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予知

作者: カザリ栞子

空が晴れていてうっとおしいなんて思った事がある。目を突き刺す光の向こうに輝く未来などない。今朝コンビニで安定のマスカット水を買ってものの1分で飲み干した。身体は30を過ぎてからボロボロだ。春休みに入ってから部屋を出たのは実に2週間ぶりで、外界とはこんな所だったかと身体中で感じた。ぼーっとしながら歩道の狭い地元の街道を歩いた。トラックが横切る度に風の勢いで車道に吸い込まれそうになる。携帯を弄りながら歩いていると目の前に赤い車が突然現れた。時間が止まったかと思ったが、それはゆっくりゆっくりと進んでいた。赤い車のナンバープレートと私の膝からすね辺りがぶつかる。膝下と太腿は普段は繋がっているが、互い違いにそれが少し離れていくのが分かった。ボンネットに手を着いて衝撃を和らげようとするも、ゆったりとした時間の中では身体もゆったりとしか動かなかった。身体の制御が出来ないまま、運転手の酷い顔面を見た。その中の眼球には、どこか切羽詰まった様な、はたまた人生に悩んでいる様な、はたまた彼女へのプレゼントを思い描いている様な、そんな幾つもの思いが見え隠れしていて、上の眉を吸い込んでしまおうととてつもなく傾けていた。フロントガラスが私の右側の頭を舐めた。頭蓋骨と皮膚がゆっくりとずれていく。卵の薄い皮が丸まる、キュウイの皮がずれて果汁が飛び出る、そんな様な滑らかさ、爽やかさがあった。膝から下の骨がバラバラになっているのが分かる。おおおおと思ったが、それと同じ様にフロントガラスがチリチリとヒビを走らせ砕けていく様の方が美しかった。視界は左目だけしかなく、斜めから見るそのガラスは、匠の仕業の様に美しく砕けていった。視界がだんだんと回り、私の身体は天地が矛盾した。車の屋根に左の腰骨が当たり摩擦し滑った。下半身の感覚はそれが最後で、その後私の物では無くなった。指の長い自慢の手は各自バラバラに明後日の方向を向いていて、身体の右半分はだんだんと感覚を忘れていった。いつまでもこのスローモーションが続けばいいのにと思った。運転手の顔は白い丸い風船のような物で見えない。あの酷い顔面よりも酷い表情を拝みたかったが叶わずだった。走馬灯という現象を聞いたことがあるが、思い出など一つも出てこなかった。実際に起こっている目の前の景色だけが見えていた。それはきっと走馬灯よりも美しく尊い絵だった事だ。気がつくと私はボンネットの上に舞い戻っていたが、少し前までの自分の姿はなく、おかしな面白い標識の様な格好をしていた。何故か全身の感覚が戻っていたが、その景色を少し上の空から眺めていた。


はっと気付くと、私はマスカット水を飲み干した所だった。とんでもない妄想だった。かっこ笑いである。私は自身が疲れているんだと思い、少しだけこの晴れた空の下を歩こうと思った。

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