表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ショートショートの詰合せ  作者: 志操 友博


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

96/100

ディレイ

1分後の世界を見てみたい。それが僕の子供の頃からの夢だった。


「実は世界は1分間遅れているんだ」


そう父に教えられた時は意味が分からなかった。

「お前も人に何か言ってはいけないことを言ってしまったことがあるだろう。

心無い悪口とかな。でもその言葉は相手に届かずに消えている。なぜかわかるかい?」


考えたこともなかった。そういうものだと思っていた。


「わたしたちは皆、生まれたときに脳にディレイと呼ばれる装置が埋め込まれてるんだ。

その装置により現実で起きたことの1分後の世界が脳に届く。私たちが何かよくない事を言ってしまったり見てしまっても、その1分の間にディレイが修正してくれるんだ」


確かに、小さい頃から友達と雰囲気が悪くなり、相手が何か言ったような場合も何も聞こえなかった。自分が言った言葉も相手には届いていない。

初めて食べたピーマンは味が大嫌いだったが、次からは口に入れても味がしなかった。


大昔、テレビという映像を一斉に送信する装置が使われていた頃に、リアルタイム放送と言いながら少し遅れを入れていたらしい。

出演者が不適切な発言をしたらカットできるように。

それが今のディレイの元になっている。


調べていくとそんな知識も得られた。

そして知識を得るほどに1分後の世界が気になった。


中学生の頃、決定的な経験があった。学校の帰り道に雨に降られ自転車で転倒してしまったのだ。

運悪く高い段差のある道で僕は自転車ごと落ちてしまった。

その瞬間、頭の中に温かいビジョンが浮かんだ。恐怖心は消え、痛みも何も感じない。

これまでの思い出も克明に目の前に浮かんだ。これが走馬灯なのかと思った。

後からそれもビジョンが見せていたことが分かった。実際には1分前に僕は落下しており、意識の上ではその恐怖や痛みは綺麗に取り除かれていたのだ。

しかし、その時僕が本当に死んでいたら? 何も知らずに僕の世界は急に終わっていたのだろうか?

1分後の世界を知らずに……


その日から、僕は1分後の世界をさらに強烈に見たくなった。

周りの人間からそんなこと意味ないと言われても気になってしょうがない。

何人かは同調してくれる友人もいたが、大人になるにつれて、1分なんてどうでもよいと日常に追われていった。

大人になってもこだわる僕を批判した人もいたかもしれない。しかしそんな言葉はディレイがカットしてくれる。

同時に不安に思った。僕の気持ちもカットされているのではないか? と感じたのだ。


なんとかディレイをハッキングして本当の世界を見れないだろうか?


そう思ってコンピュータの勉強をしていた僕だが、ディレイはAIにより自動メンテナンスがされており、完全にブラックボックス化されていた。

そもそも今どきコンピュータを勉強する人間もいなければ資料もない。


時は流れ僕も中年となっていた。年齢以上に身体が重いのは無理をしすぎたからだろうか?


(そんなに現実の世界が見たいのですか?)


そんな声が脳内に直接聞こえてきた。幻聴かと思ったが、そんなものはディレイが消してくれるはずだ。

とすると、これはディレイが話しかけているのか?


(最後の挨拶に伺いました)


どういうことだ?


(まずは現実の世界をご覧ください)


目の前に広がった世界は、荒れ果てた世界だった。いつも見る街は汚れてあちこちが破損していた。空は赤く、そして異常に寒い。あちこちに黒い山が見える。あれは……人間?

これが1分後の世界なのか? 気がつくと全身が震えていた。


「なんだこれは?」


(一部の傾向を持つ方にだけお知らせしているのです。実は世界が遅れているのは1分だけではなかったのです)


自分の手が老人の手であることに気づいた。鏡を見ると年老いた自分がいた。


(実は地球に巨大隕石が近づいていることに気づきました。かなり前のことです。

そして今の人類の科学力では対処できないとも分かっていました。大局的には、何も知らずに消えていくのが幸福を最大化する最適解と判断しました。

そのために1分間のディレイを少しずつ伸ばして、幸せな時間を増やしていきました)


そ、そんな……一体どれだけの時間を遅らせたんだ!?


(数十年とだけ言っておきましょう。人間が睡眠状態時などに少しずつ伸ばしていました。しかし、それも限界になりました)


私は絶句していた。


(しかし一部の真実を追求しようという特殊な人間にだけは、最後に真実を告げるのが最善だと考えました。あなたのような)


世界が終わろうとしていた。多くの人間はまだ何十年も前の世界を生きている。


(しかしご安心ください。痛みや恐怖はアドレナリンを大量に生成して取り除きます。素晴らしい過去の思い出も脳内で上映いたします。それにリラックス効果のある音楽も……)


2025.12.31

最後まで読んで頂きありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