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失われた未来を求めて

同タイトルのアニメ・ゲームがありましたが、一切関係ございませんm(_)m

仕事帰りいつもの道すがら男はふと一軒の建物の前で足を止めた。

--こんな建物あったかな?

小さな雑貨屋のような建物にはぞんざいな看板が掲げられていた。

その名は「未来館」……こんなダサい名前今どき珍しいな。まったく未来を感じさせないじゃないか。インチキ臭い胡散臭い。大体何なんだ。こりゃ店なのか?

だが半開きのドアからキラキラと輝く球体のようなものがいくつか見ると男は引力で惹きつけられるように店へと入っていった。

狭い店内は窓もカーテンで遮られており薄暗く、埃っぽい。それを除けば展示会場のような内装である。

展示台の上には水晶玉のようなものが所狭しと並べられていた。一つ一つの中で色とりどりに何かが渦巻いている。

いったいこれはなんだ。

「お気に召しましたか?」

突然後ろから声をかけられた。男が振り向くと女が立っていた。ビシッとスーツを着こなし店に似合わぬデパートの店員のような出で立ちであった。年は20代後半といったところだろうか。整った顔立ちと上品な雰囲気が余計に店に似つかわしくなく、なんとなく辺りから遊離していた。

男は瞬間的に詐欺か何かと思った。某秋葉原などで絵を売りつけている手合いどもみたいなものか。と身構える。

「この店は未来館といいます。かつて人々が夢見た未来を体験できるのです。」

これはいよいよ胡散臭くなってきた。テーマパーク的な発想なのだろうがいかんせん、20畳もないようなせまい店内なのだ。何が出来るというのか。

「いや、体験と言ってもねぇ」

「実際に体験していただくのが一番です!」

と強引に話を進められる。

この球体に触れてみて下さい。そう言われた男は言われるがままに手を近づける。すると意外な事にその球体は実体が無かった。ホログラムのようなものか。触れる事が出来ず手はその中に取り込まれた。水晶のような物体だと思っていた男は驚き手を離しそうになるが女から決して手を離さぬように言われなんとか留まった。

「それでは目をつぶってください。そして心の中でゆっくりと3つ数えてください。」

半分やけくそで言われるままに目をつぶる。バカバカしいと思いながらもゆっくりと数を数え始めた。すると世界がグニャリと歪むような感覚に襲われた。軽いめまいにかと思ったがとにかく3つ数えた。女からの指示はない。だが周りが騒がしい気がする。男はゆっくりと目を開けた。

「あっ」

そこは巨大都市の中であった。それもただの都市ではない。人々は皆全身をぴったりと覆った珍奇な格好をしており、上空を見上げれば透明なチューブ状のトンネルのようなものが張り巡らされており、その空間の中を空飛ぶ車が走っている。

いったいなんだこれは?まるで昔の漫画に出てくる世界ではないか。思わず離してしまった手元を見ると、件の球体が宙に浮いている。離れても大丈夫なのか?しかしここはどこなのだ。ハリボテにしても先ほどの店の狭さからは考えられないくらい広がっているようにみえるが……生来内気な男は不安になり再び球体に手を突っ込み目を閉じて3つ数えた。再び空間が歪むようなめまいに襲われた。

「いかがでした?」

女の声に男は目を開けた。

「いやまったく驚いた。これはいったいどういう仕掛けなんです?」

「仕掛けなんてそんなつまらないことどうでもよろしいではございませんか。ここではあらゆる時代のあらゆる人々が夢見た理想の未来を体験することができるのです。お客様が気に入る未来もきっとございますわ。さあ他にもいろいろご覧になってください。」

男は言われるがままに次々と球体に手をかざしていった。飢えも戦争も無く人類がすべて同じコミュニティで暮らす世界。人間は全裸で自然と調和し優雅に暮らす世界。老いも病気もない世界。男は一人だけで残りはみな女の世界。その逆の世界。念じるだけでテレポートが可能な世界。宇宙ステーションやスペースコロニーで暮らす世界。すべてロボットにまかせて遊んで暮らせる世界。馬車がロボット化された世界。等々。

「なるほど、どの世界も面白い。しかしどうも古臭いね。私の青春は1990年代だったんだ。あの頃の人々が夢見ていた未来はないのかい?」

「それでしたらこちらのコーナーになります」

女が案内した個所にはいくつかの球体が用意されていた。その中でひとつ一際黒く禍々しい雰囲気の球体があり男はそれに瞬間惹き付けられた。それはエロティシズムと言ってもいい激情であった。

「これだ!これこそが私の求めていた未来だ!どんなものかわからないがとにかく惹きつけられるんだ」

「え?それですか?それはあまり……」

「いや!これだ。ピンと来たんだ。これしかないよ!」

そういって渋る女を無視して男は黒い球体に手を翳した。

1,2,3……


気が付くと辺りは真っ暗であった。真っ暗であるが感覚的に何かが周りで蠢いているのが分かった。なんだろう、この世界は。まるで何も見えない。だけど感覚的にだけ辺りに沢山のものがいるのが分かる。次の瞬間、空から何かが堕ちてきた。といっても世界は相変わらず真っ暗でそれも感覚でわかるに過ぎない。上空を総て覆うように落ちてきたその物体を感じ取り。男は大きな絶望と諦念そしてわずかな安堵感に包まれた。そうか。そういうことか。あの予言だ。これこそ俺が望んでいたことなのだ。男がそう悟った瞬間今まで大地だと思ったいたものは消失し男は空から堕ちて来るものと同化してどこまでもどこまでも堕ち続けていった。球体ははるか上空となり見えなくなった。


--はぁ。これは1999年に世界がすべて滅んでしまうという未来。ある種に人々には世界がすべて消滅してくれることだけが希望であったの。あの人も心のどこかでそれを望んでいたのね。

哀しげに佇んでいた女はやがて店の奥へと消えていった。


そして再び未来館は静寂に包まれた。



2015.08.12


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