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●第73話(謀)

「ふんふんふんっと………あっ!」

「ふう、到着!」

「ようやく、この呪いの道具と離れることができるな…」


 フリギアのお屋敷に戻って、早速鼻歌交じりで庭を掃除していたアザレアさんを発見。

 門を開けた音に気付いて振り返ると、激しく手を振ってくれる。


「ぼっ…フリギア様、シアム君! お帰りなさいませ! そのお荷物、首尾は上々のようですね!」

「ああ、帰った」

「ただいまアザレアさん! 庭の掃除、してたの?」

「はいっ!」


 箒を握ったアザレアさんは、返事と同時に勢い良くそれを突き上げ……空気を裂く、鋭い音がしたような。


「あれ……?」

「どしました?」

「う、ううん! なんでもないよ」


 きょとんとしたアザレアさんに、首を振っておく。いやはや僕としたことが、すんごい物騒な空耳が聞こえたもんだ。

 一方で箒を構えたアザレアさん、嬉しくて堪らないとばかり、満面の笑みを背後に広がる庭に向ける。


「ここしばらく、ご実家の手入れしかしてなかったので、身体が鈍って鈍って! お庭なんて、お掃除しておかないとすぐ汚れちゃいますから!」

「十分綺麗に見えるけど?」


 すぐ汚れるって、別に汚れてる場所もないような?

 どこが汚れてるのか目を向けても、分からない。ちょっと前まで放置されてた…とは思えないほど手入れが行き届いてる、気がするけども。

 だなんて伝えれば、アザレアさんは箒をぶんぶん振って、喜びを表現してくれたり。


「お褒めに預かり恐縮です! でもまだまだ! もっともっと綺麗になりますよ!」

「そうなの?」

「はいっ!」


 むむむむむ…僕が見た限りじゃ葉っぱ一枚落ちてないし、植えられた木々も丈が揃ってるし。これ以上どこを掃除するっていうんだろ?

 それとも、僕には綺麗に見えるけど、見る人が見たら駄目だって言われる状態なのかな? 


「俺が留守のときは人を入れぬよう、手を加えぬよう言っておいたのでな」

「そなの?」

「ええ、ええ! ですから荒れ放題で困っちゃいます」


 僕が一生懸命庭の粗探しをしてると、フリギアが補足…でもない説明を加える。


「へえ……でも、どうして?」

「それが聞いて下さいよ! 前、変な人入れたら、後が大変で大変で…!」

「大変? 何が?」

「色々とな。その辺りは、マンドラ様と同じだな」

「マンドラさん? えっと…」

「お前、まさかマンドラ様のことを忘れたと…」

「ち、ちがっ! 覚えてるよ! 失礼な!」


 突然出てきた名前に、一瞬誰のことを言われてるのか分からなかっただけだし!

 そ、そう、そうだ、思い……じゃなくて! あのマンドラさんだ。血塗れの鉄扇持ってたマンドラさん。


 確か、家で仕えてる人すら、自分に牙を向く可能性があるから信じてないわ、とかなんとか言ってたような…あれ? 違ったっけ? 多分そんな感じだったけど。

 ええと、でも、マンドラさんの場合はアレだし、万一があったとしても涼しい顔して対処しちゃうだろうから、説得力なかったような記憶があったりなかったり。


 ということは…お屋敷を任されてるサフォーさんとアザレアさん、フリギアに相当信頼されてるってことかな?


「…ってことかな?」

「何の話だ、と言いたいところだが、そうだな。サフォーとアザレアは十分信頼できる」

「えへんっ!」

「その上、大変優秀だ」

「えっへん!」


 フリギアの讚辞に、箒を地面に突き立てて胸を張るアザレアさん。とても雄雄しくて格好良い。

 その姿を見て、フリギアは苦笑する。僕は、そんなフリギアを見て驚く。


「め、珍しくフリギアが他人を褒めた!」

「珍しいとはなんだ。アザレアには主に外のことを、サフォーには中のことを任せている」

「そして、お食事は私が作ってるんですよ!」


 掃除も出来て、ご飯まで作れて箒を持った姿が格好良い女中さん。

 なんだろう、アザレアさんが輝いて見える。


「アザレアさん、凄いや!」

「そりゃもう! ワタクシ、出来る女ですから! 息子と遊ぶのも楽しいけど、フリギア様のお屋敷で働くこともやりがいがあって、楽しいでございますよ!」

「ほう。やりがい、か」

「ええ。やりがい、ですよん」


 苦笑度合いを強めるフリギアへ、アザレアさんはニヤリと悪い大人の笑みを見せ、おととと、と慌てて口元を隠す。

 そして、気付いたように手にした箒に目を向ける。


「では私はこれにて! まだ庭掃除が残っているので……ああ忙しい忙しい!」

「引き止めてごめん」

「いえいえとんでもない!」


 ではまた後ほど! と満面の笑みで首を振ったアザレアさんは、そのまま僕らに背中を向けかけて…振り返る。


「そういえば、先ほどレガート様の使者が来ましたよん。それで、お屋敷の中にいるおじい…サフォーさんにブツを渡したはずですので!」

「レガート様……ブツ……? あ! 杖の宝玉! アザレアさん、それ本当っ?」

「もちろんですとも」


 そうだ! レガートさんから、良い感じの宝玉貰うって約束してたんだ!

