DV
結婚は焦る必要は無い。周りもそういってくれるし女も自分でそう思っていた。
だが実際にかつての同級生が結婚したと聞くと何か自分だけが取り残されたような心持ちで、出来る事なら早く良い結婚相手に出会いたい。いや一日でも早く。1分でも早く。と日に日に思いは募っていた。つまり焦っていたのである。
女はいつものように週末はバーで一人で飲んでいた。むろんお酒は好きであったが、はやり誰かいい人との出会いなどが無いかという気持ちもあった。
「隣いいですか?」
そう話しかけてきたのは女と同じくらいの年齢の男だった。爽やかなスポーツマンといった風貌で明るく溌剌と話すその男に女は好感を持った。話も弾み、意気投合した二人は毎週末に飲むようになり休日も二人で遊ぶようになった。女は男への好感が高まっていくのを感じた。特に男の仕事が公務員であるという事に惹かれた。仕事の安定はなによりも重要であり、見た目も悪くない。性格も男らしく自分を引っ張てくれる。世間体を重視する女としてはこれ以上ない相手である。
「付き合ってください」
そう男が行った時も女は快諾した。これで人生はバラ色だ。
だが次第に女には引っ掛かることが出来てきた。スポーツマンである男とはテニスやボーリングなど体を動かすデートが多かった。女がもっと上達したいというと男は情熱的に教えてくれるのだが熱が入り過ぎると思う事が増えてきたのだ。
「なぜうまくできないんだ!」「俺の教えたとおりにやれ!」「やる気があるのか!」
と怒鳴り散らすことも増えてきた。女は嫌気がさしてもうスポーツはいいといったが男は途中で投げ出すのは良くないといって止めさせてくれなかった。
ある時女は女友達とその彼氏そして男と一緒に遊びに温泉に出かけた。出先では定番の卓球を行う。それぞれのカップル同士でチームを組んで試合を行ったが女のミスが多く負けてしまう事が多かった。男はそのたびに負けた方が腕立て伏せをするというルールを作り連帯責任だと女と共に腕立て伏せをし続けた。相手方はたかが遊びなんだからそんな事しなくていいよというのだが、遊びといえどもルールだからと止めることは無かった。
デートは次第にスポーツやダーツ、ボーリングやカラオケすべてが練習のようになってしまった。男の指導は厳しくなる一方であった。ついに女がうまく出来ない時ややる気が無い時は鉄拳制裁として暴力に訴えてきた。初めは信じられずショックを受けた女も次第に自分の努力がたりないせいではと思うようになってきた。
それだけではない。ある朝女が朝眠っているとチャイムが鳴り響いた。驚いてドアを開けると男が立っていた。
「おはよう、朝練をしよう」
仕事を終え疲れて帰宅すると家で男が待っており
「おかえり、さあ練習だ。」
そして少しでも不平を漏らすと、容赦なく拳が飛んできた。
あまりの練習量と暴力に耐えかねた女は女友達に相談した。女友達はそれは明らかにDVであり別れるべきだ。いやそれだけでは足りない、訴えるべきだ。知り合いに弁護士がいるから助けてもらおうと言ってきた。
そして女は男を訴えることにした。
男はメールで別れる旨の連絡をよこし、ついに解放されたと女はホッと胸をなでおろした。
ドンドン!
翌日ドアを叩く音で目が覚めた。いったい何なのか。そう思い外をみると女が数名立っていた。ドアを開けると女たちは一様に怒鳴りだした。
「あんたが男を訴えたのね!どういうつもり?私たちはあの人のおかげでこんな立派になれたのに。」「あんたみたいなひ弱な人間の甘えのせいであの人が職を追われるなんてゆるせない」「訴えなんて取り消させてやる!みてなさい!」
女はあっけにとられていたが、男の元カノか何かであの練習で洗脳でもされているのだろうと思いかかわらないようにした。だが女への批判は高まりついには署名活動までが開始された。署名の数はかなりの数に上っているという。なぜ男のDVがそこまで支持されるのかはわからなかったが皆、自分は立派な人間であると疑わずそれは男のおかげだと口をそろえた。中には自分の青春を汚すなという者までいた。
訳が分からず事態を弁護士に確認した女は自分が男の職業が公務員だというだけで浮かれてそれ以上を聞いていなかった事を後悔した。
男は暴力的指導で有名な体育教師だったのだ。
完
15.09.20
こういう事あるらしいですよ。怖いですね。




