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浮気代行

【R-15】浮気の話なので不愉快な方は閲覧注意

「浮気代行?」


いきなり意味不明なことを言われてしまい、素で怪訝な表情を作ってしまったかもしれない。しかしこの男、仕事上の取引相手なのだから露骨に否定するわけにもいかない。とりあえず穏やかに話をかわす。

「いやいや、いったい何をおっしゃっているんです。それよりこの契約の件ですが……」


「----以前一緒に来ていた女の子、可愛らしかったですねぇ。あの娘まだ新人ですか?いいですねぇ。男ならどうです?モノにしてみたいと思いませんか?」

どうやら話題を変える気はないらしい。その下卑た話し方に嫌悪感を覚える。しかしこの男の言っていることはあながち間違ってはいない。以前この契約の席に同席させた娘は昨年入社した娘で高校を卒業したばかりの18歳だ。明るく器量もよい天真爛漫なその娘のことが気にならないといえば嘘になる。ここは一つノリを合わせておこう。男社会では珍しいことではない。

「いやぁお目が高い。しかしあんな若い娘からすれば私などおじさんですよ。それに浮気の一つも出来るほどの度胸も甲斐性もありませんよ。ははは……」

「そ・こ・で!代行なんですよ」

男が身体をずいっと乗り出し熱っぽく語りだした。

「なぜ人は浮気をしたがるのでしょう?オスの種を撒く本能と言ってしまえばそれだけの話ですが、女だっていくらでも浮気はするし性欲だけならばいくらでも解消方法はある。思うにそれは結婚をしても自分は魅力的なのだという実感が欲しいのではないでしょうか?結婚生活をしつつも秘密が欲しい。相手を自由にしたい。そんなスリルほど興奮を高めてくれるものはありません。しかし実行するにはあまりにリスキー。不自然に帰りが遅くなったり、余計に金がかかってしまう。興奮と背徳感から挙動不審になり、疑われてしまえば気の弱さと後ろめたさからひとたまりもない。そうではありませんか?逆に言えばそれらが解消されてしまえばどれだけの人間が伴侶一筋と言い続けられましょうか?」

男が口から泡を飛ばし、まくしたてる姿に圧倒されつい聞き入ってしまう。

「はぁたしかにそうかもしれませんねぇ。だが……」

「そこで浮気代行業です!」

男は自信たっぷりに宣言した。俺はいささか呆れてしまった。

「代わりにあんたが浮気してくれますって訳?くだらない。それに何の意味がある?」

だが男は自信を崩さない。

「そう!私が浮気を代行します。すべてあなたの指示通りにね。もちろんその間の動画や写真、さらに詳細なレポートがすべてあなたのもとに届きます。あなたは普段通りに過ごすだけで会社の女の子を自由にできるのですよ。あなたのような冷静で先を読んで行動するタイプの人がご自分で浮気できるとは失礼ですがまったく思えません。ただでさえ同じ会社の女の子などリスクが高いのに。目的を果たしつつもリスクヘッジは忘れない。ビジネスの基本ですよ。」


--たしかにそうかもしれない。俺は昔から人からまじめだ、冷静だと言われ続けて生きてきた。しかしただ単に気が弱くて何もできないだけだ。平然と浮気や不倫をしている奴らを軽蔑しつつも心の底ではうらやましく思っていたのかもしれない。だが人の性格は変わらない。きっと俺はこのまま浮気をすることもなく妻以外の人間とセックスをすることもなく人生を終えるのだろう。もちろん妻は愛している。しかし…


「万が一ばれたとしてもあなたの名前が出ることは絶対にありません。料金もこの程度です。十分にお小遣いの範囲内でやりくりできると思いますよ。」


気が付くと俺は男と契約を交わしていた。まったく本来の契約より上手くまとめるじゃないかと内心苦笑した。同時に誰にもばれてはいけない秘密が出来たことに気持ちが高揚しているのを感じていた。


