#9 謎の少女
テンが駆けつけた先にはうずくまる少女がいた。
こんなところに少女一人でいるなんて有り得ない。
「ど、どうしたんだい?」
テンは警戒しつつ、震える少女に声を掛けた。
しかし、少女は何も喋らなかった。
「大丈夫、怖くないよ。」
少女は動かない。
「ミネルヴァ、ちょっとヘルが来ないか外を見張っててくれないか。」
ミネルヴァは頷き、その場から離れた。
この少女はなぜここに一人でいるのか
いつからここにいるのか
どこから来たのか
なぜこの町にヘルがいないのか
気になる点はいくつもある。
もしかすると危険を伴うかもしれない。
しかし、テンには震える少女を見殺しになどできなかった。
「おいで。一緒に行こう?」
テンは右手を差し出した。
ひどく怯えた少女は尚も喋らず、手を取ろうともしなかった。
「横、いいかな?」
少女はテンの様子を見ながら軽く頷いた。
「お兄さんね、こう見えて実は子供がいたんだ。ちょうど君くらいの年頃のね。前の世界からこっちの世界に来る時に離れ離れになっちゃってさ。無事だと信じてるんだけど、時々不安になるんだよ。君もお母さんとはぐれちゃったのかな?」
「わた・・・しは・・・チロちゃんを探しに・・・」
テンは少女が言葉を発したため嬉しくなった。
「チロちゃんとはぐれちゃったのか。チロちゃんはワンちゃんかな?」
少女は小さく頷いた。
「一緒に探そうか?」
テンは少女を安心させようと満面の笑みを浮かべた。
少女はまたも小さく頷く。
ただし、一緒に探すと言ってももうこの町にはいないのだろう。
もしかすると既に死んでしまっているのかもしれない。
じゃあこの少女の家族はどうだろう。
お母さん?お父さん?兄妹かもしれない。
想像で悩んでいても仕方がない。
テンは直接聞くことにした。
「お父さんやお母さんもこの町に来てるのかい?」
少女は首を横に振る。
「お兄さんかお姉さんは?」
少女はまたも首を横に振る。
「一人・・・なのかい?」
「みんな、お空、行っちゃった。」
亡くなっているのか・・・
「お兄さんたちと一緒に行くかい??」
少女は少し間を置いたのち、頷いた。
少女の名は陽向。
齢6歳ほどの少女だ。
カインは反対していた。
状況的に怪しすぎる。
どうやってこんな場所で幼き少女が生き延びたんだ。
確かにこの町にヘルはいなかった。
むしろなぜいないのだ。
食糧も多くが残っていた。
手をつけられていなかった。
しかし、テンの意志は固く、連れ帰ってラシルの意見を聞くこととなった。
数日分の食糧を確保した一行は、陽向を連れてラシルの元へと直行した。