夢(広告付きプラン)
男は毎晩眠ることだけを楽しみにしていた。
正確には夢を見るのが楽しみだった。
仕事をして帰宅してぼんやりと過ごして終わり、
また同じ次の日が始まる。
退屈だが何かしたいとも思わなかった。
それが最近になって急にわくわくするような夢を見るようになった。
ある時は国際宇宙ステーション内の陰謀を暴き、
ある時は現代によみがえった恐竜を手なずける。
そして――
夢の中にはいつも美しい女性がいた。
名前はナタリーといって夢ごとに役割は異なるが、
いつも男を魅了した。
どんな冒険も彼女がいないとつまらない。
美しい彼女に頼られると、まるで自分も映画スターになったような
気持ちで勇気が湧いてきた。
不思議だなと男は思った。前まで見る夢はふわふわと
とりとめもなく、不条理で、どちらかといえば恐ろしいと思っていた。
それが大作映画のようなキラキラとした夢を見るようになった。
まさに「夢のよう」だ。
夢が楽しくなるにつれて、男は起きている時間がどんどん苦痛になってきた。
早く夢が見たいのに、なぜ退屈な日常を過ごさなくてはいけないのだ。
ナタリーのような美しい女性も男の周りにはいなかったし、いたとしても
これといった特徴のない男に興味を持つ女性はいなかった。
今夜の夢は巨大怪獣と闘う兵器を開発した科学者になっていた。
男の開発した兵器を使い、地球防衛軍のリーダーであるナタリーは無事怪獣を
殲滅した。
戦いを終えた彼女は潤んだ瞳で男を見つめた。
「今回もあなたに助けられました。本当に尊敬しています」
彼女の顔が目の前に迫った。
男は思わず彼女の肩を抱き寄せた。
『あなたの口臭は大丈夫? 気になる方はソイレントオーウェル社の
クレイジーブレスを!!』
『男性ファッションにお困りのあなた! ボルナであなたのコーディネートをお手伝い!』
『最高のデートをあなたに……レストラン・レニー』
「な、なんだ!? いきなり!」
「どうしました?」
ナタリーは不思議そうに男を見ていた。
男は混乱していた。急に広告のようなものが目の前に広がったのだ。
それからというもの、いつも夢の中に広告が差し込まれた。
それも良いシーンになった瞬間に必ず現れるのだ。
せっかく夢に浸っていたのに広告が現れると途端に冷めてしまう。
どうせ夢なのに何をしているのだろう。ナタリーだって自分が都合よく生み出した幻想じゃないか。
まさに夢から覚める思いだった。
唯一の楽しみを失い男はまたつまらない日常を繰り返すだけになっていた。
今日も何気なく帰宅してぼんやりと過ごしていると一通のメールが届いた。
『夢の広告にお困りですか?
毎晩の楽しい夢に広告が出てきてお困りの方、月々わずかな金額で広告なしプランに変更が可能です。
1年分まとめてご支払い頂くとさらにお得に広告なしで夢を満喫できます。
わが社はあなたの夢を応援します!』
***
「アニキ! また振り込みがありました」
「おお! 今月も調子いいな」
「しかしどうやって夢に広告を入れているんですか?」
「そんなこと出来るわけないだろ。勝手に見てるんだよ。
現代人はあらゆるエンタメは広告なしでは楽しめないと骨の髄まで叩き込まれているからな。
俺たちはそれを取り除いてやるだけさ。有料でな」
そう言って詐欺師は嗤った。
***
今日も男の足取りは軽かった。
早く夢を見よう。今日こそナタリーにプロポーズをするのだ。
あのメールは詐欺だったのかもしれないと男は心の片隅では気づいていた。
だがそれでも金を払うことで確かに広告は現れなくなった。
男はやっと安心して眠れるようになった。
「ナタリー、俺と……結婚してくれないか?」
男は緊張の面持ちでナタリーに語り掛けた。
「嬉しい! 式は都心の高級ホテルで挙げたいわ! 婚約指輪ももっといいものがあるのよ。
お店のURLを送るわね。おうちももっと良い所に住みましょう。来週内見の予約を入れておくわ。
ねぇ、ローンは大丈夫? あなたなら払えるわよね? わたし一軒家に住みたいの。それから……」
美しいナタリーの笑顔は、まるで広告のようだった。
完
2025.12.05
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