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三時の甘盗娘  作者: MTN(エムティーエヌ)
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第十二話

 なんだかもう少し寝ていたくなるような、心地いい暖かさに包まれながらも、

少しずつ意識が覚醒する。

 数日前、玉子さんとの神社での一件があってから、お向かいさんの開店準備に

あわせて起きることが日課になった。

 とくに何をするわけでもないのだけど、『おはよう』の一言を掛け合うためだ

けに、あたしの貴重な睡眠時間が1時間減った。


「うぅ~。今日は布団から出るの大変だ」


 玉子さんには、早起きが苦手な杏子さんが何日続きますかしら。なんて馬鹿

にされたけど、連日目が開けられても体が起こせない。

 そろそろ朝の6時。ばっちゃはもうお団子作りをとっくに始めているし、お母

さんはお茶の準備をしている頃かな。


『馬鹿なことを言うんじゃない!この町の人たちはそんなに裕福ではないんだ!

 短期間に何度も徴税をすれば生活だって困難になるのが分からないのか!』


 一階からお父さんの声が聞こえて、一瞬で目が覚めた。

 こんなに怒りをあらわにした声は珍しく、急いで着替えて一階へ降りる。


「お父さん。何かあったの?」


「杏子? 起こしてしまったか、すまないね」


 見たところ、もうお店には誰も居なかった。


「誰かきてたの?」


「ああ、市長のところの役人がね……。困ったものだよ」


 市長の。というだけで意味を察することができた。

 この頃やけに徴税が多くなっている気がする。

 ステラや、あたしも無関係ではないと思うけど、こんなに多くては問題だ。


「あんちゃんまでこわい顔になっとるでな。看板娘の機嫌くらいとらんかね」


「ばっちゃ……」


「あはは。義母さんの言う通りだ。もうすぐお店も開けなきゃいけないからね。

 先にいつもの挨拶に行っておいで」


 気がついたらばっちゃが頭を撫でてくれていた。

 まったく意識していなかったので、こわい顔と言われてどきりとさせられる。


「じゃあ、ちょっと玉子さんにあいさつしてくるね」


 玉子さんはどう思っているのかも気になった。

 今日のおやつタイムに相談してみよう。



************************************



「杏子さん? 今日はなんだか様子が変ですわよ」


 本日のおやつタイム。

 案の定というか、なって欲しくなかった現実と言うか、市長の手下が町に居る

日はみんな家から出ようとしない。

 見つかってしまえば何を言われるか分かったものじゃないから。


「今日は、朝のおばあちゃんがこなかったんです……」


 ちなみに、カフェもいつもの半分以下のお客さんで閑散としていた。


「あら。それは何か用事あったのかもしれませんよ? うちも今日はこんなあり

 さまですし、外出を控えているのですよ」


「そう……ですよね」


 今日は、たまたま来れなかっただけだと信じたい。

 毎日欠かさず顔を見せてくれていたので、何事もなければいいけど……。


「それにしても、この町の市長はなかなかの曲者ですわね。町の人が困っている

 姿が想像できないものでしょうか」


「自分の私腹を優先しているからこうなるんですっ。この辺の人たちですら、毎

 日楽をしているわけじゃないのに」


「何か町のために……、というわけではないのですね?」


「それだったら、お父さんが朝からあんなに怒るはずないですよ」


 温厚なお父さんが怒っている姿は久しぶりに見た。

 間違っていたら説明してくれるし、困っていたら一緒に考えてくれる。いつも

冷静に対応しているからこそ、感情的になっている姿が物語っている。


「私腹を肥やす……ですか。私も人のことを言えた義理ではありませんが、度が

 過ぎるのは少し考え物ですわね」


「玉子さんは違いますよっ」


「かばってくれるのは嬉しいですけど、何も変わりませんよ。人が何かしらの対

 価をはらって手に入れているものを、自分の都合で奪い去る」


 そんな事はない。と言ってあげたかったけど、玉子さんの言っていることは間

違っていなかった。


「もう。このお人よしさんも困り者ですわね? でもこれがヒントですわ。似た

 もの同士をこらしめるとしたら、どうすれば良いか。作戦会議が必要ですね」


 玉子さんは自分がしている事がちゃんと分かっている。だから、てとも強い人

なんだって改めて思い知らされる。

 そして、似たもの同士ををこらしめる。と言ってくれた玉子さん。この町のた

めに何かしてくれるという事がとても嬉しかった。


「まずは蔵の中がからっぽになるまで泥棒してみるのはどうですか!」


「それ、何日かけてやる気ですの……?」


「じゃ、じゃあ、行商人にだまされた壷にニセモノって落書きを……!」


「子供じゃないんですから稚拙な悪戯はやめましょう?」


「もうっ! じゃあ、玉子さんならどうするんですか!」


「そうですね~。私なら……」


 こうして今日のおやつタイムは、私腹を肥やす成金市長をこらしめる大作戦会

議に変わったのだった。

毎週 火曜と金曜 午後三時 に投稿します。


Twitterができました! よろしくお願いいたします!

@amatoumusume1

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