優しい彼女は夢を見る
チュンチュン・・・・
窓の外から聞こえる雀のさえずり。
「んんんんん・・・・」
僕、神崎保信はゆっくりとベッドから体を起こした。
「スピーーー」
隣では、妻の春音が寝息を立てている。
そっとその髪に手を伸ばすと、ゆっくりと撫でた。
「たしかに、ここ最近休む暇も無かったからな。」
うちの整備兵、奥谷みやびが開発した「九三式酸素魚雷航空機搭載型」。秘匿名称「エクレア」の実用試験で毎日飛び回る日々。休暇の日ぐらい、休んでもらいたい。
「ん~・・・・」
春音が少しうめいて、まぶたを開けた。
「あ、おはよ~、ヤス」
そう言ったハルの頭をそっとなでる。
「おはよう。今日は休みだし、なにしてすごそうか?」
「え?うーん・・・・」
少しの間考えるハル。そして、少し笑って僕の方を向いた。
ぎゅっ
「!?」
いきなり抱きついてくるハル。僕の胸に顔をスリスリしている。
「ヤスと一緒なら何でもいい!」
「そうか」
そっとハルの頭をなでる。
「だったら、少し出かける?」
「うん!」
大きくうなずくハル。
「ヤス!海に行こうよ」
「いいね。海に行こう」
僕も大きくうなずく。
急いで飛行服に着替えて荷物を整えると朝ごはんを食べた。
外の滑走路の横、水上機離発着プール。
そこには、一機の水上偵察機「瑞雲」がその身を横たえていた。
「ヤスさん、ハルさん!準備完了です!」
みやびがこっちを向いて敬礼する。
「お疲れさん」
答礼すると、瑞雲のコックピットに身を収めた。
「安全縛帯よし。フラップ開・・・」
「こっちもOK!」
後席に乗ったハルも安全確認済み。
「じゃあ、行くよ。エナーシャ回せ!」
キュンキュンキュンキュン!
みやびが始動クランクを回す。
「コンターック!」
バタバタバタ
エンジン始動!滑走を開始する。
ぐいっ
操縦桿を引くと、鋼鉄の鷲は大空へと舞い上がった。
「フラップ閉、プロペラピッチ自動、AMC入」
調整を終わると、太平洋へと機首を向けた。
阿武隈山地を眼下に飛び、浜通りに出る。
「ねえ、ヤス」
伝声管越しに聞こえるハルの声。
「子供ができたらさ、また皆でこうやって遊びに行きたいね。できたらみやびとか実に永信くんも誘ってさ」
後部機銃手席に座ったハルがこっちを振り返る。
「まあ、今はまだ無理だけどね」
だって、忙しすぎるから。
「でも・・・・」
僕は言葉を繋げる。
「・・・・今やっている後継者 育成が一段落したら、たぶん暇になると思うから」
「スピーーー・・・・」
伝声管越しに聞こえるハルの寝息。
「?」
寝ちゃったのか。
(だから・・・・)
僕はさっきの続きを心の中で言う
(もう少しだけ、待っていて・・・・)