#5 B地区マーケット奪還 ー公園エリア③ー
「思いの外ヘルが少ないな」
先行部隊の3班メンバーが拍子抜けと言わんばかりにぼやく。
「油断するなと言っているだろうに。」
「ま、ぼやけるくらいリラックスしてるってことで!」
第一部隊副隊長のシードルが少しムッとしたドイルをなだめる。
しかし、確かに広大な土地のわりにヘルの数が少なかった。
最初に出会ったスライム以外のヘルを見かけない。
先行部隊は辺りを警戒しながらもどんどん進んでいく。
ザシュッ!
!?
背後で物音がしたと思い振り向いた先には、血が流れた首を押さえ跪く第三部隊のメンバー。
「警戒を!厳戒態勢!」
先行部隊の最後尾がやられた。
ヘルが自分達を見送ったのか??
「厄介なことになったぞ。」
パキッ
枯枝が割れる音にドイルとシードルは素早く反応。
ドイルがガードし、シードルが素早く横っ腹に小剣を突き刺す。
犬型のヘル?
一体だけか?
他は?
さまざまな思考を巡らせながら二人は的確な対応をとった。
「やりきれていない。まだ来るぞ!」
シードルが叫ぶ。
先行部隊は待ち伏せている追撃部隊から離れてしまっていた。
「俺たちが誘い込まれてしまったのか。」
ドイルの顔は悔しさで歪んでいた。
ー油断ー
ドイルとシードルも気を引き締めなければと思いつつ、知らず知らずのうちに油断していたのだ。
グルルッ
「来る!」
右1、左2
シードルの掛け声に合わせてドイルが左の2体を抑える。
シードルは素早く1体に切りつけながら薙ぎ倒す。
「第1隊!背後あるかもしれん、第3隊を守れ。第3隊は痺れ矢準備!」
ドイルは叫んだ。
現代人では通常ヘルを倒すことはほぼできない。
そのため、麻痺薬などでヘルの動きを鈍らせ、戦士や異人のサポートをする。
その頃追撃隊は・・・
「30分は経ってる。遅い、引き返すのが遅すぎるわ。きっと何かあったのよ。」
ラシルの指示で待ち伏せをやめ進行し始めていた。
ただし、周辺を警戒しながら、ゆっくりとだった。
戦士以外の人々で、特に現代人の第三部隊のメンバーだけではヘルと遭遇した場合、逃げることもままならないかもしれない。
ドイルとシードルを、みんなを信じるしかない。
ラシルははやる気持ちを抑え、追撃部隊を守ることに徹しようとしていた。
「ラシル、行って。自分達の身は自分達で守るよ。」
和也は戸惑いの表情を浮かべるラシルの背中を押した。
「でも・・・」
「この日のためにみんなラシルに鍛えてもらったんだ。僕らを信じて。」
「・・・わかった、行ってくるね!テンはここにいてみんなを守って!」
颯爽と駆け出したラシルの背があっという間に小さくなっていく。
「よし、俺たちも早く合流するんだ。きっとみんな大丈夫さ。」
テンは笑顔でそう言うと、キッとした眼差しで前を向いた。
場面は先行部隊
「シードル、やったか?」
ドイルは襲ってきた犬型のヘル二体を薙ぎ倒していた。
後には腐敗した犬の死体。
「はい、やりま・・・」
グチャッ
振り向いたドイルの視線の中に大きな公園のモニュメントが横切った。
「シードル!」
「チロ・・・チャン・・・タチ・・・イジメ・・・ナイデ」
「う、そ・・・だろ」
人型ヴァリアント・・・
会いたくない、会ってはいけない敵との遭遇。