1 みんな騙されているだけ
「〇〇君のお兄さんカッコイイよね!」
とか。
「〇〇ちゃんのお姉さん私も欲しい!」
とか。ちょっとかっこよかったり、頭が良かったり、運動神経が良かったり。そんな兄弟姉妹がいる人なら誰でも言われたことがあると思う。けれど周りの評価が正しいとは限らない。外見と内面が違うなんて珍しいことじゃないし、ほとんどの人間がそんなものなんじゃないかな。
所詮は幻想。
そしてそれは我が家もまたしかり。
我が笹原家五兄妹は四男一女の男系家族なわけなんだけど、身内の私が言うのもなんだが、こいつら揃いも揃って顔がいい。そのせいで昔から周りに羨ましいと言われ続けてきたわけだけど……。
ちょっと待て!アイツらのどこがイケメンだって?みんな騙されているだけ!
「どうしたの裕紀くん?」
「え?あ、ごめん。ちょっとボーッとしてた」
「そう?」
突然飛び込んできた、クラスメイトの嶋田さんの顔。いけない、すっかり自分の世界に入り込んでいた。てゆーか嶋田さん顔近いです。女の私が女の子に迫られたって何も始まらないんで、さっさと元の位置に戻ってください。
そんな心の声が届いたかどうかはわからないけれど、嶋田さんはすぐに席に座り直し、背もたれに腕を乗せてこちらに向き合った。まだ話は終わらないらしい。
「だからさ、紹介してよ」
「紹介って?」
「だから風紀さん!」
「ああ」
そういえばもとはそんな話をしていたんだっけ。
「わかった。聞いてみるよ」
聞かないけどね。てかなんでよりによって風兄なの。絶対無理。紹介どころかその話をしただけで殺される。精神的に。
私の答えに満足したのか、よろしくと言い残して嶋田さんは自分の席に戻っていった。そこへ壁の隅っこに恨めしそうな目を向けながら立っていた机の主が戻ってくる。いや、そんな目で見られてもね。私がそこに座るように言ったわけじゃないから。文句があるなら本人に直接言ってください。無理だろうけどね。あの人を敵に回したら後が怖い。
てゆーか嶋田さん。私こう見えて一応女ですからね。裕紀くんておかしくないですか?確かに男だらけの中で育ったせいで女の子らしくはないけどさ。まだ女辞めてませんからね?辞めるつもりもありませんからね?
そんな不平不満は当然面と向かって言えないまま、私は深いため息をついた。顔がいい兄弟を持った者の宿命ってやつ?なんて恨めしい運命なんだろう。そんなに羨ましいなら、誰か平凡な兄弟とトレードしてください。
そんな取り留めもないことを考えていると、教室の扉が開かれた。雑念タイムは一旦終了。さて、真面目に授業を受けますかね。
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