表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/32

第72話(謀)

「こんなに早く材料が集まるなんて、本当にナントカ国って凄いや!」

「そうだな。しかしシアムよ…敢えて訊ねるが、お前は一体何を作るつもりなのだ」

「……へっ?」


 フリギアの家、もといお屋敷へと戻る途中で、唐突に訳が分からないことを訊いてくるフリギア。


 えっと? 何を作るつもりだ、って?


「えっ? え?」

「いやいい。なんでもない。聞き流せ」

「えっと……フリギア…?」

「すまん。愚問だったな」

「変なの? まさか、どっか調子でも悪いの?」

「いや…」


 奥歯に物がはさまったような言い方が、らしくなくて不審過ぎるんだけど。

 だなんてフリギアの顔を見れば、険しい眼光にぶち当たって即座に視線を逸らす。


 なんだろう、この、色々もやもやして仕方がない感じ。


 どう見ても僕が購入したのは杖の材料なのに、どうしてフリギアは何を作るかだなんて訊いてきたのか。

 フリギアが牽いてる台車に鎮座してる呪鉱石と、僕が持つ革袋に詰まった精霊石。

 この組み合わせで、他に何を作るっていうんだろうか。ううむ。


「お前はミノアを呪う、わけではないな?」

「…えっ? あ、うんうん! ミノアならどんなに呪われた杖でも、きっと平気な顔で使うよね!」

「どんな聞き間違えをしているのだ。俺は、お前がその道具を使用してミノアを呪うのではないか、と危惧しているのだが」

「だよね、やっぱりフリギアもそう思うよね。でも、これ以上呪力が詰まった材料っていうと、魔物の角とか悪魔の血を浴び続けた石とかで、手に入れるのが難しいからさ。そこは我慢してもらって」

「どうすれば、ここまで会話が成り立たんのか」

「そりゃそうだよ。魔物と会話なんて無理無理。悪魔なんて、僕会ったことないし」

「いや、だからな…」

「そう言うけど、フリギアも当然分かってるだろうけどさ、さすがに根性でどうにかなるものじゃないって」

「………」


 武器を持った一団が忙しそうに僕らの前を通り過ぎ、市場や屋台では世間話に花を咲かせる人たちが見える。

 遠くの方じゃ、高らかに楽器を鳴らす集団に人が集まり、皆、その音に聞き惚れている。

 子どもたちが我先に、と近くの公園に向かって駆け出す。そして、遠くから聞こえてくる、低い低い唸り声。


 いやはや、実に平和な光景…………………んっ?


「今! 今聞こえた! 同じ声! ほらやっぱり何かいる!」

「喧しい。突然叫ぶな」

「だってだって! なんか向こうから!」

「俺が理解できるように説明しろ。全く、何を見つけたと」


 明らかに、活気溢れる平和な城下町っぽくない唸り声が聞こえたんだけど! 


「いやおかしいって! フリギア、聞こえないの? 唸り声だよ唸り声! 昨日言った、アレ!」

「唸り声だと? いや、俺には聞こえなかった。どこから聞こえたと」


 聞こえただろう方向に顔を向けると、フリギアが耳を押さえて顰め面で見下ろしてくる。


 ていうか、そんなのどうでもいい。とにかく、その方角を指差す。


「多分、こっちから聞こえた、と思う」

「多分? 思う?」

「ええと! 兎に角聞こえたんだって! なんか肉食で凶暴そうな魔獣っぽい唸り声!」

「なんだ、その喩えは」


 今は日も高いし、晴天。前回とは比較にならないほど見通しもいい。

 だから、今度こそ魔獣っぽい唸り声を上げる何か、を見つけてフリギアを見返してやらないと!


「あの声だし、かなり大きな魔獣だと思ったりしたいんだけど…」

「魔獣? 小動物と間違えているだけでは」

「いやあ……あんな凶悪な唸り声をあげる小動物、いて欲しくない」


 呆れたような声から想像しかけて止める。それよりも、まずは唸り声の主を探さないと!

 って、魔獣どころか、野生動物の影すら見つからない。

 

「おっかしいなあ…」


 声は聞こえたのに。結構近くで聞こえたのに。でも、それっぽいのが見当たらない。

 さすがに諦めるしかない…本当になんだったんだろう?


