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ショートショートなんて大嫌い

「それはボケです」

今日も彼はショートショートを読んでくれた。

毎日毎日飽きもせず1話ずつ読んでくれる。


「ねぇなんでショートショートが好きなの?」

思わず聞いてしまった。文芸部のせまい部室に沈黙が流れた。いや元々二人っきりだから沈黙は珍しくないんだけど。

彼はそんなこともわからないのかといった感じでため息をついて、大げさに頭をかく。まったくオーバーリアクションが嫌味ったらしいんだから。

「それはやっぱり10年前の宇宙星交開通記念からだろ。来るべき宇宙時代のコミュニケーションツールとしてショートショートが見直されたんだ。」


「それは知ってるけどさー。いいじゃん。ふつうに文学とかライトノベルとかで。なんでショートショートなの?」

「馬鹿だな。ショートショートのパズル的美しさは世界共通の美学だ。もちろん宇宙人との交流にも、うってつけって訳よ。地球の文化の勉強にもなるしな。」

まだ納得のいっていないわたしの顔が不服なのか、ふいに彼は立ち上がりこちらを指さして言った。

「っていうかお前が宇宙人だろうが!!」


そう、わたしは宇宙人。でもどの星から来たのかも覚えていない。けれどもこの第三北斗高校に転校してきて、文芸部に入った事は覚えている。わたしの前でショートショートを読んでいた彼はこの文芸部の部長だ。といっても部員はわたしが入るまではただ一人きり、仕方なく部長になっていだけで人望があるタイプには見えない。そんな変な部活に入ってしまったわたしも変だと部長は言うけど、いいの。わたしは宇宙人なんだから。地球のルールには縛られない。


彼は色々理由をつけてショートショートを読んでくれる。最初は地球のことが全然わかんなかったからありがたかったけど、さすがに他の本も読んでくれてもいいじゃないとも思う。だけど部長ったらそれは自分で読めだって。本末転倒(こんな言葉も覚えた)じゃない。宇宙人とのコミュニケーションと言えばショートショートだと何か強烈な思い込みがあるみたい。前なんてたとえ1001話を超えても読み続けるぞなんて言っていた。とほほと思ったけどなんだか真剣な顔で読んでくれるので無下に断り辛い。気持ちは嬉しいけれど、たまには恋愛小説でも読んでほしいな……なんて。これは地球人的に恥ずかしいんだよね。そんなことももうわかるくらい私は地球人の事が分かっている。


部活が終われば家に帰る。宇宙人用のホームステイのホストファミリーをしてくれる家はまだ少ない。けれど、この家のおじさんとおばさんはとても優しい。わたしは暗いのが苦手で特に車や自転車の光を見ると不安定になってしまう。おじさんはそんなわたしの特性を理解して天気の悪い日なんかは学校の近くまで来て一緒に帰ってくれる。いつも偶然散歩で学校の近くまで来たんだというけれども、それは嘘だって知っている。地球人はとても優しくてわたしは大好きだ。


今日も部活が終わって校門前で部長と別れた。今日は部長は張り切っていて、こんな陽気の良い日はショートショート100本ノックじゃーとか意味不明なことをいっていた(これは地球人でも意味不明なはず)結局7話読んで終わったけれど。明日はリベンジだって。いったい何にリベンジするのやら。

そんなことを思いながら歩いていると視界の端っこに何か光るものを感じた。でもわたしの苦手な光とは違う。不思議な温かさを感じた。


--神社の方だ。そう思いわたしは近づいていった。

北斗神社はほとんど人の訪れることもない寂しい神社だ。普段は通り過ぎるだけで気にも留めない。その境内にその光る物体がみえる。。いやただの物体じゃない。人?女の子?

小さな女の子が境内にすわっていた。ボーっと光りながら。不思議と恐怖感は無くとっさに近づき話しかけてしまった。

「あなたも宇宙人なの?」

女の子はわたしをじっと見た。

「……も?」

不思議そうこちらをみている。わたしも不思議そうに女の子を見ていた。それからどのくらいたったんだろう?

「そういうことか」

そういうと女の子はふわりと浮いてわたしの頭に手を置いた。


その瞬間、頭の中で大爆発が起こった気がした。フラッシュのように目がチカチカする。少しずつスーッと頭がすっきりしてきた。霧が晴れたようにわたしは記憶を取り戻した。というか記憶が失われていたことを思い出した。そうだ、わたしたち家族は事故に遭って……わたしだけ生き残ってしまって……わたしはそれを受け入れられることが出来なくて……記憶を総て封印して……

気が付くと涙が溢れてきた。女の子は私の方を見て言った。

「わたしはショートショート読まないよ」

そういってニコっと彼女は笑い、そして消えた。


次の瞬間、わたしは走り出していた。次々溢れて来る記憶に頭がパンクしそうになりながら。そうだ、ショートショートが好きだったのはわたしだったんだ!小さいころから皆の前でショートショートを読んでは”うちゅうじん”なんてあだ名で呼ばれていた。そうだ、だからあの人はわたしの記憶が戻るように毎日毎日……


いた!息も絶え絶えだったが叫ばずにはいられない

「部長--!」

わたしの声に驚いた部長が振り返った。

「わたし…わたし…人間じゃないですかー!」


部長は一瞬とても嬉しそうな顔をした。けれどもすぐにいつものようなイタズラっぽい顔で笑いながら言った。

「そうだよ。自分自身にまでどんでん返を用意するなんて、どんだけショートショート好きなんだよ」


わたしは部長の胸に飛び込みながら言った。

「もう!だからショートショートなんて大嫌い!」



2015.8.22


うーん、これショートショートかな?

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