AI事件
ベストセラー作家の立花圭介の突然の告白は世間を騒がせた。
「昨年発売された私の著書『愛の精製』ですが、あれは全てAIが書きました」
以前からAIによる小説は少しずつ世間に発表されていたが、完成度はまだまだで、やはり人間が書かなくてはという意見が主流であった。そこに来て、ベストセラー作家の、しかも昨年の国内売り上げナンバーワン小説がAIによるものだったなんて!
立花に取材が殺到した。
なぜAIに? どの程度AIに任せている? かなり自分で手も入れているんでしょう?
「このAIには私の過去作をすべて学ばせました。そして新作の執筆を依頼した。それだけです。そして世間に問いたかった。果たして世間はこの小説を書いたのがAIであると見抜けるのか? それは私のアイデンティティの問題でした」
立花は記者たちを見渡した。
「そうです。皆さんご存知のとおり、見抜いた者はほぼいなかった」
一人の記者が手を挙げた。
「いや、一人だけ……なんか無名の若手評論家で『愛の精製』を批判してませんでしたか? 自己模倣的だとか言って。単なる逆張り評論家だと、ほぼ無視されていましたが」
「その通り。その評論家は開田愛という方でした。彼女の評価は実に的確だった。過去の作品の模倣であり、話も表層的で、まるでAIに書かせているようだと彼女だけが述べていた。私は感動して、何とか彼女と話したいと手を尽くしました。しかしダメでした」
「覆面評論家ですか? 結局会えなかったんですか?」
立花は自嘲気味に語った。
「彼女もAIだったんですよ。開田愛を作り出したエンジニアの方が教えてくれました。結局、私の小説がAIだと見抜けたのはAI評論家だけでした。私は読者はもちろん評論家連中にも絶望しましたよ」
取材陣が続けて質問しようとしたが、立花はさっさと姿を消してしまった。
この立花の発言に世間は怒り、立花圭介は大いに炎上した。
「読者を試すようなことをするなんて! 何様だ」「元々AIで書ける程度の作家だったんだ」
と、ネットで立花への批判は収まらず、メディアも積極的にニュースで取り上げ、拡散に貢献した。
コケにされたと感じた評論家も立花を批判した。その急先鋒がベテラン文芸評論家の大前荒蔵であった。
「そもそも立花に才能なんてなかったし、それがAI駆使してもそもそも大したことないから、AIで簡単に再現できるのだ!」
と微に入り細に入り立花の小説がいかに下らないか、論理的に破綻しているかを500ページを超える大著で批判した。
立花に反感を持っていた世間もこれに快哉を叫んだ。
しかし今度は評論家・大前の弟子と名乗る人物から、週刊誌にタレコミがあった。
「実は大前氏の評論も既にAIにより書かれているという!」
しかもその作業も自分でやらずに、すべて弟子に丸投げしていたのだ。
大恥をかいた大前氏は世間から姿を消した。
彼の著書をコピペして立花批判をしていた世間も、恥をかいた。
というか、世の中の批判はほとんど大前氏の本のコピペであり、結果、AIによって書かれた小説の批判を、AIで書かれた評論で行い、そのコピーを人間がせっせとネットで拡散させていただけであった。
そんなドタバタを、当の立花圭介本人は静かに観察していた。
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【A】
数日後、立花圭介は再び公の場に姿を現した。
「皆さん、今回の騒動について、多くのご意見をいただきありがとうございます」
深々と頭を下げる立花に、集まった報道陣は静まり返った。
「私が『愛の精製』をAIに書かせたのは、世間に問いかけたかったからです。果たして、AIが書いた小説と人間が書いた小説に、本質的な違いがあるのかどうか」
立花はゆっくりと語り始めた。
「AIの進化は目覚ましいものです。しかし、小説という表現において、AIは本当に人間を超えることができるのか。私はそれを知りたかった」
そして、立花は続けた。
「今回の騒動で、私は一つの結論に至りました。AIは小説を書くことができる。しかし、それは人間の代わりにはなれない」
報道陣はざわめき始めた。
「なぜなら、小説とは人間の感情や思考、経験を表現するものだからです。AIは膨大なデータを分析し、それを模倣することはできる。しかし、人間が持つ複雑な感情や、Uniqueな発想を生み出すことはできない」
立花は再び頭を下げた。
「今回の騒動で、私は多くの人を傷つけました。しかし、私は小説家として、この問題に真剣に向き合わざるを得なかった。AIと人間の関係、そして小説という表現の未来について、皆さんと共に考えていきたい」
立花の言葉は、報道陣の心を揺さぶった。
その日以来、立花圭介は再び第一線に返り咲いた。
AIと共存しながら、人間でしか書けない小説を追求する道を選んだのである。
そして、あの騒動から数年後。
AIによる小説は、文学賞の候補になるまでになった。
しかし、その一方で、人間が書く小説の価値も、改めて見直されるようになっていた。
AIと人間。
それぞれの存在意義を認め合い、共存していく未来。
それが、立花圭介が望んだ、小説の未来だった。
立花圭介は、密かに人工知能研究者と連絡を取り合っていた。
「愛の精製」を執筆したAIは、実は彼自身が開発したものだった。
騒動後、立花はそのAIをさらに進化させ、新たな小説を生み出そうとしていた。
「AIが書く小説と人間が書く小説、どちらが優れているか」
そんな議論は、彼にとってはどうでもよかった。
彼が本当に求めていたのは、AIと人間が共に創り出す、新たな小説の世界だった。
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【B】
「立花圭介の新しい小説読んだ?」
「うん!読んだ読んだ!『インターネット炎上』でしょ?面白かったけどいくらなんでもネットであんな事になるなんて変な話だったよ」
「でも昔は本当にネット炎上ってあったらしいよ。ひいじいちゃんが言ってた」
「え?なんで?」
「昔はAI介さずに直接言いたい事言ってたんだって!」
「え!じゃあAI使っただけで批判されて誹謗中傷されるなんてホントだったの?AIも誹謗中傷をそのまま生成してたって事?」
「そう!今なんてAI無しでの会話も考えられないのに」
「昔の人って……」
(表現修正中)
「自由でワイルドで素敵だったんだね!!」
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【A】【B】どちらかはAIが書いたオチでした
完
2025.10.23
最後まで読んでいただきありがとうございます。




