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最後のニホンオオカミ  作者: やまうにゃー
3/4

契約

「おーい」

 さっきまでいたオオカミがいない。

「何処にいるんだー。目を閉じていただけで、何処かへ隠れる隙を与えたつもりはないのだが……」

 ――いや、目を閉じている時点で逃げる隙与えちゃってるでしょ。

 と、何処からか突っ込みが聞こえてくる。

 ん?

 この声聞き覚えがある気がする。

 何だか、天の声みたいな感じでエコーがかかっているため聞き取りにくいが、どう考えてもオオカミの声なのだ。

 ――お前何処にいるんだよ。

 天の声っぽいので、イメージに沿って心の中で念じてみる。


 ……返事、来ないな。

 もしかして聞こえてないのか?

 念じる事で通じるわけじゃないのか。

 そう思い、今度は口に出して言ってみる事に。

「お前何処にいるんだよ。あんまり隠れる様なら家の鍵締めて閉じ込めるぞ」

「そう言われましても……、近くにいますし」

 近く?

 俺は周りを見渡す。

 しかし、そこにあるのは二段重ねの段ボールと、俺がさっき書いたレポート、その時に使った携帯照明という感じで全くもってオオカミがいる気配がしない。

「お前マジで何処にいるんだ。全然気配感じないんだけど」

「でも、本当に近くにいますから」

 嘘だろ。

 と、思いながらもとりあえず周りを見渡してみる。

 ……やっぱりいない。

 あと周辺で隠れてそうなところは……。

 あ、まさか!

「お前もしかして俺の心の中に住み着いた的な――」

「背中のところにいました」

 オオカミの声が背後から俺の台詞を遮る。

「どうですか? なかなか隠れるのうまかったでしょう? これでも『群れの中で身を隠すのうまい選手権』トップですから」

 何だそのふざけた名前の選手権は。

 こいつのいた群れでは普段から何やってたんだ。

 まあいい。

 それよりこいつに聞きたい事がある。

「お前、生まれたのは何処なんだ? もしかして異世界とかか? とにかく、俺が今まで見てきた図鑑やら本やらには『オオカミ』なんて生物は載ってなかった。もちろん、『ニホンオオカミ』もだが」

 俺の質問に対して、首を傾げ、考える素振りを見せるオオカミ。

「信じてもらえるか、どうか分からないですが。いいでしょう、私の過去についてお話してさしあげましょう」

 不敵な笑みを見せるオオカミ。

「いえ、別に良いです」

「ええ!」

 断られると思っていなかったのか、キョトンとしているオオカミに、俺はまず確認しなければいけないと思っていた事を聞いた。

「それより、朝の事件の犯人ってお前なのか」

「朝の事件? ああ、あの人が死んだやつの事? それなら私じゃないよ。あれをやったのは私と姿が似ているエゾオオカミですよ。多分」

 エゾオオカミ?

 またもや新種の生き物か。

「で、そいつは強いのか?」

「いや、大体私と同じ戦闘能力だよ」

 解答になってないし。

「お前は強いのか?」

「うーん、強い、かな。でも、脚が早いことは事実だよ」

 脚の速さ聞いてないし。

 何かこいつ焦ってないか?

 さっきから様子がおかしい。

「お前どうした? さっきから様子が変だぞ。何か言いたいことでもあるのか? もしあるなら遠慮無く言ってくれ」

「ホントですか?」

「うん」

 俺が頷くと、オオカミは覚悟を決めたのか、スッと肩の力を抜き、ふうっと、一息つくと、俺の顔をしっかり見詰める。

「私は、私はあのオオカミと戦いたいです!」

「はっ? 何、お前はそれと戦いたいのか?」

「はい。とても戦いたいです」

「何故?」

「あの犬、前の時にチビとかいっていじめてきたんですよ、私のこと」

「へえー。だから戦いたいのね」

「はい」

 目はすごく真っ直ぐなので、多分本気だろう。

 問題は俺だな。

 俺は普通の人間だ。

 勝てるとは思えない。

 でも。

「お前は勝てるんだな?」

「はい!」

 ……よし。

 なら。

「戦ってやるよ。どんな奴でも」

「じゃあ私、日時を書いた紙をあの犬に渡してきますね」

「ところで、お前そのまま町を歩かれると色々と困るのだが……」

 俺の話を聞いて納得したのか、俺にとある話を持ちかける。

「私は、いくら蘇ったとはいえ、肉体自身は無いんです。ので、主様の心の中にいさせてください」

 心の中?

「それでどうなるんだ?」

「主様が私を召喚したい時に、召喚することが可能になります」

「へー。じゃあ町に行く時はそうしてくれ」

「分かりました」

 元気よく頷くオオカミ。

 

 ――この日、俺はニホンオオカミと契約を結んだ。






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