 そもそも、僕に聞こえてフリギアに聞こえないというのが変だ。

 逆なら納得でき……したくないけど、するしかないんだけどなあ。


「お前のみに聞こえているようだな。幻聴、ではないのだな」

「違う。聞こえた。絶対に聞こえた」

「ああ分かった。分かったから拗ねるな」

「拗ねてないし。ふんっ」


 フリギアも僕と同じことを思ったみたいで、失敬なことを言いつつも一応周囲を確認してくれてたり。

 だけど、若干人間離れしてるフリギアでさえ、それらしい姿を見つけることは出来なかったっぽい。

 眉を寄せ、僕を見下ろしてくるフリギア。疑いの眼差しを向けられても、困る。


「やはりおらんぞ。聞き間違いではないのか」

「フリギアに断言されると、自信なくなってきた…けどさ、昨日の夕方も今日も聞こえたんだよ? そんな聞き間違いってある?」

「同じ声だったのか?」

「うん。なんか低くて、ゴロゴロ言ってて、怖い魔獣っぽい感じ」


 胸を張って答えれば、何故だかフリギアはがっくし頭を前に倒す。


「お前な……もう少し、正確な表現をしてくれ」

「失敬な! どこが不正確なんだよ!」

「本当に、本当に武器以外はからきしなのだな…子ども以下、か」

「なっ? ひ、酷い! 分かりやすい言い方したってのに!」

「事実なのだが……ああ、丁度良い。シアム、見てみろ」

「むっ。なんなのさ」


 フリギアは笑いながら立ち止まると、公園で遊んでる子どもたちに視線を向ける。

 うん? 四、五人の子どもが、男の子一人を囲んでるみたいだけど…?


「なあなあ? しってる?」


 囲まれてる男の子が、目を輝かせ、興奮した様子で手を握り締めている。


「え? なにを?」

「きかないほうがいいぜ。コイツ、またジマンしだすぞ」

「キツネがいるんだぜ! って言うんだぜ」


 一人がそんな男の子に聞き返すと、他の子どもたちは男の子が何を言うのか分かってるらしく、小馬鹿にした笑みを浮かべてたり。


「うるさい! オレ見たんだからな! カミナリみたいなこえの、おっきなキツネ! ここにすんでるんだぜ!」


 得意げに叫ぶ男の子。途端、周囲の子どもたちが一斉に口を開く。


「なんだよ、またかよ。こないだウソだって言ったじゃん」

「そうよ、またウソついて!」

「ウソついたらいけないって、かあちゃん言ってたぞ!」


 うんざりとした顔をした子もいれば、ほうらやっぱり、と馬鹿にしたような笑みを浮かべた子もいる。

 そんな全員に共通してるのは、男の子の話を信じていない、という一点。

 総攻撃を受けても、男の子は怯まず、拳を握って叫ぶ。


「ウソじゃない! オレ見たもん! 黄色くて、ながいヒゲがあって、シッポが二つもあったんだぞ! オマエも見ただろ!」

「うん……でも、すぐいなくなっちゃった」


 男の子が、さらに小さな男の子に返事を強制させると、他の子どもたちから非難の声が飛んでくる。


「あ、いじめた! そうやっていじめないの!」

「オレ見たんだからな! 本当だぞ!」

「そんなの、オレたち見たことないし! そんなのいないし!」

「ウソつき、ウソつき!」


 そうして、男の子と他の子たちが喧嘩し始める……一部始終を、フリギアは見ていた。

 勿論、僕も見ていた。


 僕と子どもたちを見比べて、薄笑いを浮かべるフリギアを。


「子どもの方が、シアムより優れていたな」

「いやいや! そんなことないし! そもそも、あれ、ウソじゃん」

「嘘だとしても、具体例をしっかり出してみせる子どもが、お前より優秀だという話だ」


 笑いを堪えながら、フリギアは歩き出す。


「む」


 そうですか、僕は子ども以下ですか!

 小走りでフリギアを追いかけ、抗議する。


「でも唸り声は聞こえたんだから! 本当だからね!」

「お前、先ほどの子どもと同じことを言ってるぞ」

「ち、違うし! 嘘じゃないし! 本当に聞こえたんだから! 本当だよ!」

「シアム、お前……」


 肩を震わせ…とうとう我慢できず噴き出し、笑い声を上げるフリギア。

 散々僕を馬鹿にするフリギアに、何か言い返さん、と意気込めば、雷鳴が轟く。

 むっとしながらも、空を見上げてみれば…


「晴れてるのに……やっぱ変なの」

「そうだな。原因は不明だが、実害がないようで放置していたそうだ」

「ただ、雷鳴がするだけだもんね。雷が落ちてくる、ってことはないんでしょ?」

「ああ。しかし、流石に調査をすると言っていたか」


 口元は歪んでいるものの、それなりに真剣な眼差しを空へ向けるフリギア。

 雷鳴は一度大気を揺るがしただけで、その後天候が急に変わる、とか雷が落ちてくる、とかはない。


「調査? みんな慣れてるみたいだし、五月蝿いぐらいで被害もないんでしょ? 別に放っておいてもいいような?」

「そうやって慣れた頃に、この音に紛れて何かを起こそうと企む者がいる、可能性もある」

「はあ、なるほど」

「最近は頻度が高くなってきたようだからな。警戒しないわけにはいかん」

「そうだねえ」

「お前にとっては他人事だがな」

「そんなことないって。うん」


 そうして、穏やかな日差しを受けながら、適当に会話しつつ、フリギアの家に戻る僕らであったとさ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