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夢を売るならDREAM OFF!

もっとペースが上げて投稿したかたのですが、なかなか難しいです。お楽しみいただければ。

「いらっしゃいませ!ドリームオフへようこそ!」

必要以上に大きな声が客を迎える。


--また来てしまったな。そう思いながら私は店内を物色した。

最近どんどんと店数を増やしているこのドリームオフは夢の再利用をうたったリサイクルショップだ。始めてこの店を見つけたときは意味が分からず戸惑ったが、気が付けば毎週末通っている私がいた。


さて今日は何を買おうか。壁一面に斜めに突き刺さったボトルの側面にはそれぞれラベルが張られている。いわゆるリサイクルショップなのでやはり一昔前の流行りモノが多い。ミュージシャン、サッカー選手、お笑い芸人、カリスマ美容師、フィギュアスケート選手、etc

新入荷コーナーには歌い手やユーチューバーなんてのもある。


「なんだ流行りのばっかだなぁ」

「まあなぁ本当に古いものは古夢屋で買うもんだからな」


中年男性二人組の会話が聞こえてきた。古夢屋なんてのもあるのか。

先週買ったプロ野球選手の夢は良かった。まったく野球に興味が無かった私が毎日ナイターを見て、バッティングセンターに通いプロ野球カードを集める日々は非常に不思議で新鮮な感覚だった。むろんあくまで夢みる力が付くだけであり、野球の実力が付くわけではなかったが。


「ええっ!この夢は買い取ってくれないんですか?」

買い取りカウンターの方で男が店員に詰め寄っていた。酷く神経質そうな顔で何か追い詰められている様子だ。

「むかしから僕は画家になる夢に取りつかれてしまっていて、もう疲れてしまったんです。どこにいても常になにか描かずにはいられない。それも禍々しい絵ばかりでとても商売にもなりそうもない。それでも描くことから逃れられないのです。どうか買い取ってください。どんなに安くともかまいません。」

なおも食い下がる男に店員は申し訳なさそうに返答していた。

「申し訳ありません。お客様がお持ちのものは夢ではなく、(ごう)となります。こればかりはご本人から切り離すことがなりません。」

男は落胆したように帰っていった。


気を取り直して再び夢を物色する。芸能人いわゆるモデル、タレント、ミュージシャンは若い頃は夢見がちだが大人になるとなかなか持てない夢だけあって人気のようだ。ボトルの蓋を開けて中の香りを楽しむ、いわゆる”立ち夢"をする客も多い。私もミュージシャンのボトルを手に取り蓋を外す。そこには塩やコショウのビンのように小さな穴が無数に空いていて夢の香りを楽しむことが出来る。香りをかぐと音楽への興味ががぜん沸いてきた。だがそれは楽器をやりたいとか音楽理論を学びたいというよりは、とにかく歌って目立ちたいという気持ち、いや衝動だった。いわゆうる『バンドメンバー募集。当方ボーカル。それ以外募集中』という奴だな。苦笑しながらもこんな気持ちも久しぶりで案外いい気分であった。ボトルをみるとやはり低価格コーナーのものであった。


「ええ!品切れなんですか?」

向こうから女の声がした。子供連れのようだ。

「ラグビー選手の夢が売り切れなんて、ちょっと前まではわりとあったはずなんですが」

店員は申し訳なさそうに返答していた。

「はぁどうも最近一気に人気に火が付きまして。当店としても高価買取中なのでが。」

どうもあの母親は子供をラグビー選手にしたいらしい。

「わかりました。では素粒子物理学者の夢はあります?」

……どうやらミーハーなだけらしい。数か月もすればいくらでもボトルが並ぶだろうに。


他人の夢事情にはついつい気をとられてしまう。むしろそんな夢事情を聴きたくて来ているのかもしれない。私も十分にミーハーなのだ。

しかしこんなにたくさんの夢が毎日売られるようになったのは何故なのだろうか。私が子供の頃も夢を持てと言われ続けていた気がする。勉強の原動力として、進学のために、就職のために。


「お!これよさそうじゃん。天文学者!」

スーツを着込んだ若者たちがガヤガヤと夢を物色している。

「そんな柄かよ。サラリーマンとかどうよ。子供がウケ狙いでいう奴だ。」

「実際はそれも難しいんだけどなー。でも合コン向けじゃあないぞ。」

「俺は来週就活で面接あるんだよ。もっと堅実っぽい夢持ってかなきゃ」


そうか。いつしか夢も何か自己啓発的な目標の為のツールのひとつになってしまったんだ。働くため、モテる為、個性化の為のツールに。そして粗製乱造された夢がここで売られている訳だ。そう思うと私は暗澹たる気持ちになってしまった。


そんな事を考えながら無意識に手に取ったボトルの香りをかぐ。今までと違う感覚。なにか懐かしい気持ちだ。瓶のラベルとみるとそこにはこどもの字で『まんが家』と書かれていた。

そうだ。わたしも小さいころ漫画家を目指していたことがあったっけ。絵が下手な私は周りに笑われるのが恥ずかしくてすぐに放り出してしまったんだ。だが、この気持ちは……


--これ買っていくか。


私は先週買ったプロ野球選手の夢を下取りに出し、まんが家の夢を買うため差分額を払った。

ただのツールと化した夢か。それの何が悪いのだろう。大仰に構える必要はないのだ。いい年して園児並の画力しか無い私だが帰りにペンと画用紙を買って帰ろう。なにかに踊らされて持たされた夢たちがこうして再利用されていく。きっとそれで上手くいく奴もいるのだろう。


気楽に夢を楽しもう。もはや失敗しても放り出してもいいのだ。なにしろドリームオフも言っているではないか。


『飽きたらまた、お売りください』と。


2015.10.23

もう少しコメディ色を出せるようになりたいものです。

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