表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/82

睡魔

気がつくと目の前には血塗れの男が倒れていた。

俺は状況が飲み込めず辺りを見回した。ここは会社のフロアだ。

そうだ俺は嫌な上司に毎日帰り際に仕事を押し付けられて泊まり込みで仕事をしていたんだ。

自分の仕事をわざと溜め込み、俺に全てやらせて自分の手柄とする糞上司。

……まさかと思い血塗れの男の顔を見てみると案の定、その上司であった。死んでいるようだ。


一体誰が?……などと言うつもりはない。記憶は無いが恐らく俺が殺してしまったのだろう。眠っている間に。


昔から俺は夢遊病が酷かった。

子供の頃から内気で自分の気持ちを押さえ込んで我慢する(たち)だった。しかし眠ってしまうと、感情が一気に解放されるようだった。

眠っている間に喧嘩した兄を叩きのめしたり、夜道を徘徊して警察とトラブルになる事も多々あった。恋人が出来ても眠っている間に罵声を浴びせて、目が覚めると彼女は出て行っている。なんて事もあった。

俺は自分が怖くなり医者にも相談したが解決策は見つからず、寝る前に自分をベッドに縛り付けておくのが取り敢えずの対策であった。脳波計とロープをロックして脳波を見て起きている場合のみロックが外れる機構だ。


そんな体質の為、俺は自宅以外では絶対に眠らないと心に決めていた。


上司からの嫌がらせで会社に泊まる場合もなんとか眠らないように自分を律していた。それなのに何故か眠ってしまったらしい。そして運悪く、そこに上司が居合わせた。

フロアには監視カメラもある。恐らく罪を逃れることは出来ないだろうと俺は覚悟した。


案の定、意外性もなく犯人は俺であった。監視カメラの映像が公開された。上司は家の鍵を忘れたらしく会社に戻り、そこで眠っている俺を見つけて唾を吐きかけた。すると眠っていた俺はそのまま立ち上がり近くの鋏をとり上司を滅多刺しにした。決定的な証拠映像だ。


だか裁判は意外な展開に進んだ。俺は眠っていた状態で犯罪を犯した。それは罪に問えるのかという議論になったのだ。検察はもちろん問える。そもそも本当に寝ていたのかも怪しいと言ったが、弁護士は俺の担当医を読んで俺も夢遊病が元々あったことを証言させた。しかも都合よく俺はいつも簡易脳波計を身につけておりそのログが医者の元に送られていたのだ。犯行時俺は確かに眠っていた事が証明された。弁護士は無罪を主張した。


裁判は混乱を極めた。

だが判決が出た。


俺は転職して新たな仕事に就いた。転職理由も理由な為、新しい会社もいわゆるブラック企業だ。だが俺は会社に泊まって残業することは無い。眠ってしまう可能性があるからだ。

俺は足早に会社を出る。

向かう先は刑務所だ。


「56842番戻りました。」

「よし!眠れ。」


裁判の結果、眠っている間の俺だけが罪に問われたのだ。つまり俺は刑務所以外で眠る事は許されない。眠くなったら刑務所に行かねばならない。しかし家賃も浮くし、余計な残業はさせられない。

案外悪くないぞと俺は考えている。


18.04.30

読んで頂きありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