キャンセル・ヴァンパイア
『ヴァンパイアってアップデート出来てないよね?』
そんなSNS上での誰かの一言がヴァンパイアを窮地に追いやった。
「今時、処女の血しか飲まないなんて」
「しかも美しくないとダメなんだって。めちゃルッキズム」
「平等にあらゆる血を吸えよ」
SNSでの声は次第に大きくなった。不思議と、人を襲い血を吸う行為よりも処女を狙うということに
批判が集中した。まるでそちらの方が罪深いことであるかのように。
『#ヴァンパイアをキャンセルせよ』
という運動に発展した。
ヴァンパイアモノの映画やゲーム、小説といったキャラクタービジネスの権利で
細々と暮らしていたヴァンパイア達であったが、それらの作品への不買運動、また批判を恐れた経営者の判断で新作の企画も次々と白紙になった。
「いったいどうすればいいんだ」
老いたヴァンパイアの王は頭を抱えた。
「実際、処女の血はうまいのだ」
「とはいえ、処女の血は価格高騰が止まりません。キャンセル運動の影響で
収入も減り、我々ヴァンパイア族全員に十分に血を行き渡らせるのは難しいですよ」
若いヴァンパイアが財務諸表片手に語る。
「ここは妥協して、非処女や男性の血も飲むべきだと皆に啓蒙する必要がありますよ。
人間からの批判も強くなるばかりです」
***
「王様、こちらが処女の血です」
「うむ……やはりうまい」
「そしてこちらが非処女や男性のを混ぜたブレンド血です」
「うーん、これは結構いけるなぁ。昔は飲めたものじゃなかったが」
「そうでしょう?我々の技術も進歩しておりますから。今ではほとんど味の差なんてないんですよ!それで価格は十分の一以下なんです!」
「そんなに安いのか!これを飲まない手はないぞ!」
ヴァンパイア一族に向けて配信された“ブレンド血もうまい”キャンペーンは一定の効果をあげた。
しかし映像が人間側へ流出して、「血に10倍以上の値段差をつけるなんてやはりヴァンパイアは差別主義者だ」とキャンセルが進んだ。
「くそう。なんなんだ!人間ども!ブレンド血もうまいと嘘までついて宣伝したのに!」
ヴァンパイアの王は怒り狂った。
***
文字通り血に飢えた一部のヴァンパイアが人々を襲い始めた。
ヴァンパイアへの批判はますます強まり、女性たちはニンニクスプレーを持ち歩くようになった。
しかし熊にクマスプレーが思ったより効かないように、ヴァンパイアにニンニクスプレーはあまり効かないらしいとワイドショーで連日取り上げられ、人間のヴァンパイアへの恐怖と怒りは増すばかりであった。
ある日、ひとりの学者ヴァンパイアが論文を発表した。
『ヴァンパイアにおける血液志向の文化的刷り込みとその歴史』
その内容は、本来ヴァンパイアに処女の血に対する志向はなく、どんな血でも飲んでいた。
しかしある人間の作家が描いたヴァンパイアが処女の血を好む描写があり、その影響でヴァンパイア自身が処女の血を好むと思い込まされていたに過ぎないという。
つまり人間による刷り込みで作られた役割を演じてきたヴァンパイアは、むしろ被害者であり人間に搾取されてきた存在だったのだ。
この論文により、人間は手のひらを返すようにヴァンパイアを「差別と闘うアンチヒーロー」だと褒め称えだした。
大量のヴァンパイアモノの映画やテレビドラマが作られて、ヴァンパイア業界は大いに儲かった。
その収入を元にヴァンパイア達はあらゆるエンターテイメントに投資をし始めた。
「我々はもう人間を恨んではいません。それよりも最高のエンターテイメント作品を共に作り、人類とヴァンパイアの発展を共に進めようではありませんか」
人類はヴァンパイアの寛大さに涙した。
ヴァンパイアの経営する会社は、昼間は人間、夜はヴァンパイアが働くことで24時間眠らずに活動を続け、どんどん新しい作品を作り続けた。
人間はその作品に夢中になり、寝る間も惜しんでエンターテイメントを消費した。
人類はどんどん出不精となり、人間同士の交際は減っていった。
「だって恋人を作るより映画を見る方が楽しいもん」
「恋愛なんて面倒だよ。それよりドラマの続きが見たい」
若者の恋愛未経験者の数は過去最高に上った。
ヴァンパイア達はにこやかにパーティを開いていた。
「さあ、いくらでも処女の血が飲めますよ。最近は価格破壊が起きていますから」
完
2025.12.12
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