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大怪獣対人類

40話目です。まずは50話目標に書いていきます。

凪いだ夜の日本海。その水面にうつる満月を眺めながらカップルは「平和ね。」「そうだな。」などと語りながらロマンチックな気分に浸っていた。暫くしてカップルの女が呟いた。

「あれ?月の真ん中に黒い点が。何かしら?」

男は空を見上げた。

「別に黒い点なんて見えないぞ?」

「違うわよ。海の方!」

女が指さす海に浮かぶ月には確かに黒い点が見えた。その点は徐々に大きくなりこちらに近づいてくる。

その黒い物体は浜辺に打ち上げられた。僅かに動いているようだ。

「なんだろ?見に行こうぜ!」

怖がる女をよそにその物体に近づいた男の前で黒い物体が立ち上がった。一瞬男の悲鳴が聞こえたがその物体の放つ咆哮(ほうこう)にかき消され男の姿も消えた。

残された女の証言が人類と怪獣の戦いの歴史の初めのページに刻まれた。その歴史書にはこう記されている。かれらは海からやって来た、月の光を浴びながら。


などと気取った記載がされているが初めの怪獣は翌朝にはあっさりと退治された。女の通報に駆け付けた警官隊は、暴れる怪獣が街に近づく危険性を鑑みてすぐさま射殺したのだ。蛙のような図体にラブカのような頭を持ち、体長は3メートルほどであった。後に怪獣第1号と呼ばれるこの生物は、この時点では新種または突然変異の生き物であろうということで専門家に死体は預けられた。


謎の新種生物発見として現場には連日マスコミが押し寄せ、報道合戦を繰り広げていた。だが次の怪獣は反対に太平洋からやって来たのだった。前回の倍はあろうかという怪獣は真昼間に現れた為に直ぐに通報され駆けつけた警官隊および機動隊に射殺された。前回よりも身体が大きく凶暴であった為、自動小銃が使用された。

前回と同種類であろうか?体長を除けばこれが同種と判断されても不思議はないほど姿形は似通っていた。しかし比較しようにも前回現れた怪獣の死体は死後数時間で溶けてしまい、比較は不可能となっていた。死体の保存方法がわからず専門家も頭を悩ませていた。


3度目の怪獣襲来は北海道であった。サイズはさらに巨大化しており20メートルは超えている。いよいよ怪獣の名に相応しい風貌となってきた。もはや警察の手におえる範囲を超えており自衛隊が派遣された。広い北海道でも怪獣は何故か人口の密集する札幌を目指し、危険と判断した自衛隊により攻撃が開始された。もはや自動小銃でも足りず、戦車が配備された。科学者たちは生け捕りを提言したが怪獣はいつも人の多い箇所を目指す。そのため今回も殺された。

日本に怪獣が出現した事は世界中のニュースとなった。やはり怪獣といえば日本かという冗談めかした言説や生物兵器説や終末論を唱えるものが現れた。

だが翌週に怪獣はアメリカにも出現した。西海岸を襲った怪獣は100メートルは超える超大型で米兵との大格闘の末に絶命した。

アメリカ人がイスラム、ユダヤ、共産主義者の差し金だと陰謀論を振りかざすのを嘲笑うかのごとく怪獣は世界中に出現した。ロシア、中国、ヨーロッパや中東、南米、アフリカ大陸とまるで人類全体に平等に被害を与えるかのようにあらゆる場所に怪獣は現れた。

問題は退治する度に怪獣の身体は大きくなりまた攻撃にも耐性が付いているようである事だ。かつては銃弾に倒れていた怪獣も今では爆撃しようと地雷を踏もうと、電流を流そうと火を放とうと魚雷を打とうとミサイルを打とうと無傷であった。怪獣が強くなるのに合わせて人類の兵力も増強させねばならない。各国は軍事費に予算を注ぎ込み、新たな兵器の開発に急いだ。軍需産業は大いに盛り上がり、怪獣が現れた途端にその周辺の土地を買取り私有地として兵器実験を行う事でデモンストレーションを行う会社まで出てきた。コングロマリットであり兵器開発にも注力しているソイレントオーウェル社は私有地内の怪獣は我社のものだと独断し怪獣にソイエルン等と名付けて、独自兵器で怪獣を倒し、その様子をネット配信した。

だが怪獣は現れる度にパワーアップしている。その進化の速度は尋常ではなく人類の兵器開発の速度では追いつけなかった。半導体進化の度合いを示すムーアの法則をも上回る進化速度に人類はますますあらゆるテクノロジーを怪獣を倒すために注ぐのであった。

怪獣が大きくなるにつれて歩くだけで大地が割れ、その咆哮(ほうこう)によりビルが崩れ被害者の数は増加の一途をたどった。塹壕を掘ったり壁を建設して都会から怪獣を遠ざけようとする試みも怪獣が現れる度に大きくなるので建設が追いつかなかった。「とにかく人口密度の高い所を狙っているようだ。」という研究結果から人々は都心に集中するのを避けて地方に分散した。皮肉にも人口が各地にばらけた事と対怪獣兵器の開発の為に世界各地に工場が建設される事で雇用が生まれ地域経済は活性化された。各国のGDP増加率は20%を超えようかという状態であった。また怪獣という人類共通の脅威により人間同士の争いが急減した。ただし政治家の間では怪獣利権と呼ばれる軍需企業からの莫大な裏金や天下りで逮捕されるものが後を立たなかったが。

