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老害鏡

時の流れというのは残酷なもので、人はみな歳をとる。

年齢なんて関係ないといっても、実際老いていく。

若い頃は年寄りが嫌いだった。古い考えに固執し、新しいものを否定する。

自分の若い頃の価値観が絶対で、そこから一歩も出ようとしない。

当時そんな年寄りを老害と批判し、世の中が良くならないのは老害たちのせいだと漠然と俺も思っていた。


それが正しかったのか間違っていたのか、今ではわからない。

ただ一つだけ言えることは、俺も歳をとった。


先日会社であったことだ。ある若い社員が時間通りに会社に来ることを強制するのは時間タイムハラスメントではないかと提言した。

もちろんフレックス制もあるし、在宅ワークだって出来る。それでも選択肢毎に就業時間は決まっている。つまり縛りがある。これが気に入らないらしいのだ。

「しかし就業時間を決めないと、皆好き勝手に仕事をしていたら平等でなくなってしまいますよ」と俺が聞くと、若い社員は鼻で笑った。

「それは”悪い平等”ですよ。課長。アップデートしてください」


俺たちも若い頃は、パワハラやセクハラといった老害たちの古い悪習と戦い、ハラスメントのない平等な社会を目指した。

そしてそれはある程度達成できた。世の中は平等になった。

若い者にも敬語で話すのも当たり前だ。

しかし平等が当たり前になると、今度は”悪い平等””良い平等”という言葉が流行りだした。なんでも平等にすれば良い訳じゃないという訳だ。

なんとなく言いたいことはわかる。

しかし平等の良し悪しは常に若者が決める。法則も不明なら時と場合によって平気で覆されるルールなのだ。

理由を聞くことも許されない。それもハラスメントなのだ。


環境保護への意識も変わった。俺の若い頃は皆で一丸となって地球の為に二酸化炭素を減らそうと誓った。それよりも経済を優先させて環境保護をないがしろにする老害を批判した。

しかし今では皆で一丸となるというのが個人の価値観の侵害となるので禁じられた。環境を保護するかは個人の自由なのだ。

地球がどれくらい汚染し環境が破壊されているのかを情報公開することも禁止された。それは精神衛生上負荷のかかる情報であり、個人に大変なストレスが与えてしまいメンタル汚染が起きてしまう。環境ハラスメントであると若者から批判されたのだ。


男女平等も進んだ。

男女不平等の一番の要因は出産であるというあるフェミニストの主張により、出産は禁じられ、豚の子宮を使った出産に切り替えられた。

しかし動物愛護団体からの抗議により豚の子宮の使用は取りやめられ、完全機械化によるいわゆる試験管ベビー方式での出産となった。

しかしそれは人間の尊厳を踏みにじる行為であるという批判および、自分が試験管ベビーであることを知った世代から精神的苦痛を訴える抗議そして親への訴訟がなされた。

結果ある新たな技術が導入され、人類は相変わらず産まれている。少子化も解消された。

しかし生誕に情報は究極の個人情報であるとして完全秘匿されることとなった。

それは誕生した本人にさえ精神的ストレスを与えるという理由で非公開とされ、現在一定以下の年齢の人類はどのような手段で産まれたのか、一切の情報は非公開=謎とされている。


世の中おかしいだろうか?

俺も若い頃は、自分が年寄りになる頃にこんな世界が来るとは思っていなかった。

進化の速度が速すぎる。口には出せないが、昔は良かったと思う。

昔というのはもちろん俺が若かった時代の事だ。


そう思っていたのは俺だけじゃなかったらしい。

今の世の中はおかしい。昔が良かったと言わせろ!

それを禁じるのは年齢ハラスメントだ。とある団体が抗議したのだ。団体名は老人連合という組織だった。

それは老人連合に強い共感を覚えた。と同時に俺たちはもう老人なのだと強く意識させられた。


政府は対策を打った。老人たちに特殊な眼鏡を配った。

昔が良く見えるのは、年齢により世界が歪んで見えるからだ。

若者のように純粋な瞳で世界を見れば、今が過去より素晴らしいとわかるはずだ。

世界の見え方の歪みを治すメガネは通称”老害鏡ろうがいきょう”と呼ばれた。


俺も眼鏡をかけてみた。

老害鏡は脳に直接作用する。

効果は絶大だ。今まで俺はなにをグチグチ言っていたのだろうか。

今の世の中は昔よりずっと良い世界だ。差別は確実に減り、誰もが自分の権利を主張する。皆自由に生きているじゃ無いか!


今なら若手社員の言っていたこともよくわかる。

時間タイムハラスメントは最悪だ。

ぜひ変えよう。年寄りと若者が手を取り合い、世の中をより良くしていくのだ!

昔の元気が戻ってきた!


……しかしそれは一瞬のことだった。

張り合いがないのだ。昔とは決定的に違った。

何故なら俺が若い頃の老害はもういないのだ。一体誰に噛みつけば良いのだろう?

若手社員も「後は課長にまかせます」といって会社を辞めていった。


それでも我々は世の中をフラットに見て、何か社会悪を見つけては抗議した。ネットも炎上させた。相手が女性だろうが若者だろうが容赦はしない。正義と平等のためだ!そんな我々老人を見て若者たちはため息混じりに語った。


「最近の老人はまるで俺たちと同じ権利を主張してくるから大変だよ。昔の老人はもう少し歳を弁えていたものだ」

「全くだよ。年齢に応じた成熟がないよ」

「あー昔は良かったなぁ」


2025.3.7

最後まで読んで頂きありがとうございました。

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