モテ期
「好きです、付き合ってください」
まただ。今月に入ってもう7人目に告白されてしまった。いったいどうしたってんだろう。自分で言うのも悲しいが俺はとてもモテるタイプとは言えない。勉強が出来るでも金持ちでもトークが出来るでもない。というか女子と目を見て話せない。顔はお世辞にもかっこいいとは言えない。還暦を迎えた人生のベテラン以上にしかイケメンと言われたことがないし。大体そんなスペックを備えていれば初めからモテる筈で、ある日突然モテ始めるなんてことはない。
今告白してきたのも成績は学年1番、才色兼備が備わったお嬢さまとしてファンクラブまで存在するチートスペックの山本マリアだ。いったいなぜ?
「だって……ケン君がいつも授業中外をジッと見ている姿がなんとも言えないくらい可愛くて……」
授業に付いていけず現実逃避していただけなのだが。いったいなぜ俺はモテるようになったんだ?
事の起こりは俺が所属する男ばかりのむさい第3種接近遭遇部に鹿島ヤラ子が入ってきたことだ。見た目はゴリゴリのギャルなのになぜこの宇宙人と交流するための部活に入ってきたのか。入部翌日にヤラ子は俺に「あたしと第4種、または第7種接近しない?」といってきた。えーと、第4種は拉致監禁……第7種は異種交…いかんいかん!当然俺はどうすることも出来ずにたじろぐだけであったのだが、ほかの部活メンバーとの溝は深まるばかりだ。ああ俺は楽しくベントラーベントラーしたいだけなのに。これがサークルクラッシャーか、恐ろしや。
次の週には幼稚園の頃親同士仲が良かった月野千代美がとつぜん昔から好きだったと言ってくた。話した事あったっけ?さらに内気な図書委員の熱海栞から原稿用紙16枚に及ぶラブレターをもらい、クラスのムードメーカーの大内向日葵から皆の前で告られ、同じマンションの未亡人の土本美夜子さんにいけない遊びに誘われ、小学校からの悪友の中村いずみから実は女だったんだ。好きだと言われた。言われてしまったんだ。
そして今日の告白だ。さすがに浮かれてもいられない。もはや恐怖すら感じる。いったいどうなっているんだよぉぉぉ!
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「ああ!神様またそんなの読んで!」
「えぇ……いいじゃん」
「神様はハマると同じジャンルばっかり読むじゃないですか。もうラノベばっか。しかもハーレムもの。神曲とか失楽園とか読んだらどうですか?」
「難しいんだもん」
「もう!これは没収です!」
「えぇぇぇ天使鬼畜ぅ!悪魔の所業だよぉ。うぅ、じゃあ何を読もう……」
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あれから俺のモテ期は急速に去った。間違いだった。気のせいだった。他に好きな人が出来た。忘れて。勘違いだった。いけない遊びはやはりいけない。やっぱり俺は男だった。とフラれた。
不幸中の幸いとして部活の仲間との絆は復活した。お前が急にモテるのは不自然だったよなどと言われる。
だがしかし皆今の状態を変だとは思わないのか。あれから俺の周りで急に殺人事件が起きたのだ。それも6回も。銀行にいっても図書館にいっても郵便教にってもだ。さらに今まで特に冴える事のなかった俺の脳細胞が活性化しだした。起る事件をたちまち解決して、いつしか俺は名探偵と呼ばれるようになった。だが行く先々であまりに殺人事件が起こることに違和感を覚える者はいないのか。俺は怖い。
--と思っている間にまた悲鳴が聞こえた。俺はまた事件を解決するのだろう。
俺は今、殺人事件に対してモテ期なのだ。
完
2015.8.31




