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老紳士と泥棒

前から狙いをつけていた豪邸。今日は電気も消えている。


「仕事だ!」


泥棒はこっそりと豪邸へ忍び込んだ。裏口が開いており簡単には入れた。


(なんと不用心な。)


しかし侵入してすぐに人の気配を感じた。これはいかんと泥棒は脱出を試みた。


「待ってくれ」


ギクリと振り向くと、この家の主人だろうか。老紳士がこちらを見ていた。


「君は泥棒か?逃げなくてもよい。欲しいものを上げよう。金庫の場所を知っているかい?」


不審げに老紳士をまじまじと見ると、彼は疲れ切った顔で椅子の上に立っていた。横には天井から吊った輪っか上のロープがある。


「そうだ。私は死のうとしていたんだ。この世に飽きてしまってね。私は天涯孤独だし、あの世に金は持っていけない。だから君に全てあげよう」


これは思いもよらない幸運かもしれない。泥棒はそう思い老紳士の話を聞いた。もちろん完全には信じていない。こっそり通報などされないように相手の腕は縛り上げた。


「我が家は代々資産家でね。親は早くに亡くなったが、残してくれた財産で何不自由なく暮らしてきた。しかし逆にそれが私には退屈だった。寄ってくる女も金目当ての者ばかり。その金をもとに何か事業でも起こせば充実感も得られただろうが、ダラダラ生きてきた私にそんな才能もないのはわかりきっていた。わたしには虚無感しかなかった。」


随分贅沢な話だ。泥棒は内心毒づいたが金が手に入りそうなので神妙な顔で聞いていた。


「話はわかった。同情はしないぜ。ありがたく金をもらって俺は消える。金庫はどこだ?」


案内された金庫はかなりの大きさだった。


「現金はあまり持ち歩かないのだが、この金庫の中の金だけで一生遊んで暮らすことは出来るだろう」


「そりゃありがたい。で金庫の番号は?」


「……」


「どうした?」


「君はこの金庫、どの位で空けられる?」


「はあ?まあ30分といったところだな。」


「わたしは君のような人種、つまり泥棒に初めて会った。考えてみれば退屈な人生でこんな刺激は久しぶりだ。どうだろう。冥土の土産に君の金庫破りを見せてくれないか?」


泥棒はかっとなり老紳士を突き飛ばした。


「こっちは遊びじゃないんだ!暇な金持ちのお遊びに付き合ってられるか!さっさと番号を教えろ!」


しかし老紳士は動じなかった。


「言わなかったらどうする?私を殺すのかね?」


議論しても時間の無駄だ。泥棒はとりあえず金庫破りを始めた。


「安心したまえ、通報はしない。むしろ私が死ぬのを見届けてから逃げてもよいぞ。」


泥棒はイライラしながら金庫を破ろうとした。しかしこの金庫は予想以上の難物だった。さすが金持ちの金庫。見た目以上のセキュリティだ。焦った泥棒の頭の中では老紳士への不信感がどんどん募ってくる。


(こいつは本当に金庫破りが見たいだけなのか?)


(そんな奴がいるだろうか?)


(……もしやこいつも泥棒なのでは?自分で金庫を開けられないと踏んで、家の持ち主のふりをして俺に金庫を開けさせようとしているのではないか?そうだ、きっとそうに違いない。)


「まだ空きそうにないのかね?」


金庫を開け始めて既に25分を過ぎていた。不思議なことに泥棒以上に老紳士が焦っているようだ。何度も時計を確認している。


(やはりこいつは先客か!)


泥棒は老紳士の胸ぐらをつかんだ。


「やい、お前この家の持ち主のふりしているが、お前も泥棒だろう!俺に金庫を開けさせて中身をかすめ取ろうとしているな!」


泥棒は老紳士の首を締めあげた。


「く、苦しい。そんなことはない。本当に私はこの家の持ち主だ!」


「見れば部屋に写真の一枚もないし、お前が持ち主の証拠はどこにもないしな!本物ならさっさと金庫の番号を言え!それで信じてやる。言えないなら死ぬより辛い目にあわせてやるよ!」


「写真がないのは天涯孤独だからだ。誰のために写真なんぞかざる?わ、わかった!金庫の番号を言う!」


苦しみながら老紳士は番号を言った。


「ふん、そんなザマで首つりなんて出来るのかね」


泥棒が番号をセットすると金庫が開く音がした。


ついに金と対面だと思い金庫を開くとそこは空っぽだった。


「無い、何もない!なんだこれ?じじい!どういうことだ!」


泥棒が老紳士に詰め寄った。


「私が自殺しようとしたのは本当だ。しかしそれは人生に退屈してなどではない。金がないからだ。実はギャンブルにはまって莫大な資産はすべて食い尽くしてしまった。さらにあちこちに借金もしてもう首が回らない。だから死のうと思った。そんな時君が現れて、これに賭けようと思ったよ。わたしには時間が必要だったのだ。たっと30分。それさえあれば……久しぶりにギャンブラーの血が騒いだよ。さあ奴らがくるぞ。あいつらは時間ぴったりだからな」


老紳士が予言した通りに、ガチャリとドアが開いた。そこにはガラの悪い男が数人立っていた。


老紳士が突然叫んだ。


「泥棒だ!助けてくれ!」


慌てて泥棒は逃げ出した。


後には老紳士と空っぽの金庫が残されていた。


事態が飲み込めないガラの悪い男たちに老紳士は謝った。


「借金取りのみなさん、申し訳ない。あなたたちに返す金はすべて泥棒に奪われた。そこでどうでしょう、もう少しだけ返済を待って頂けないでしょうか?ついでに私に投資していくばくかのお金を頂けて頂ければそれを元に借金は返せると思うのですが……」


2025.02.11

最後まで読んでいただきありがとうございます。

今年は投稿ペースを上げたい所存です。

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