表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三時の甘盗娘  作者: MTN(エムティーエヌ)
6/16

第六話

「号外号外ー!! 都心のお騒がせ者、怪盗ステラの予告状が届いたよー!!」


 翌日の正午。常連のおばあちゃんが帰宅した頃に、新聞屋の号外が町中にばら

撒かれることになった。

 内容は見るまでもなく聞いての通り。今夜、玉子さんが事件を起こすのだ。


「団子屋ちゃん! 今夜はちょっとしたお祭り騒ぎになりそうだね! おっと、

 のんびり新聞を配っている場合じゃないぞ! それじゃあまた!!」


 相変わらず号外新聞の男は騒がしい。

 押し付けるように新聞を渡して走り去っていった。


「予告状ということは、美術館でなにかあるって事なのかな」


 号外新聞の見出しは、新聞屋の男の言ったとおりだった。

 大事な中身はというと、予告状がそのまま複製印刷されていた。



――今夜3時。本日より展示の銀時計を頂きに参上する。

  事は一瞬。必ず頂戴するが、せいぜい多くの警官隊を用意して、

  場を盛り上げくれ賜え。

  展示を楽しみにしていた町の人たちには申し訳ないが、

  私が現れるその瞬間までに、その目に焼き付けておいてほしい。

  それでは今夜お会いできる事を楽しみにしている。


  怪盗ステラ



「うわぁ……。こんなこと書いちゃったら、警官隊が集まっちゃうよ……」


 心配になってカフェを見ると玉子さんと目が合った。

 にこりと笑顔を向けてくれたけれど、すぐにお仕事を再開してしまった。


「あれ? 玉子さんがあそこにいるのに、誰が予告状を出したんだろう?」


 一日中カフェを意識していたわけではないけど、玉子さんが店の外に出た様子

は無かった。……と思う。

 もしかしたら、一瞬裏口から出て……。とも考えたけど、今日は朝から忙しそ

うにしていたから、それもないと思う。


「お忙しいところ失礼します。御手洗杏子様でお間違いないでしょうか」


 気がつくと、隣におじいさんが立っていた。

 この人には見覚えがある。美術館まで車で送ってくれた運転手さんだ。


「あ、先日は美術館までありがとうございました!」


「いえいえ、お嬢様たっての要望でしたから。おっと、これは秘密でしたな」


 あたしがお礼もこめてぺこりと頭を下げた後、おじいさんは思い出したように

楽しそうに笑った。


「話は変わりますが、本日はお嬢様より伝言を預かって参りました」


「伝言? 玉子さんからですか?」


「本日のおやつタイムは深夜にしましょう。杏子さんには招待状は不要だと思い

 ますので、どうぞお好きな席で私のショーを楽しんでいってください」


 ちぐはぐな内容なのに、あたしにだけは伝わるようになっていた。

 玉子さんは今夜の美術館での仕事ぶりを見に来て欲しい。そう言いたかったの

だと思う。


「たしかに、お伝えいたしました。それでは、私はこれにて失礼します」


「あの、待ってください!」


「なんでしょうか?」


 気がついたら引きとめていた。

 別にこれと言って用事があったわけではない。


「あたしも、伝言をお願いしてもいいですか?」


 おじいさんは優しく笑みを返してくれた。


「ええ、もちろんです」


「えーっと、ご招待いただきありがとうございます。予定の時間までに必ず席に

 着いているので、心置きなくショーを開催してください」


 あたしの言葉に、おじいさんは少し驚いた様子に見えた。

 せっかくお洒落な伝言をもらったけど、ちゃんと返事ができたか不安もある。

 とっさに思いついた言葉だったけど、玉子さんの邪魔をしない。ということが

ちゃんと伝わっていればいいかな。


「確かに。伝言をお預かりしました」


 今度はカフェに戻るおじいさんを止めなかった。

 と、言うよりも、あたしも用事ができてしまったから準備が必要になった。

 不思議とわくわくするような期待感が湧き上がってきて、それが自称怪盗のお

手並み拝見なのか、はたまた友達の晴れ舞台を楽しみにしているのか。

 どちらも。という気もする。

 この後の団子屋は、言うまでもなくいつも以上に元気な看板娘が張り切って、

大賑わいとなった。



************************************



 間もなく、早朝の3時になる頃。

 美術館の周辺は昼間と変わらないくらいに明るくなっていた。

 いったいこの町のどこから出てきたのか、不思議なくらい大きな照明器具がい

くつも並べられて美術館を照らしている。

 合わせて人の数もかなりのものだった。

 美術館の周りには、警官隊がぐるりと囲むようにロープを張って見張りをし、

更にその周りには大勢の見物客で埋め尽くされていた。


(玉子さん、こんなに人が集まるって思ってないだろうなぁ。大丈夫かな?)


 あたしは号外新聞が配られた時点で、きっとこうなるだろうと予想がついた。

 よく言えば平和な町だけど、悪く言えば刺激のない平凡な毎日に、ほとんどの

住人が飽き飽きしているのだ。

 ましてや、都会の人気者が現れるとなった日には、それはもう町中の人が集ま

るお祭り騒ぎになること間違いない。


(あ、あの警備員あくびしてる)


 さてさて、あたしはと言うと。闇に紛れて忍び込むのはお手の物で、思った以

上にすんなりと美術館の屋根の上にたどり着いていた。

 昨日の夜に忍び込んだとき、天井がガラス窓になっている事に気がついて、こ

こからなら下の様子が見られると思ったからだ。


(あの小さいガラスケースの中にあるものが、怪盗ステラのお目当てかな)


 部屋で区切られた展示室の様子はわからないけど、ちょうど天窓の真下には、

昨日までなかった小さなガラスケースが設置されていた。

 更にここにあります。と言わんばかりの大勢の警官隊と、警備員が集合して見

張っている。



――カチッ カチッ カチッ カチッ……



 突然、館内のスピーカーから正確な時を刻む音が流れ始めた。


『なんの音だ! 誰か放送室を見て来い』


 警官隊の1人が叫び、ガラスケースを見張っていた内の2人がどこか奥へと消

えていった。


――カチッ カチッ カチッ…… ゴーンゴーンゴーン……


「おあつまりの皆様こんばんは。随分な人数に歓迎されて、無類の喜びを感じて

 いるよ」


 それは、ほぼ同時に一瞬の出来事だった。

 時刻を知らせる低い鐘の音が3回鳴り、ちょうど今が3時だと知らせる。

 そして、見知った怪盗がどこからともなく2階に現れた。



 その右手に銀色に輝く懐中時計を握り締めて。


毎週 火曜と金曜 午後三時 に投稿します。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