最初の数日は何も様子は変わらなかった。その後、例の女の子の化粧が日増しに濃くなっていくのが見て取れた。その変化を見て俺はドキドキせずにはいられなかった。男から最初のレポートが届いた。食事に誘われた彼女の様子、男が既婚者だと知った際の反応。(男も既婚者なのか?それともリアリティを出す為の設定だろうか?)どのように撮影しているのかは知らないが、動画は鮮明でまるで実際に彼女とデートをしているようだった。


結局男は彼女と不倫関係を始めた。あの天真爛漫な娘でも不倫などするのかと意外であった。デートはあそこで、映画はあれを、などと私が指示を出すと男はその通りにことを進めた。代金は3割負担。医療費と同じかなどとくだらないことを考える。彼女と次第に親しくなっていく様子が手に取るようにわかる。会社ではいつも通りに振る舞って彼女がプライべートではあんな表情を見せているのだ。ことはトントン拍子に進んでいった。キスはもちろんその先の行為もだ。自分の欲望の赴くままにあんな行為もこんな行為も行う。その様子がすべて動画で自分のスマホで観れるのだ。その背徳感、万能感に俺は酔っていた。社内でうっかり彼女に馴れ馴れしくしてしまいそうになり慌てて平静を装ったりしたものだ。


だがそんな行為も半年を過ぎるとだんだんと飽きてきてしまう。人間勝手なもので不倫などしつつも社内では相変わらず良い子を演じている彼女を軽蔑さえするようになっていた。すると段々と不満がたまってきた。結局俺はモニターを通してこの娘の行為を見続ける事しか出来ないのだ。男に金を払って浮気をさせることに違和感を感じずにはいられなくなってくる。そうだ俺の魅力で彼女を虜にした訳でもない。彼女が男とよろしくやっているのを出歯亀として覗いているだけだ。契約時は理屈と勢いで説き伏せられてしまったが、まったく浮気のアウトソーシングなどバカバカしいことはあるだろうか?

--俺は契約を打ち切ることに決めた。


契約終了を打ち明けたが男のリアクションは意外なほど小さかった。

「そう言われるのは時間の問題だと思っていましたよ。」

男の反応に違和感を覚えた俺は男を問いただした。男は相変わらず自信たっぷりに語りだした。

「我々は似た者同士です。小心者で何をするにもそれらしい理屈で自分を納得させないと行動できない。浮気をするのまで尤もらしい理屈をつけて安全圏を作りたがる。しかし所詮は砂上の楼閣のような理論です。欲求不満はすぐにつのります。何も言わなくてもわかりますよ。私もかつてはあなたのように浮気代行を依頼していたのですから。まったく我々はくだらない存在ですよ。そしてその先は……おそらく言わずとも同じ結論に至るでしょう。」

自嘲気味に笑い。男は去って行った。


同じ結論の意味は分からなかった。結局俺は人の心などわからないのだろう。仕事ばかりしてきたからだろうか。そうだ思えばいつも仕事を言い訳にしてきた。どんな辛いことも理不尽なことも、後ろめたいことも「仕事だから」の一言で自分を納得させる事が出来た。家族サービスが出来ないこともすべてこの一言で罪悪感を軽減できたのだ。まるで魔法の言葉だな。ん?魔法の言葉?……そういう事か!


俺は取引相手の中から、社内の女に気がありそうな既婚者を探し出した。そんな男いくらでもいるので難しいことではない。人間とは所詮自分のことしか考えていない。自分の罪悪感さえ解消できれば何でもできるのだ。そしてその罪悪感を消し去る魔法の言葉がある。

--仕事だから

つまり自分の欲望。罪悪感を伴う欲望を仕事にしてしまえば良いのである。一見相手のリスクを引き受けているように見せて実はこちらの罪悪感をアウトソーシングするのだ。まったく完璧な理屈だ!


俺は取引相手の男に隙をみて話を振った。大丈夫、この男も俺と同じタイプだ。失敗しても冗談でごまかせる。


「浮気代行に興味はありません?」


※冒頭に戻る


2015.08.16

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