 昨日ぐらいのことだったのに、呪鉱石と精霊石たちのことで興奮しすぎて忘れてたや。


「お昼を食べた後にでも、サフォーさんから詳しい話を聞いて下さいませ」

「有難う! やったねフリギア! これで…」


 ようやく杖の作成に取り掛かれる! 振り仰げば、僕の何が面白いのかフリギアが笑ってたり。


「これで、引きこもり生活の準備が整ったな」

「……………」

「どうした? 嬉しくないのか?」

「いやさ、嬉しいけどさ。なんでそう、フリギアは一々嫌な言い方するの?」

「事実を言ったまでだが?」

「まあ、そうだけどさ…」


 折角の喜びが、減少するじゃん。

 忘れてたけど、僕の目の前にいるのはフリギアだ。いつでも僕への嫌がらせを怠らない、鬼のフリギアだ。


「ではでは! それではまたお会いしましょう!」

「あ、うん。ばいばい!」


 アザレアさんは微笑み、よいしょお! と箒を突き上げて庭掃除に戻る。


「箒っていうより、槍だよなあ……持ち方」


 その、逞しい後姿を見て、ついぽろりと言葉が零れる。

 僕の独り言だったけども、フリギアが聞いてたみたいで、頷いて続ける。


「そうだな。アザレアは息子と一緒に騎士ごっこをしているらしい。その影響だろう」

「なるほどなるほど騎士ごっこ……僕はいつも手下その一だったけど」


 余りものの役で、すぐやられる役。

 地面に這い蹲ってる時間の方が長かったのを思い出して、悲しい。


「お前らしいな」


 詳しい説明がなくても、僕がどんな扱いを受けたのか理解したみたいで、フリギアは軽く笑う。


「どうせさ、フリギアは正義の騎士様だったんでしょ」


 不貞腐れながら屋敷の中に入れば、背後から笑い声が聞こえる。


「よく分かったな」

「格差だあ」

「子どもの頃の話だ」

「ふんだ…ってうわっ? サ、サフォーさんっ?」


 フリギアの顔を見たくなくて目を逸らせば、そこにはサフォーさん。

 人形のようにきっちりと直立してて、思わず持ってた皮袋を、精霊石たちを落としそうになって血の気が引いた。

 気配もなんにもなくて、振り返ったらいたから、ホント驚いた…心臓に悪すぎる。


「ぼ…フリギア様、シアム様、お帰りなさいませ」


 驚いてあたふたする僕を見ない振りしてくれたサフォーさん、お屋敷の主たるフリギアに向け頭を下げる。

 それを受けた主様は……何故か笑いを堪えてる?


「ああ、帰ったぞ。サフォー、レガートから『ブツ』が届いたそうだな」

「『ブツ』ですか。ええ、確かに預かりました」


 調子を合わせたサフォーさんは、微笑みながら一つ頷く。フリギアの反応がおかしい、なんてことはどうでもいい。


「ねえ、それどこにあるの!」

「指示通り、シアム様のお部屋に。しかし『ブツ』とは…アザレアですな」

「彼女らしいだろう?」

「確かに」


 サフォーさんはフリギアと顔を見合わせ、笑う。

 今気付いたけど、サフォーさん執事服なのに、桃色のハタキと雑巾をその手に持ってるのが、物凄い合わない。


「もしかして、サフォーさんもお掃除中?」

「はい。フリギア様の帰還を聞き、数日前から屋内の清掃をしておりましたが、追いついていませんで」

「そう? ここも綺麗だけど…」


 戦闘の痕はどうしようもないとしても、お屋敷の中は塵一つないし、すんごく綺麗なんだけど。

 一通りぐるりと見回して視線を戻すと、サフォーさんはどこから用意したのか、ハンカチを目頭に当てていた。手に持ってたハタキと雑巾はどっかに消えてたり。


「一先ず目に付くところだけ丁寧に清掃しましたので。普段立ち入らない場所など、それはもう、お見せできるものでは…」


 大袈裟に首を振ったサフォーさん、およよよよ、と泣き真似をする。中々芸が細かい。

 ていうか、ハタキと雑巾はどこに…


「そう、なんだ。アザレアさんもそうだけど、サフォーさんも一人で掃除してるんだよね? 大変じゃない?」

「いえいえ。フリギア様に、そしてこのお屋敷に勤めるのは、ワタクシの生きがいですよ」

「生きがい…」


 ハンカチをしまい、アザレアさんと同じような、悪い大人の笑みを浮かべる。

 確かに生き生きしてるけど…すんごく悪い人に見える。


「サフォーも優秀だからな。シアム、こいつを部屋に運ぶぞ」

「うん、そうだね。じゃあね、サフォーさん」

「ええ。家具を動かして掃除をするので五月蝿いとは思いますが、ご了承を」

「え? あ、うん」


 何度見ても僕には手入れが行き届いたお屋敷に見える。

 だけども、サフォーさんはその穏やかな目に闘志を燃やして、桃色のハタキと雑巾を持ち直している。


 一体どこにハタキと雑巾を隠してたのか分からないけど、そのやる気だけは十分伝わったり。

 ………そこまで意気込むってことは、このお屋敷も見る人が見れば汚れてるのかな?


 だなんて考えながら、呪い鉱石を載せた台車を軽々持ち上げて、階段を上るフリギアを追いかける。

 追いつけば、フリギアは呆れたように階下へ目を向ける。


「しかし、これ以上掃除する場所などないだろうに」

「…………え?」

「アザレアといいサフォーといい、無駄に気合を入れおって」

「え?」

「何度同じ場所を掃除すれば気が済むのか。まったく、元気なことだ…」

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