里がそう言うと、怪物の体から巨大な腕が生えていき、その巨大なコブシが怪物の体へと振り下ろされる。そのコブシ衝撃によって紛い物の体は粉々になって周囲に吹き飛んで行った。
そして、そこから正体を現したの約50センチ程の大きさの、ゾウ鼻のウリ坊だった。
「こわっぱ!!儂の縄張りでよく暴れてくれたのう! 覚悟は良いか!」
「ブ、ブヒッ!」




