レンタル・チャイルド
ソイレント・オーウェル社の始めたレンタルチャイルド業は
大成功を収めた。
少子化が進み地域によっては、自分が大人になってから一度も子供を見たことがないという人間も多くなっていく中で、子供のすばらしさを知って欲しいと始まったレンタルチャイルド業であったが、すぐに利用方法が変わってきた。
ある自然保護活動家が両腕に子供を抱えて、この子たちの将来はどうなる!と叫んだ。
効果は絶大で、今までにない寄付金が集まり、活動家界隈ではチャイルドレンタルが急速に流行った。
「こんな食べ物を子供たちに与えるのか?」
「こんな暴力描写は子供たちを暴力的にする!」
「こんなわいせつなものを見て育った子供がどうなることか」
余りの人気にレンタルチャイルド不足が発生し、ここにも少子化が!と騒ぎになった。
政治家も負けてはいなかった。
「子供たちの笑顔のため、私に清き一票を!」
「国の借金を子供たちに負わせるのか」
が定番フレーズとなった。
新人政治家は演説中に偶然居合わせたかのように子供を配置し、
「おじさん、本当に世の中を良くしてくれるの?」
などと質問をさせ、「おじさんならまかせられるや!ぼくは選挙権ないけどね」
とオチまでつけて群衆を笑わせ、政治家の好感度アップに貢献した。
「あのお店のごはん、わたし大好き!パパママ連れて行って」
レンタルチャイルドは街中で飲食店の宣伝にも活用された。
子供が歩いていること自体が珍しいので、大人たちは子供の言葉に耳を傾けていたのだ。
あまりの子供人気に、数少ない子供の争奪戦が発生した。
そのなかでもソイレント・オーウェル社は、生まれた子供の面倒を成人まで見る上に、親にはその間、謝礼が支払われる。
学校教育が崩壊する中、民間のチャイルドレンタルが子供たちを教育し始めた。
子供たちは大人を魅了するしぐさや言い回しを覚えて、マナーも完璧に身につけた。
もちろん必要に応じて子供らしく振舞うことも出来る。大人がはしゃいで欲しそうにすれば大騒ぎし、少しでもイライラしている様子があれば大人しくなる。
「ママは毎日働いて、いつ休んでいるんだろう?」
といった大人が喜ぶセリフも澱みなく言える。
まるで全ての子供が子役のようになったのだ。
金銭的なインセンティブもあり、子供の数が増えてきた。
大人たちはわが子を次々とチャイルドレンタルに送り込み、その謝礼で暮らすようになった。
「いやあ少子化が解消されてよかったですね」
ある会議で政治家が教育学者に語り掛けた。
「いえ、本当の子供はついに絶滅してしまいました」
だが彼の発言は安っぽいペシミズムだと一蹴された。
⸻
少子化が解消され、経済も発展していたはずだが、ソイレント・オーウェル社は
チャイルドレンタル業を閉鎖した。
チャイルドレンタルを卒業し、大人になったかつての子供たちは、新しい子供たちに厳しい目線を向けた。
演技が嘘くさい、媚が露骨だ、自分たちの頃の方がうまくやっていた。
まるで姑のようにあら捜しをしては批判し、子供を使ったマーケティングはうまくいかなくなっていた。
そしてまた少子化が訪れた。
ソイレント・オーウェル社は新たな事業を始めた。
『忘れてしまった大切な存在……だれもが若々しい現代だから……
“レンタルおばあちゃん”サービスをスタートします。腰が曲がり、しわも多い。しかし現代人が忘れてしまった優しさと懐かしさがそこにはあります。レンタルの受付は来月初旬からです。お申し込みは……』
完
2025.12.31
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