かつて平和ボケを嘆いていた自称危機意識の高い連中は 人類の闘争本能の復活を喜び、経済学者は怪獣によってもたらされる好景気は不景気や貧困による死者数を大いに減らした事を発表した。そして怪獣被害による死者数は不景気時の自殺や貧困による死者数よりはるかに少ないという結果を算出し怪獣を礼賛した。

怪獣だって生きているのだと怪獣の生命保持を訴える自然団体も現れたが現場で活動を行うと人に向かってくる怪獣の特性上踏み潰されるメンバーが多発し為やむなくネットでの活動に留められた。

より強く、より確実に、より根源的に

をスローガンに怪獣破壊兵器の開発は進められた。細胞を自己破壊させる兵器、脳を乗っ取り自ら死に至るように行動させる兵器など次々と新たな技術が生まれた。怪獣は次々と現れる前提なので核兵器の使用はメリットが少ないとして使用されていなかったが、その他あらゆる方法で攻撃された。だが怪獣は新たに現れる事にその弱点が克服されており、もはや完璧な生物となりつつあった。

日本のある町工場はパラボラ型の装置から細胞破壊光線を出力する装置を開発し、それをもとに破壊光線搭載戦車通称メーサー殺獣光線車が投入された。これは世界中の怪獣マニアに「映画と同じだ!」と大いに好評であった。


世間が狂騒につつまれる中、怪獣自体の研究を進めていた科学者たちはこれまで現れた怪獣はみな同じ遺伝子を共有しており、死後すぐに肉体を消滅させて、情報を新たな怪獣に伝えているのだろうと予想していた。この連鎖を断ち切らないことには怪獣の進化は止まらずいつか人類の技術力の限界が先に訪れてしまうだろうと科学者たちは予想していた。


だが多くの人類は怪獣に身内や親しい者を殺された恨みと怪獣による好景気に浮かれるという相反する感情にますます狂騒状態となり、ひたすら兵器の開発に邁進し続けた。ついに巨大ロボットによる怪獣退治が提案された。化学兵器による環境被害の大きさからロボットによる肉弾戦が注目を集めたのだ。

ジャガージョックスと呼ばれる巨大ロボットとの格闘により肉弾戦への適応力を見せ始めた怪獣はますます強くなりロボットの開発もすぐに間に合わなくなってきた。新しい技術を開発して怪獣を倒す度にそれを克服した新たな怪獣が現れるという一連の流れが少しずつペースを落としていった。早く倒さないと暴れる怪獣による被害は拡大する一方だ。しかし倒すとより強い怪獣が現れるというジレンマに人類は疲弊していた。そして人類の数は減少していき、人手不足で兵器開発にも遅れが出てきた。仕事をオートメーション化する事で人手不足を補おうとしたが限界があった。地球の人口は減り続け、もはや統計をとる者もいないため世界に人が何人いるのかもわからない。ただあたりには人っ子1人見あたらない世界が広がっていた。残された僅かな人類は地球を捨てて何処かへ逃げようかと考えるが宇宙船を開発していると怪獣が現れて破壊してしまう為、頭を抱えた。


怪獣研究に一生を費やしていた1人の科学者は疲れ果て、もはや地球の支配者は怪獣に譲るべきという結論を出して怪獣に向かって走っていった。完全に精神をやられていたのだ。

「さあ、怪獣よ。お前の勝ちだ。人類は持てる力全てをお前に注いで戦ったぞ!」

そう語り、あとは踏み潰されるのを待つだけだと思った矢先---空から光が差し込み怪獣の全身を包み込んだ。空を仰いだ怪獣は「グブゥ」と低く唸りながら空へと吸い込まれていった。

その日を境に地球上から怪獣は姿を消した。


平和が戻った人類には山のような兵器だけが残されていた。今度こそ平和で文化的な生活を送るのだ。高い技術力を元に人類は再び平和に向けて進み出した。


怪獣が去って数10年が経過した頃、世界の要人が一堂に会して会議が開かれた。あれから月日は流れたのに経済は立ち行かず人類は停滞していた。

「最近ではかつての兵器を奪ってテロを引き起こす者さえ出ています。」

「世界中で不満がたまっているんだ。」

「全く最近の若いヤツらは……」

そこに1人の男が現れた。どの国の要人も彼を知らない。それに姿が何かおかしい。スーツを着ているようで実は体の表面にスーツを印刷しているようだ。表情も貼り付けたような笑顔で生気がない。互いに顔を見合わせ不思議そうにする要人たちに向けて男が語った。

「おめでとうございます。地球がブリードしたカイジユウが宇宙生物闘技会で優勝しました。地球の皆様にはなんでもお好きな賞品を贈呈いたします。」

まるで抑揚のない無機質な声であった。

一堂ポカンとしていると

「わたしの身体はあと10分しか持ちません。お早めにご回答お願いします。」

と男が言った。

じっくり考える暇もなく要人たちは慌てた。真偽を確かめる暇もないが何かくれるというのなら答えて損はないだろう。これまでの人生で幸せだったのはいつだったろうか?それは子供の頃だ。父も母も仕事があり人類全体が未来への希望に溢れていた。要人たちは皆同じ位の世代であり素晴らしい思い出は共有されていた。あの頃にあって今無いものはなんだろう?彼らは顔を見合わせ頷きあった。意見は一致した。


「どうか新しい怪獣を贈ってくれ!」



そして夜。月の光を浴びた海面から一匹の怪獣が姿を現した。


2016.7.15

読んで頂きありがとうございます。

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