#7 継承
ヴァリアントが去り、先行部隊が全滅した。
この衝撃は、残ったFehdeのメンバーにとって計り知れなく、誰も口を開く者がいないまましばらく刻がたった。
「ラ、ラシル・・・」
和也は呆然とするラシルの肩に手を置き、負けられない、落ち込んでいられないと言わんばかりにギュッと力を込めた。
ガタッ
ズルッ、、、ズルッ、、、
「うぅ」
並木道の脇から聞こえる物音に全員が緊張と共に視線を移した。
「シードル!」
そこには右手右脚のみで這いずる血まみれのシードルがいた。
先行部隊唯一の生存者。
シードルは公園のモニュメントに左半身を強打し、飛ばされた事でむしろ一命を取り留めていた。
「みんな・・・は」
ラシルは目を瞑り首を横に振った。
この場にいる誰もが、現状の惨劇と、未来への不安と、シードルの無事の喜びでさまざまな感情が入り混じった複雑な心境となっていた。
「癒しの女神アケソよ、善良なるこの者に慈悲をあたえたまわん。恵みの光」
ヒールは自然治癒の時間をスキップするような能力。
怪我は治るが重症だった場合はしばらく動けないほどの疲労感に襲われる。
そのため、シードルはその場にグッタリと倒れ込んでしまった。
程なくして、
「よし、一旦元の拠点に引き上げよう。次どうするか決めないと。」
ラシルは自身も抱える不安を押しやり、みんなの道標となるべく、未来の話をした。
一向は元いた拠点へと戻った。
グッタリとしているシードルと、亡骸となってしまった仲間を連れて。
ドイルは勇敢な男だった。
力強く、常に先頭に立ち、みんなを導いていた。
無念だろう。悔しいだろう。
我々が必ず仇を取る。
みんな、後は私たちに任せて安らかに。
「カイン、ちょっといいかしら。」
ラシルに呼ばれたのは第2部隊のNo3異人のカイン。
「カイン、ここには戦士が足りない。分かってるわね。」
「はい、分かっています。ドイル隊長の意志を継ぐ覚悟は出来ています。」
戦士になる条件。
一つ目は生まれ持った素質。
二つ目はヘルまたはヴァリアントの血肉を取り込む。
そして、説明にはなかったもう一つ。
戦士の心の臓(魔力の源)を喰らう。
この方法は戦士の家系に於いて、素質を持たない世継ぎしか産まれなかった場合に取られる方法だ。
成功率は血のつながりが濃ければ濃いほど高く、親子でおおよそ90%。
完全な他人の場合、相性が良くて50%と言われている。
失敗すれば苦痛を伴い死ぬか、または意識が混濁しそのまま植物状態になることも。
また、戦士の能力ではなく、あくまでその魔力を継ぐことになるため、継いだ後の能力は人それぞれとなる。
そして、相性の確認の方法は一つ、魔力が流れている血を飲み、美味しいと感じるか否か。
他人の場合、不味いと感じた時点で成功率は10%を切るため現実的ではない。
魔力が流れている血を摂取、つまり生きているか、死にたての状態でなければ意味がなく、時間は限られていた。
カインは一口、血を飲んだ。
ゲボォ
吐き出すほどの不味さ。
カインは決めた覚悟と裏腹に、相性は最悪と言う結果に至った。
「す、すみません。」
「ダメだったのね・・・次よ!」
この先何としてでも戦士は必要だった。
次、その次、またその次・・・第2部隊の異人はことごとく相性が良くなかった。
一番良くても無味。
ただでさえ少ないメンバーに、低確率の賭けをさせるわけにはいかなかった。
第3部隊・・・
「和也・・・和也を呼んで。」
ラシルは苦悶の表情を浮かべながら言った。
ラシルは和也に一通りの説明をした後、断って欲しいと言わんばかりの口調で
「無理はしない様に、でも、この・・・この先の未来のために・・・」
「やるよ。どうせ今のままでは俺たちは役に立たない。いつまでもラシルの、Fehdeのお荷物でいたくない。」
ラシルの言葉を遮る様に和也は答えた。
まずは血を飲み相性を確認。
うっ
血を飲むと考えただけで吐きそうだ・・・
和也は意を決して一口、ドイルの血を口に含んだ。
う、美味い・・・
芳醇な香りと濃厚で葡萄の様な甘みと酸味のバランス、そしてなめらかな喉越し。
相性は最高みたいだ。
しかし、他人である以上これで成功率50%。
そもそも、現代人に同じ方法で引き継がれるのかも分かっていない。
「和也、確率は50%よ。でもあなたが一番相性がいい。成功するとしても、過程では想像を絶する拒否反応の苦痛が伴うでしょう。それでも・・・」
「ラシル、大丈夫、僕を信じて。僕も自分を信じる。」