天国の男
そこは天国の門であった。
その神々しさに思わず涙を流しながら男は感慨に耽っていた。
ついに報われる時が来たのだ。
門をくぐるとそこは受付で、天使が待機していた。
「ようこそ天国へ。ここではあなたが天国に相応しいか、生前の行いをチェックします。」
「はい!わたしは自分で言うのもおこがましいですが、天国に行くにふさわしい生き方を
してきました。」
「なるほど、それでは悪い行いなどはまったく行っていないと?」
「もちろんです。わたしは子供のころから親に悪いことをすると地獄に落ちる。真面目に生きていれば天国で幸せに暮らせると教えられて育ちました。そのために生前は娯楽は全て我慢してひたすら慎ましく、我慢を繰り返し、すべて他人のために尽くしてきました。人の10倍働き、収入は食べていく最低限以外は全て寄付し余暇の時間も全て困っている人を助けるボランティアに費やしてきました。世界の平和と人々の幸せ、それだけを喜びとして見返りは求めずに奉仕してきました。」
「なるほど。今時天国に来る者でもこんな立派な人はいませんよ!」
「恐縮です。すべてはこの天国のためです。ここではあらゆる苦しみは無く喜びだけが溢れていると聞いています。わたしは天国で暮らせるでしょうか?」
天使は一瞬顔を曇らせたが、すぐに取り繕い笑顔で語った。
「あなたの証言は、報告結果とも一致しています。天国でもトップレベルの善人でしょう。喜んで天国に迎えます。」
--男が天国で過ごし始めてから、幾ばくかの時が流れた。
「またあの男からクレームです。自分より善人ではない者が自分より良い思いをしていると。天国といえば酒はうまいし、ねーちゃんは綺麗と聞いているが、自分についてる女性より綺麗な女性がついてると騒いでいます。」
「生前はフェミニストを気取っていても天国ではこのザマです。」
「他の者の方が自分より日当たりのよいスペースを確保していると騒いでいます。雲の上なのだからどこでも日当たりは良いはずなんですが……」
「天国が退屈だと言っています。生前あれだけ苦労したのだからもっとイベントをやって楽しませろと文句を言っています。」
「自分がいかに善人だったかあたり構わずに絡んでマウントを取るので皆ウンザリしてます。」
次々と天使から上がってくる報告に神は頭を抱えた。
「やはりあの男もそうなったか。最近は生前我慢を重ねてきた自称善人によるクレームが多くてかなわない。なまじクレームを言ったことがないから歯止めが利かないんだ。もう少し生前にクレーム慣れしてガス抜きさせよう。生きているうちにクレームを言ってしまえば、天国に来てからは多少は落ち着くだろう」
こうして地上はクレーマーだらけになった。実に迷惑なことだ。
完
2023.5.1
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