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ショートショートの詰合せ  作者: 志操 友博


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マナーの虎

「今月のマナーもう提出した?」


「はい、先ほど最終案を協会に提出しました」

生成AIに対して初めにするべき挨拶。

上司へのメールする場合のコピペ使用率の上限。

AI上司と人間上司へのエレベーターの席順。


山下敬太郎は仕事に行き詰まりを感じていた。

マナー講師として毎月考案する新しいマナーの提出も単なるルーティーンと化していた。


小さいころ見た映画のセリフ「マナーが人間をつくる」に感銘を受けてマナー講師となった

山下だったが、今やマナーは風前の灯火だ。


山下がマナー講師になるべくマナー専門学校に入った頃、乱立するマナー講師による独自マナーに

世間は嫌気がさし、マナーパッシングが始まっていた。


そんな中、メディアにも出演する有名マナー講師が

「マナー講師への批判はどれもこれもマナーがなっておらず、ますますマナーの重要さを痛感した」

という内容のコメントを発表し、大炎上。ついに引退へと追い込まれた。


事態を重く見たマナー講師業界は日本マナー協会を設立。今後はマナーは協会の認証を得た

マナーのみ世の中に流通させるとした。

マナー講師も免許が必要となった。膨大なマナーをすべて覚える必要があり、半数以上の

マナー講師が失職した。マナーが多すぎたことが自らの首を絞めたのだ。


山下はなんとか試験をクリアして無事マナー講師としてマナー事務所に就職した。

しかしまたそこで現実に絶望した。AIである。

今や人と人の間にはAIインターフェースが介在し、マナーもすべてAIが賄っていた。

AIインターフェースはグラスタイプで映像を映し出すので、その所作まで修正して映してくれる。


例えば相手の会社に行きたい場合は「11月24日にお前の会社行くから」

と言えばAIインターフェースが


『拝啓 晩秋の候、ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。

さて、誠に唐突かつ不躾なるお願いにて恐縮の至りではございますが、

来る十一月二十四日という日付におきまして、

貴社の尊き門戸を僭越ながら私ごときが叩かせていただく栄誉を

賜ることは、果たして可能でございましょうか。


もしもそのような僥倖に恵まれました暁には、

私は靴底の泥一粒すら落とさぬよう細心の注意を払い、

呼吸の回数すら控えめにし、

空気の一分子たりとも乱さぬ覚悟で参上いたす所存にございます。


何卒、過分なるご寛容を賜りたく、

平身低頭にてお願い申し上げる次第でございます。』


これを一行に訳して人間に伝える。

長文で挨拶するのはAIだけなのだ。


自分たちの行っていることは果たしてマナーと呼べるのだろうか?

毎月新しく決めたマナーも結局まとめてマナーアップデートとして

サーバーに挙げてAIだけがそれを学んでいる。人間は無視だ。


このままでは人間が堕落してしまう。

マナーこそ人間を作るのに!! 山下はもともと山上という名前だった。

しかし、名前に「上」が入るのは相手に失礼ではないかと思い改名した。

そんな覚悟や相手を思いやる気持ちが人類から消えてしまうのは許せない!

AIが憎い。AIを何とかしなくては!


そう思い山下はマナー協会に新しいマナーを提案した。

『AIの使用こそマナー違反である』

というものだった。

しかしAIなしではまともにビジネスは成り立たず、実はマナー講師も

AIなしではマナーを把握できていなかったため、山下の意見は無視された。


山下は怒った。どういつもこいつもマナーがなっていない。

こうなればとAI破壊を目論んだ。あらゆるハッキング技術を学び、

マナーAIのサーバーの破壊をするべく侵入した。

元々、マナーが壊滅的なネット空間を憎々しく思っていた山下は、ネットを

いつか何とかしようと勉強していたのだ。

しかし努力むなしくハッキングは失敗。すぐに山下が犯人として捕まり、

刑務所送りとなった。

「また、マナー講師がおかしなことしている」

「だからマナー講師はダメなんだ」

とネットは再度炎上した。

刑務所での山下の所作、マナーは完璧であったという。


そんな山下のハッキング技術に目を付けた反社会組織が彼を誘った。

模範囚として刑期を終えた山下はそのまま反社会組織に入った。


そこではいまだメンツの世界だった。上下関係、忖度、そしてマナーにうるさかった。

親分への挨拶や配慮は欠かさなかった。

そうしているうちに親分にも一目置かれるようになった。

まったくマナーのマの字もない新入りにマナーを教えるのも彼の仕事だ。


山下は初めて自分が天職に就いたと思えた。


2025.12.08

最後まで読んで頂きありがとうございます。

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