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ショートショートの詰合せ  作者: 志操 友博


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85/100

悪夢売ります

毎晩眠るのが憂鬱だった。


悪夢ばかり見るのだ。

牛の皮をかぶった大男に追いかけ回される夢。

ベッドの周りを仮面の男が踊り狂い、怯えて布団から出ることができない夢。

身体中から汗が噴き出したかと思うと、それがすべて血だった夢。


どれも最悪で、起きるとぐったりして全然疲れが取れない。

もう半年近く続くので、いい加減ノイローゼになりそうだと

久しぶりに飲みに行った友人に愚痴った。


「しかしその夢、まるでホラー映画か小説のようだな」


友人ののんきな感想に苦笑していたが、ならばいっそ

小説として投稿してみようと思い立った。


ネットには小説を投稿するサイトがいくつもあり、

試しに見た悪夢を書いて送ってみた。

たいした反応もなかったが、悪夢を毎日文章にして投稿するのは

少しだけ悪夢疲れを癒す効果があったようで、いつのまにか

投稿が習慣となっていた。


『ホラー小説好きなのでいつも楽しく読んでいます』

『なかなか怖い』

『毎日アイデアが尽きないなんてすごいですね』


少しずつ感想がもらえるようになった。

しかしアイデアもなにも、私はただ寝て見た夢の内容を

書いているだけなのだ。


するとある日、昨日の続きの夢を見るようになった。

(続きものになったのか?)

毎晩、毎晩続く悪夢は長大なストーリーとなり、

ひと月近くかけて完結した。不思議とストーリーには山場があり、話はちゃんと終わっていた。



「あなたの小説を書籍化しませんか?」


大手出版社の編集者から声をかけられて、私はホラー小説家として

デビューした。

相変わらず悪夢には苦しめられたが、短編、長編と次々に

書けるのは助かった。常に新しいホラーで、同じネタやマンネリは

まったくなかった。


小説は映画化、ドラマ化、アニメ化され、私は有名作家となった。

締切を何本も抱え忙しい日々を過ごしていたが、睡眠だけは確保を

忘れなかった。当たり前だが。


映画の評判も上々で、ハリウッドでのリメイクも決まった。

それだけではない。大手出版社が私と専属契約を結びたいと

言ってきたのだ。1年に1冊長編を書く契約だ。

破格の契約金に思わず手が震えた。


しかし幸福は続かなかった。

心のどこかで恐れていた事態が起きたのだ。


──夢を見なくなった。


自分でアイデアを考えても何も出てこない。

そもそも私はホラーが苦手なのだ。

しかし締め切りはどんどんやってくる。

無理やり書いたホラー小説は怖くもなんともない

頓珍漢な出来だった。


「最近つまらなくなった」

「スランプか?」

「才能が枯れたんだ」


そんな声が次第に聞こえてきた。

あまりの書けなさっぷりに、編集者も焦っているのが伝わる。

このままでは大手出版社から違約金を請求されるかもしれない。


私は追い詰められていた。

最近忙しくて眠りが浅いのがいけないんだ。

もっと深い眠りに入れば、素晴らしいアイデアが浮かぶに違いない。


深い眠り……


……あの車にぶつかれば、深い眠りにつけるのではないだろうか。


そんな考えが浮かび、私はフラフラと道路に飛び出した。



また悪夢を見た。


私が悪夢をネタに小説家になって成功するが、

突然悪夢を見なくなって苦しむ夢だ。

今日の悪夢は随分長大だった。


リアルな夢だったが、自分が小説家になるなんてありえない。

悪夢を見なくなるなら、それで良いじゃないか。


起き上がろうとすると、体に激痛が走った。

そういえば、ここはどこなのだろう?

身体にたくさんのチューブがつながれている。


「ああ、先生! 目が覚めましたか!」


周りを見回すと、出版関係者が大勢で私を見守っていた。

後ろの方に、牛の皮をかぶった大男が立っている。

ベッドの周りを仮面の男たちが踊り狂っている。


全身の毛穴から、汗が噴き出した。


それは、真っ赤だった。


2025.12.04

最後まで読んで頂きありがとうございます。

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