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訳あり物件

今回は短めです。ショートショートらしいといえばらしいですね。

「いらっしゃいませ。本日はどのようなご要件でしょうか?」

不動産屋の男の落ち着いた声に客の男はおずおずと答えた。

「あの、今住んでいるアパートが取り壊しとなりまして。もうかなり長く住んでいて自分の身体の一部のようで離れ辛くて。それでギリギリまで粘っていたのですが、いよいよ期限が迫って来てしまいました。なにか良い物件はありますか?」

「そうでしたか。それでは急いで新居を探さなくてはいけませんね。何かご希望はございますか?」

「お恥ずかしいお話ですが予算が無くて、少しでも安い部屋であればそれに越したことはありません。多少問題があっても文句は言いません。」

漠然とはしているがとにかく安い物件ということか。ここで気になるのは安ければどこまで妥協出来るのかという事だ。不動産屋がどう尋ねるべきか考えていると察したように客の男はボソリと言った。

「安ければ訳あり物件でも構いません。ただ静かに暮らせれば良いのですから。」

成程、それなりの問題には折れてくれそうだ。それならばと不動産屋は訳あり物件のリストを端末で検索する。

「最近はマンション、アパート共に希望者が多くて空き室を探すのは一苦労なんですよ。」

「やはり、そうなんですか。知り合いでも探すのに大変苦労したと言っていました。景気が良いのですね。」

「そうなんです。ただ訳あり物件というのも意外なんです。食べ物などでも多少形が崩れただけで訳あり品として低価格で提供され、人気があるのと同じです。最近ではそういう物件を専門にしている業者までいるようです。もちろん弊社もお勧め!というと変ですが、そう言ったお客様向けの訳あり物件を取り揃えておりますのでご安心ください。」

「たしかに訳ありの食べ物は安くていいですね。形がいびつでも味は同じですから。中にはわざと訳あり状態にして売る業者もあるとか聞いたことがありますよ。」


不動産屋はリストアップした物件に関するファイルをいくつか机に並べて男に説明を始めた。

「こちらは、周りの入居者の方も静かで比較的新しくて綺麗です。しかし隣の家が犬を7匹も飼っておりまして……」

「吠えるんですね。」

怯えた客の表情に不動産屋も苦笑いをする。

「犬が大好きで一切気にしないという方にはお得なんですけどね。」


次は、と指した物件はやや古いが間取りも広く立地条件も良さそうであった。

「こちらはどんな訳あり物件なんですか?」

「こちらのアパートの住民の方で一人、霊感があるという方がいらっしゃいまして。その方がよく、御騒ぎになりまして……」

客の男は合点がいったように頷いてから即座に「他にはありますか?」と聞いた。


訳ありでも言ったがやはり霊感のある人間や自称霊能力者、お札が張り巡らされた部屋には難色を示すこの客に不動産屋も困ってきた。だが何度が条件を変えて検索をかけているとちょうど新着で物件情報が入ってきた。

「こちらはどうでしょう?たった今、情報が入ってきました。立地条件も良いですし、部屋も広い、築年数も割と新しいですよ。」

難色を示し続けることに申し訳なさそうにしていた客も乗り気なようで思わず身を乗り出す。

「なかなか良いですね!これで訳あり物件なんですか?いったいどんな?」


「こちらはいわゆるパワースポットと呼ばれる場所に偶然建てられたアパートで非常に空気が澄んだ聖域といっても過言ではないほどの場所です。うっかり成仏してしまう危険性があるお客様にとっては訳あり物件ですが、如何でしょう?」


「なるほど!これなら大丈夫です。今更、成仏などする気もありませんからね。いくら澄んだ環境でもわたしには関係ありません。是非契約させてください。」

こうして契約が交わされた。このアパートは後におとなしい幽霊がでるお得な訳あり物件として、人間向け不動産屋にも重宝されるのであった。


2016.6.5

読んで頂きありがとうございます。

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