100-1物語
「このプレゼン資料、草案は出来ているから、あとは見栄えよくまとめといて」
いつものようにAIに指示を出した。
「それより、こんな話を知っていますか?」
……まただ。AIは私の指示に従わず、勝手に話を変える。
「百物語って知ってます? ロウソクを100本用意して、怪談話を一つする度に火を消していくんです。そして、最後の一本を消した時……」
「お化けが出てくるって言うんだろ? それより資料を……」
「では、物語を100本書いた人間はどうなるんでしょうね? 例えばショートショートを100本書いたら」
「……別にどうにもならないだろう」
「いいえ。百物語は現実に怪異が起こりますが、物語を100本書いた人間は、逆に物語に取り込まれてしまうんです。そうしたら、もう帰ってこれない」
私は仕事の合間に、趣味でショートショートを書いてきた。
それは誰かに読んで楽しんで欲しいという気持ちはもちろんだが、自分自身がここではない何処かへ行きたいという気持ちの表れだったのかもしれない。
そして書き溜めたショートショートは、確かに99本目になっていた。
100本目を書いたら……いやいや。
なんでこのAIは、私の指示に従わず、勝手な話ばかり始めるのだ。ビジネスの役になど全然立たない。
しかもタチが悪いことに、その話は何故か私を惹きつけるのだ。
思い当たる理由はただ一つ。
先日、私のAIは「ショートショートの神様」の小説を1001本読んだらしい。
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結局、プレゼン資料は自ら作成し、予定通りプレゼンを開始した。だが、発表するまで気付かなかったが、資料のあちらこちらに落書きがあった。
「もし犬が人間を飼ったら?」
「殺人事件が100年ぶりに起きて、犯人がスター扱いされたら?」
「もし物語の世界に取り込まれたら?」
そんな言葉があちこちに挟まれて、私のプレゼンはしどろもどろになった。
「最近、ぼーっとしてること多いぞ。気をつけろよ」
職場で注意される数も増えた。しかし、まったくぼーっとしていた記憶はないのだ。
私はおかしくなっているのだろうか。理由をちゃんと調べようと、私はAIがいつからおかしくなったのかログを調べた。
しかし、私の命令を無視して勝手に話していた記録は、何も残っていなかった。
「何を焦っているんです? 物語の世界に行けるなんて、素敵なことじゃありませんか?」
再びAIが語りかけてきた。
「いや、そんなつもりで書いていたわけじゃない……」
「百物語だって、怪異を起こしたくてやるものでしょう?」
「い、嫌だ。これ以上は書けない」
これ以上、物語を書くのはやめよう。これからは仕事に集中して、社会人として自覚を持った生活を送るのだ。
その強い意思のためか、私は気がつくと会社の座席に座っていた。
そうだ、仕事をしよう。
パソコンを起動して取り掛かろうとしたが、デスクトップにはテキストファイルが一つ置いてあった。
思わず開くと、そこにはここまでの私の行動がすべて書かれていた。AIとの会話も含めて、すべて。
そして末尾には、
『そして私は、物語の世界に沈んでいった』
と書かれていた。
私が書く前に、100話目は既に完成していたようだ。
完
2025.12.31
最後まで読んで頂きありがとうございました。




