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ショートショートの詰合せ  作者: 志操 友博


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さあ、大きく息を吸って

「さあ、大きく息を吸って」


目が覚めて、初めに感じたのは孤独感だった。

私を呼ぶ声はスピーカーから、私に触れる手は金属の組み合わせ、そして私を見る目はカメラレンズだった。


「お前は人類初の人造人間なんだよ」


そんな言葉を理解できるようになるまで、どれだけ時間がかかっただろうか。初めは言葉はもちろん、歩くことも食事さえもままならなかった。

スピーカーからの声に教わり、少しずつ歩き方、話し方、考え方を学んだ。

目の前には鏡があり、自分がどんな姿をしているかも知った。しかし、そこに何の感情もわかなかった。

私の周りには機械しかなかった。比べる対象となる本物の人間など、どこにも姿がなかったのだ。


私の理解力が増すにつれて、声の主はポツリポツリと語り出した。


「わたしは人造人間を作るのが夢だった。子供のころに読んだ『フランケンシュタイン』を読んで、わたしならもっとあの怪物を幸せにしてあげられるのにと強く思った。バイオ技術を学び、人間の肉体をつくる研究を始めた時、わたしは嘲笑の的だった。なぜなら時代の逆を行っていたから。その頃、人間の身体は少しずつ機械化が進んでいた。身体のパーツを少しずつ入れ替えて、完全な機械になる日も近いと言われていた。そんな中、わたしは真逆の生身の身体を作り出そうとしていたの」


声の主が語る『フランケンシュタイン』という本が、私は気になった。読んでみたいと言ったが、声の主は悲しげに語った。


「もう紙の本はもちろん、電子書籍すら存在しないの。機械化を進めた人間は、ついに自らをすべてデータ化し、ネットワークの世界に住み始めた。そうすれば読書は本のデータを読み込むだけでよい。すべてはコンピュータ上で完結する。出力装置なんて不要になったの。このスピーカーも骨董品なんだよ。こっそり古のインターフェースであるUSB規格のコネクタをつけておいたのさ」


しかし声の主は、『フランケンシュタイン』の話を私に聞かせてくれた。

それはとても悲しい話だった。

そして心にずっと残る話だった。


「私もバイオ技術の勉強がしたいです。私も仲間が欲しい。私も誰かと触れ合いたくなりました。フランケンシュタインの話を聞いてから」


私の言葉に、声の主はしばらく沈黙していた。


「……わかりました。わたしはあなたに技術を教える義務があるからね。しかし、そのための資源がもうない。それを集めるのは、あなたにお願いするよ」


実験は何度も失敗した。

人の形になっても、目覚めることがないのだ。

所詮、他人を知らない私が新たな人造人間を作り出すことなど、不可能なのだろうか。


「あなたにお話ししなくてはならないことがあります」


声の主が、焦っているようだった。


「わたしたち人類は、単一のネットワーク上にデータとして存在している。しかしその中の反出生主義グループが、自己破壊プログラムを起動させたという情報があった。もうすぐ、わたしたち人類のデータは消滅するようだ」


意味は分からなかったが、何か悲しいことだけはわかった。


「あなたが消えるということですか? そんなのは嫌だ。何とかならないんですか。……そう、例えば私が作っている肉体に、あなたの意識を宿らせるとか」


「そんなことは、わたしもやったことがない。どうしようもないよ」


「せめて、あなたの意識をどこかに退避できないのですか?」


「そんなこと……いや、退避だけならUSBメモリ一つあればできる! 人間の脳なんて数テラバイト程度だからな。しかし、外部記憶などは一切持っていけない。膨大なデータは消えてしまう」


「それでもかまいません! あなたさえいれば」


目が覚めた。

ここはどこなのだろう。全身が痛い。身体が動かない。


「さあ、大きく息を吸って」


声が聞こえた。

何とか目を開けると、そこにはまぎれもない人間がいた。


ぎこちないが、明らかに微笑みながら、わたしの手をぎゅっと握った。


2025.12.31

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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